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夫婦は本当にわかりあうべきもの?【結婚は、本から学ぶ#1】

書籍から結婚、夫婦関係、パートナーシップについて学ぶ新連載【結婚は、本から学ぶ】を開始します! 初回は『読書で離婚を考えた』。作家同士のご夫婦が、お互いをより理解しあうために、順番に課題図書を出して感想文を書き合ってみたというコンセプトの本です。

夫婦は本当にわかりあうべきもの?【結婚は、本から学ぶ#1】

連載第一回には、『読書で離婚を考えた』(円城塔・田辺青蛙著,幻冬舎刊)を選びました。

夫婦の相互理解を進める目的で始まった企画

「これは、夫婦がお互いを理解するために本を勧めあった格闘の軌跡である」という一文から始まる本書は「読書を通じて相互理解は可能か」というところから生まれたリレー連載が書籍化されたもの。

片方が「相手に読んでほしい(そして、感想を知りたい)」という本を選び、その理由とともに書籍の内容を紹介し、次回の連載で相手が感想を書いて次の一冊を推薦する……という形式です。

最初にいくつかのルールが定められているのですが、「エッセイの内容について家庭内で相談してはならない」というものもあったりして、お互いが作家のご夫婦ってどんな会話をするのだろう……と想像しつつ、読んでみました。

『読書で離婚を考えた』書籍情報

なぜあなたは私と結婚したのかしら

このリレー連載の書き手のおふたり、夫の円城塔(えんじょう・とう)さん、妻の田辺青蛙(たなべ・せいあ)さんは10歳の年の差があるご夫婦。

第5章には「そもそも夫の書いた文章を私は読まない」と書かれており、さらに「なんとなく付き合ってみるか、から入籍まで数回しか会わず、その間が2カ月しかなかった」とおふたりの馴れ初め(?)が紹介されています。

私だったら、こんな風にパートナーを選ぶことはできないな……というもので、新鮮な驚きがありました。

また、この連載では妻の田辺青蛙さんが「なぜあなたは私と結婚したのかしら」という問いかけをたびたび投げかけています。

連載の後のほうで、夫の円城塔さんもそれに応えようと試みるのですが、結局ふたりの”噛み合っていないところ”を列挙する結果になってしまったり……。

このように回が進むにつれて「わかりあえない部分」が露呈していったからか、2年ほどにわたる連載を通してご夫婦を知る人々は「なんかうまくいっていない感じ」「離婚するのでは?」とハラハラしたそうです。

お互いのことをよく知らなくても大丈夫

夫婦の相互理解を目的として始まったはずの連載ですが、回が進むにつれ「この夫婦は、あまりお互いのことをわかっていないのでは?」と思わせるエピソードが暴露されていきます。

ある回では「あなたがコーヒーが嫌いなんて、まったく知りませんでした」という一文が。

妻の田辺青蛙さんが「夫はコーヒーが好きだろう」と思うに至る過程も説明されているのですが、それを読むにつれ、私たちはいかにパートナーに対する説明を省いていることが多いかということにも気づかされます。

これを読みながら、夫に私の好きな食べ物は知っているかと聞いてみたところ、大体あっていましたので密かにほっとしたのですが(笑)。

連載の後半では、夫の円城塔さんが「別に夫婦ってお互いに理解しあってなくても平気なのでは」と書いています。

本を読み進めるにつれ、おふたりの認識のズレや、呼びかけに対する返答が噛み合わっていないと思われるところがでてきますし、円城さんご自身も「ふたりの趣味が一致していない」と感じるところを列挙しています。


ただ、その中でひとつ「これは共有しているな」と円城さんが感じているということがありました。それは、「自分が自分じゃなかったらどうしよう」とか、「この自分は誰かが夢見ている自分」といった感覚だそうなのです。

少しわかりにくいかもしれませんが、ご夫婦ふたりして「こんなにはっきりと手に取れるように見える現実も、実は儚く、一瞬にして崩れ去るものだ」というような感覚を持ちながら生きているとのこと。

