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今回の出版社縛りは、「KADOKAWA」です。八木さんが個性豊かな3作品を紹介する「TheBookNook #30」。発達障がいの裁判官、家族の秘密を巡る旅、自己愛をテーマにした友情の闇。多彩なジャンルで読者を惹きつける「KADOKAWA」の魅力を凝縮しました。
「新潮社」「講談社」「幻冬舎」に続いて第四弾となる、“本選びのすゝめ”。
今回は、文芸のみならず、ラノベや漫画などエンタメにも特化している「KADOKAWA」の魅力をお届けしたいと思います。
少し話は逸れますが、本を好んで読んでいる人ならば、好きな本の傾向が偏ってくるのは至極当然のこと。でも、図書館の返却棚や古本屋でふいに出会う、“好きから少し離れた本”になぜか心惹かれ、読んでみたら期待以上……なんて経験はありませんか?
なんとなく手にした一冊が、お気に入りの一冊になる快感。
そう、本も人も中身が大事。今回は、そんな“本の内面”に私が思わず惚れた「KADOKAWA」の作品を紹介させていただきます。
本作の主人公は、幼いころに発達障がいと診断され、スペクトラム症(ASD)、注意欠如/多動症(ADHD)、の特性をもつ裁判官。
自身の特性と上手く付き合いながらさまざまな事件と向きあっていく新感覚のリーガルミステリーなのですが、よくある“ソレ”とは訳(わけ)が違います。
主人公の視点で描かれた3つの事件が収録されている連作短編集となっているこの作品では、その全編を通して、彼の観点や、衝動を抑えるためのルーティンなど、発達障がいゆえの苦悩が細かく描かれていきます。
脳の指令なのか、自分の意思なのか、自分の行動がたまに制御できなくなってしまったり、怒り、悲しみ、喜びなどの感情を読み取ることが難しく、今を生きるだけで精一杯……裁判官なのに。
そんな彼が不確かな中から真実を見抜くのです。彼だからこそ見える世界や、感じることの語彙が胸に……いや、喉に刺さります。魚の小骨のように簡単には取れてくれません。
症状が出始めると読み手であるこちら側まで鼓動が速くなりますが、周りの人たちが少しずつ味方になっていき、最後の最後には、明確ではないけれど確かに、心のどこかにポッと灯りが見えたような気がしました。不確かに、確かな灯りが。
家の片付けの最中に、倉庫から出てきた見知らぬ仏像。ニュースで流れていた青森の神社から盗んだご神体にそっくりの“ソレ”。父の犯行を確信した家族が千キロメートル先の青森を目指す……。
このあらすじを聞いて、今、あなたが抱いた感情、想像できた結末、それらを遥かに上回る、疑心暗鬼の恐ろしい家族ドライブが始まります……。
結婚する姉と完ぺきな夫、お金命の兄、迷惑しかかけない父、無の母。……え、この一家、普通じゃない……? 普通の家族って、なんですか?
気づかないレベルで張りめぐらされた伏線の回収や読ませる力、文字の上で転がされる感覚。これぞ浅倉秋成先生。
特にこの作品では“家族”とはなんなのかという問いを私たち読者の脳裏に頼んでもいないのに深く埋め込んできます。
次々と家族を襲う事件。解決への疾走。こじれる疑念。シリアスもスリルも笑いもあり、特に前半は読みやすいのですが、後半、物語が目まぐるしく二転三転して、ようやく着地したかと思ったら……。
価値観と物語がふたつともひっくり返るダブルどんでん返しは初めての読後感でした。読み終わったら、表紙の絵にもう一度だけ目を向けてみてください。
この表紙は小説版ではなく、漫画版のものです。
「彼女はいい人?それとも……悪魔?」
この作品のテーマは自己愛性パーソナリティ障がい。その特徴は自尊心が驚かされると攻撃をする、自分を正当化するためなら嘘もつく、己を褒めて貰えるように上手く仕向ける、などなど。
あれ、もしかして、思い当たる節がありますか……?ある人はその人を崇めて、ある人はその人をサイコパスだと憎む。人によって正反対の印象をもたれる“彼女”を軸に物語はじっとりと体内に纏わりつくように進んでいきます。
作品としてわかりやすく障がいと“ソレ”を重ねていますが、本当にそれだけなのでしょうか。表面上の人間性は見る側が好きに解釈したものにすぎません。
でも、それを踏まえてもなお、物語の中にいる「トモダチは怖い」という一言ではとても説明がつかないほど、おぞましいのです。実際の被害者が読めば終始あるあるの物語でしょうし、絶妙に組み込まれる加害者の言葉に殺意を覚える人もいるかもしれません。
ただ……ここまでわかりやすく掘り下げて書かれていても加害者のタイプに遭ったことのない人には“怖い”という感情は芽生えないのかもしれません。
余談ですが、この作品は小説と漫画の2展開で出版されており、それぞれ結末が異なるためどちらも合わせて読むことをおすすめします。
……さて、ここで問題です。二番目に怖いトモダチは誰でしょう。わかった方から、逃げてください。
今回は、少し角度を変えた三冊を紹介させていただきました。
ぜひみなさんも装丁やタイトル、作家さんだけで読む本を決めず、さまざまな本に浮気してみてください。
冒頭にも書きましたが、図書館の返却棚や古本屋は手軽に本を手に取れるのでおすすめです。刺激的な出会いがありますように。
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