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バレンタインの夜、甘くてほろ苦い物語に浸りませんか? 八木奈々さんが選ぶ“読む”チョコレートのような小説たち。それぞれの物語が持つ奥深い味わいを、タイトルの意味や装丁とともにじっくり堪能してみてください。新たな発見があるかもしれません。チョコレート片手に、心を満たす読書時間を……。
今夜はバレンタイン。
多くの人を魅了して止まないチョコレート。
そんなチョコレートの香りがする物語を通じて、バレンタインの夜をひとり、楽しんでみませんか……?
今回は、タイトルに“チョコレート”が添えられた、甘くてほろ苦い……だけではない、味わい深い小説を紹介させていただきます。
なぜこの物語に、このタイトルなのか……。
一度読んだ方も、まだ読んでいない方も、挿絵や装丁/タイトルの意味を考えながら物語の世界に向き合ってみてください。
今の自分にしか気づけない新しい発見があるかもしれません。
某有名映画の原作でもあるこの作品。
奇想天外、荒唐無稽なアイデアとワクワクする展開。大人社会の欺瞞と傲慢に対する痛烈な皮肉が同居する物語でもあります。
決して長くはない紙幅を、個性豊かな各キャラクターの描写にしっかり使っているため、感情移入が容易にできました。
工場に入るまでに結構なページを割いていますが、全く長さを感じず、むしろ私はそこが一番好きなパートかもしれません。
何よりこんな世界を思い描ける頭脳が欲しい……。何回読んでも、物語を知っていても楽しめます。
ウンパッパルンパッパたちの脚韻や訳者の講演部分で話されていた姓名の翻訳の仕方などのテクニックも、大人になった今、再読したからこそ気づくことができ、訳者の柳瀬尚紀さんが著書に書いておられた「日本語は天才だ」の言葉の意味を再認識できました。
読後、この世界の続きを想像して胸を弾ませる人は私だけじゃないはず。児童書ではありますが、大人にこそ響きます……何も考えずに手放しで楽しみたい夜にぜひ。
小さな町で暮らす少年が大人へ近づく冒険と成長を描いた本作品。
中盤からまさかの裏切りの連続……当初児童書として描かれたものなので、文章はひらがなが多く読みにくさもありますが、よくある王道少年探偵団ものとは大きく異なり、大人でも充分に楽しめます。
巧妙なトリックや唸らせる展開というのは多くないのですが、とにかくテンポが良く一気に読めました。
登場人物全員に裏があり、その裏の姿が明確になったとき、この物語は本当の顔を見せる……帯に書かれたこの言葉にこそ裏がある始末。
子供の頃にこの本に出会っていたらきっとミステリーを好きになるきっかけの一冊になったと思います。
“銃”と“チョコレート”……果たしてどんな関係があるのかと思いながら読み進めましたが、読み切った後にひと息ついて、納得。裏の裏のその裏まで緻密に考えられていました。
とにかく難しいことは考えず、童心に返ってこの作品を“純粋に”楽しんでみていただきたいです。児童書だからと侮ることなかれ。
まるで、金魚鉢の中で泳ぐ魚のように現状の閉寒感に息が詰まりそうだったり、何かしら生きづらさを抱えている登場人物たちが、悩み苦しみながら、そこから踏み出したり、あえてその場に踏みとどまったりしながら生き抜く強さを描いた全5作からなる連作短編小説。
その短編たちがどこかで繋がっているという一冊です。
どの話も“ただ生きる”ということの難しさを私たち読者に訴えかけてきます。
町田そのこさんの小説は柔軟剤が混じっているのではないかと思うほど、いつも読後は柔らかい気持ちになるのが印象的。本作品も本当に素敵な連作短編で繋がり方もすべての章での比喩表現も大好きでした……。
これがデビュー作というから驚きです。
特に、私は4作目の“溺れるスイミー”が刺さりすぎて一瞬息が詰まりました。
群れにいたいと望むのにいられない……わかりすぎて苦しかったです。
どんな状況の中にあっても誰かに愛されたり優しくされた記憶を抱いてみんな生きていく。泳いでいく。切なくて悲しいはずなのに優しい気持ちになる読み心地でした。
ひとりの夜、胸の奥が落ち着かない夜にぜひ、この中のひとつの短編に触れてみてください。
じつは、本当の意味で“面白くない物語”なんて、私はこの世にひとつもないと思うのです。
少なくとも私は、どんな作品でも面白がることができる人でありたいと思っています。
ぜひ皆さんも、チョコレートでも食べながらさまざまな作品に浮気して、読書時間を楽しんでみてください。
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