すぎたるは及ばざるが如し。夏場の「あたためすぎ」は健康に良くありません。それは妊婦さんも同様です。適切な体温調節を心がけましょう。
何でも冷えのせいにしていませんか?
日本の夏って寒いですよね。長袖スーツに靴下と靴を履いたおじさんたちが汗だくにならないように、建物に入ればエアコンがガンガン効いている。多くの女性を悩ませる「冷え性」、いろいろな不調の原因と言われています。しかし「冷え」というものに科学的根拠はありません。根拠のない「○○は冷えが原因」説には惑わされないようにしましょう。
うだるように蒸し暑いのに、建物に入ればエアコンがガンガン効いている……、それがすっかり「日本の夏」になってしまいました。長袖スーツに靴下と靴をはいたおじさんたちが汗だくにならないようなエアコンの温度設定では、半袖ワンピに素足にサンダルの女子は手足が冷えてしまいますよね。「冬よりも夏の方が冷える!」という人は結構多いのではないでしょうか。
多くの女性を悩ませる「冷え性」、いろいろな不調の原因と言われています。月経不順や不妊など女性としての機能だけでなく、逆子や難産など妊娠にまつわるもの、はたまたアトピー性皮膚炎や免疫不全……。どこでも冷えは諸悪の根源のように言われています。これって本当なんでしょうか?
冷えはもともと東洋医学の概念で手足の冷えや腹痛・下痢などの不調を自覚するものです。そもそも人間は恒温動物で、全身の筋肉や肝臓などで熱が産生され、外気温が暑すぎれば汗を出し、寒すぎれば筋肉を震わせて熱を産生させたり血管を収縮させて放熱を防いだりして体温を調節しています。脳に体温調節中枢があり、自律神経も関わっています。そう、寒い時に手足が冷えるのは熱を放散しないために手足の血管が収縮するからで、体温調節のためなんですね。手足に冷えを感じていても体の中心は37度くらいに保たれています。中心まで冷えてしまうとそれはもう冷え性じゃなくて、低体温症になってしまいます。「私、体温低いの」と言っている女性には結構出会いますが、外来で基礎体温をつけている患者さんで体温が36度未満の人にはほとんど会ったことはありません。なので実際にはそう頻繁にはいないと思います。
西洋医学では冷えという概念がありません。冷えを科学的に捉えるのは難しい。ガリレオガリレイは「科学とは測ることだ」と言ったように、「科学する」というのは誰でも同じように客観的に測れること。冷えをサーモグラフィーなどで測る試みはなされていますが、コンセンサスの得られた冷えの評価方法はありません。本人の主観によって判断されるのが「冷え」です。
何が言いたいかと言うと「冷え」については「科学的根拠」というものはないんです。
「科学的根拠がない」ということは「実在しない」ということとは違います。私自身はかなりの冷え性で、素足でいると脚が冷たく冷えて、胃腸の調子まですぐれなくなり、全身がなんとなく調子が悪いです。「冷え」は実在すると思っています。
でも、冷えがあっても体の中心にある子宮や卵巣は冷たくなったりしないし、妊娠中でも赤ちゃんは体の中で一番暖かいところにいます。「子宮が冷えると赤ちゃんがいやがって暖かいところを求めて逆子になる」ともっともらしいことを言われると「そんなもんかなあ」と思う人もいると思いますが、誰が妊娠子宮の温度を測って比較検討したんだって話です。
つまり「冷え」のもつ「なんとなく悪そう」というイメージに乗っかった根拠の無い「○○は冷えが原因」説が多数流布しているのが現状といった感じでしょうか。冷えを解消するためにいろいろ努力をすることに害はありませんが(暖めすぎない限り)、「冷えさえとれば妊娠できる」と腹巻き三重にしている人を見るとちょっと違うんじゃないかなあと思う今日この頃です。
もっともらしい妄言に惑わされないよう、妄言を広めないように気をつけましょうね。