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味わい深い……“読む”チョコレート【TheBookNook #38】

バレンタインの夜、甘くてほろ苦い物語に浸りませんか? 八木奈々さんが選ぶ“読む”チョコレートのような小説たち。それぞれの物語が持つ奥深い味わいを、タイトルの意味や装丁とともにじっくり堪能してみてください。新たな発見があるかもしれません。チョコレート片手に、心を満たす読書時間を……。

味わい深い……“読む”チョコレート【TheBookNook #38】

文 :八木 奈々
写真:後藤 祐樹

今夜はバレンタイン

多くの人を魅了して止まないチョコレート。

そんなチョコレートの香りがする物語を通じて、バレンタインの夜をひとり、楽しんでみませんか……?

バレンタインの夜

今回は、タイトルに“チョコレート”が添えられた、甘くてほろ苦い……だけではない、味わい深い小説を紹介させていただきます。

なぜこの物語に、このタイトルなのか……。

一度読んだ方も、まだ読んでいない方も、挿絵や装丁/タイトルの意味を考えながら物語の世界に向き合ってみてください。

今の自分にしか気づけない新しい発見があるかもしれません。

1. ロアンド・ダール『チョコレート工場の秘密』

ロアンド・ダール『チョコレート工場の秘密』

某有名映画の原作でもあるこの作品。

奇想天外、荒唐無稽なアイデアとワクワクする展開。大人社会の欺瞞と傲慢に対する痛烈な皮肉が同居する物語でもあります。

決して長くはない紙幅を、個性豊かな各キャラクターの描写にしっかり使っているため、感情移入が容易にできました。

工場に入るまでに結構なページを割いていますが、全く長さを感じず、むしろ私はそこが一番好きなパートかもしれません。

何よりこんな世界を思い描ける頭脳が欲しい……。何回読んでも、物語を知っていても楽しめます。

ウンパッパルンパッパたちの脚韻や訳者の講演部分で話されていた姓名の翻訳の仕方などのテクニックも、大人になった今、再読したからこそ気づくことができ、訳者の柳瀬尚紀さんが著書に書いておられた「日本語は天才だ」の言葉の意味を再認識できました。

読後、この世界の続きを想像して胸を弾ませる人は私だけじゃないはず。児童書ではありますが、大人にこそ響きます……何も考えずに手放しで楽しみたい夜にぜひ

2. 乙一『銃とチョコレート』

乙一『銃とチョコレート』

小さな町で暮らす少年が大人へ近づく冒険と成長を描いた本作品。

中盤からまさかの裏切りの連続……当初児童書として描かれたものなので、文章はひらがなが多く読みにくさもありますが、よくある王道少年探偵団ものとは大きく異なり、大人でも充分に楽しめます

巧妙なトリックや唸らせる展開というのは多くないのですが、とにかくテンポが良く一気に読めました。

登場人物全員に裏があり、その裏の姿が明確になったとき、この物語は本当の顔を見せる……帯に書かれたこの言葉にこそ裏がある始末。

子供の頃にこの本に出会っていたらきっとミステリーを好きになるきっかけの一冊になったと思います。

“銃”と“チョコレート”……果たしてどんな関係があるのかと思いながら読み進めましたが、読み切った後にひと息ついて、納得。裏の裏のその裏まで緻密に考えられていました

とにかく難しいことは考えず、童心に返ってこの作品を“純粋に”楽しんでみていただきたいです。児童書だからと侮ることなかれ。

3. 町田そのこ『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』

町田そのこ『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』

まるで、金魚鉢の中で泳ぐ魚のように現状の閉寒感に息が詰まりそうだったり、何かしら生きづらさを抱えている登場人物たちが、悩み苦しみながら、そこから踏み出したり、あえてその場に踏みとどまったりしながら生き抜く強さを描いた全5作からなる連作短編小説。

その短編たちがどこかで繋がっているという一冊です。

どの話も“ただ生きる”ということの難しさを私たち読者に訴えかけてきます

町田そのこさんの小説は柔軟剤が混じっているのではないかと思うほど、いつも読後は柔らかい気持ちになるのが印象的。本作品も本当に素敵な連作短編で繋がり方もすべての章での比喩表現も大好きでした……。

これがデビュー作というから驚きです。

特に、私は4作目の“溺れるスイミー”が刺さりすぎて一瞬息が詰まりました。

群れにいたいと望むのにいられない……わかりすぎて苦しかったです

どんな状況の中にあっても誰かに愛されたり優しくされた記憶を抱いてみんな生きていく。泳いでいく。切なくて悲しいはずなのに優しい気持ちになる読み心地でした。

ひとりの夜、胸の奥が落ち着かない夜にぜひ、この中のひとつの短編に触れてみてください。

■チョコと楽しむ、読書時間

じつは、本当の意味で“面白くない物語”なんて、私はこの世にひとつもないと思うのです。

少なくとも私は、どんな作品でも面白がることができる人でありたいと思っています。

ぜひ皆さんも、チョコレートでも食べながらさまざまな作品に浮気して、読書時間を楽しんでみてください。

\八木奈々さんの過去記事はこちらから/

「わたしの一部は本でできてる。『モモ』に教わる命のこと【TheBookNook#1】」
「暑い夏には熱い物語を。【TheBookNook#2】」
「行きたい国に思いを馳せて【TheBookNook#3】」
「疲れた心と共に、本の世界へ飛び込む。【TheBookNook#4】」
「忙しない日々に、心を満たしてくれる日本の児童文学を。【TheBookNook#5】」
「秋の夜長を味方に。【TheBookNook#6】」
「タイトルと物語の温度差が凄い。掻き乱され小説。【TheBookNook #7】」
「「猫」を取り巻く純文学。【TheBookNook #8】」
「読めばきっと好きになるSFの世界(短編集)【TheBookNook#9】」
「読書で味わう食欲の秋【TheBookNook#10】」
「作家・筒井康隆に魅せられ【TheBookNook#11】」
「物語の街を辿る、読書旅行【TheBookNook #12】」
「小説を片手に祝うクリスマス【TheBookNook #13】」
「<特別号>年間200冊読む私流「読みたい本」の見つけ方【TheBookNook #14】」
「没入感がすごい……【TheBookNook #15】」
「恐ろしく素敵に騙されたい 【TheBookNook #16】」
「ご褒美チョコと一緒に味わう恋の物語【TheBookNook #17】」
「原作と映像は別腹。2024年3月に映像化される作品3選【TheBookNook #18】」
「主人公だけじゃない。印象深く残る脇役小説【TheBookNook #19】」
「現代語で親しむ私のお守り本[古典 / 名文学]【TheBookNook #20】」
「本選びのすゝめ【新潮社編】【TheBookNook #21】」
「人にやさしくできないときの処方箋を。【TheBookNook #22】」
「本選びのすゝめ【講談社編】【TheBookNook #23】」
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「本選びのすゝめ【幻冬舎編】【TheBookNook #25】」
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「本選びのすゝめ【KADOKAWA編】【TheBookNook #30】」
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「本棚に置いておくのも忌まわしい物語を想う……【TheBookNook #32】」
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「まだ読んでないなんて羨ましい、記憶を消してもう一度読みたいあの一冊。【TheBookNook #36】」
「眠れない夜を、眠らない夜に。【TheBookNook #37】」

DRESS編集部

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