円城塔さんにとって「あまり他の人にはわかってもらえないけど、自分にとっては大事なこの感覚を妻とは共有している」というのは、やはり嬉しいことなのかな……と読みながら感じました。

多くの価値観を共有しなくても、それぞれにとって「ここはわかってもらいたい」という部分で理解されていると感じられれば、夫婦はうまくいくものなのかもしれません。

夫婦のあり方に正解はない

この一連のご夫婦のやりとりを読んで感じたことがあります。

夫と結婚してから15年ほど経ちますが、いまだに「これだけ一緒にいるのに、(私についてのこれを)知らなかったの?」と思うことがあります。それは「怒り」や「失望」という感情を伴う発見なのですが、でも私も彼のことを100%知っているとはやはり言えず、夫は別にそれを気にしていない様子。

そう考えると円城さん、田辺さんの夫婦としての強みは、「どうして相手と結婚したのか」ということをふと疑問に思いながらも、その理由は言語化しきれず(あるいはあえてせずに)、でもうまくいっているからそれでよいのだ、と納得できるところなのかもしれません。


私は「”夫婦は100%わかりあう(べき)もの”というのは幻想なのかな」とちょっとショックを受けましたが、当然ながら夫婦の形に正解はなく、人によって異なるものだと思います。


「相手にわかってほしい」という願望が強い人は「愛すること」を「相手を知ること」だととらえているのです。一方で、相手にわかってもらえなくても、愛されていると感じることができる人もいるでしょう。むしろ、わかっていないのに愛してもらえていると実感するほうが、無条件の愛情を感じられるのかもしれません。

「愛することは相手を知ること。なのに、わかってもらえていない」とお互いに渇望し続けるカップルは、うまくコミュニケーションをとれなければ破局に向かうことも考えられます。反対に、ふたりのうちひとりでも「わかり合えるなんて幻想だよ」と割り切って、それでも「あなたを愛していますよ」というメッセージを送り続けることでうまくいくカップルもいるのでしょう。

この作家ご夫婦の場合は、どちらもほどほどに「全部わかっていなくても大丈夫ですよね」と思っていそうですが……。

変化があるからこそ面白い

『読書で離婚を考えた』は本好きの人にはこれから読みたい思える書籍情報が手に入るという点でも興味深い内容になっています。

出てくる本のジャンルは多岐にわたっており、「ダイエット」や「折り紙」などのテーマもちらほら。私自身、聞いたこともないような本がたくさん出てきました。


本書には『小説講座 売れる作家の全技術』(大沢在昌著,角川書店刊)という本が、妻の田辺青蛙さんからの課題図書として紹介されています。夫の円城塔さんは、その本の中にある「物語の最初と最後で主人公に変化のない小説は面白くない」という一文を引用しながら、「確かに自分の書く話には主人公にあまり変化がない」と暴露していました(笑)。


変化があるからこそ物語が面白くなるのだ、という点は、結婚、あるいは結婚生活というストーリーにもあてはまると思いませんか?

私は、結婚の醍醐味は価値観の転換にあると考えています。なので、「結婚したとしても、自分は一ミリも変わりたくない」と考えている人は、そもそもパートナーシップには向いていないのではと思うことがあります。

「これが自分である」という、強固に見えるラインが少しずつ薄まったり、形を変えていくところにこそ成長があり、だからこそ他人と深い仲になる意味があるのではないでしょうか。この箇所を読んで、これからも変化を恐れず、パートナーと価値観をぶつけ合っていきたいなという思いを新たにしました。


これから読んでみたい本の選択肢が広がるだけでなく、夫婦のあり方について思いを馳せることもできるこちらの一冊、おすすめです。

※ こちらは2017年11月6日に公開した記事内のリンク切れなどを修正した上で再掲載したものです。

塚越 悦子

カップル&ファミリーコーチ。好きな人と結婚して、結婚した人を好きでいる方法を日夜研究中。 著書「国際結婚一年生」(主婦の友社)、訳書<a href="https://www.amazon.co.jp/gp/prod...

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