阪急電車/幻冬舎/有川浩
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年末ムードが高まるこの時期、どこかへお出かけしたいと思う気持ちも盛り上がるのではないでしょうか。連載「TheBookNook」Vol.12では、家にいながらプチ旅行気分を味わえる作品を取り上げます。実在する場所を通じて、聖地巡礼の楽しみも増えそうです……!
文 :八木 奈々
写真:後藤 祐樹
動画やSNSの流行によって本離れが叫ばれている昨今ですが、やはり文字だけで綴られた小説でしか得られない楽しみがあることに、本好きの方なら強く同意してくれると思います。
物語には描かれていない背景、つまりその小説の舞台がわかればより深く本の世界に浸ることができます。ときに、地名がはっきりと描かれてない作品でも“もしかしたらあそこかも……”なんて想像するのも楽しいと思いませんか?
文字の裏側にある景色や音、湿度、その場所に行かずとも感じられるさまざまな描写に自ら触れにいくことで読後の余韻もより深く味わうことができます。
写真はイメージです。
今回は、読み終えたらきっとすぐにでも訪れたくなる、実在の街町を舞台にした小説を紹介させていただきます。
タイトルにもある通り、“阪急電車”に乗り合わせた人々が織りなす出会いの物語。テンポのいい会話劇にほっこりしたり、スカッとしたり、胸が締め付けられたり。人との出会いを大切にしたくなるこの作品は、宝塚駅と西宮北口駅をつなぐ約15分間のローカル線“今津線”が舞台となっています。
私も実際に足を運んだことがあるのですが、電車に揺られる人達がみんな物語の主人公のように思えて、今日はこのたった15分の区間でいくつのドラマが繰り広げられたんだろう……と考えながら本を片手に物語の余韻に浸っていました。
小説に出てきた場所を目指すつもりが、今津線沿いの街の雰囲気が想像以上によく、なんとなく降りた駅で気になったお店にふらっと入ってみたりなんかして。まるで物語の続きを描いていくように一人旅を堪能していました。何度でも読みたくなる味わい深い作品です。
“本屋を襲わないか?”と不気味な隣人から持ち掛けられた、僕。現在と二年前に起きた事件が奇妙に符合していき、読み進める途中でバラバラになったものが伊坂幸太郎氏の話術により徐々に繋がっていく快感。そして決してハッピーエンドではないのに読後は少しの救いと温かさを読者に感じさせてくれます。
宮城県仙台市を舞台に描かれている本作品ですが、なかでも仙台駅のコインロッカーは、タイトルにもある通りこの物語の最後に登場する重要な場所です。残念ながら現在はこのコインロッカーは撤去されてしまっているみたいですが、私は駅のコインロッカーを見ると思わずボブ・ディランの“風に吹かれて”を口ずさみたくなります。
この作品に関わらず、日常の中で物語を思い出す瞬間が私はすごく好きで、むしろその瞬間に出会いたくてたくさんの本に触れているのかもしれません。みなさまにもそんな経験はありますか?
言わずと知れた文豪、夏目漱石の名作。読んだことがなくとも“松山”が舞台ということをご存じの方も多いのではないでしょうか。……といっても“坊ちゃん”こと主人公は作品内であまり松山という土地のことを褒めません。むしろその松山でさまざまなトラブルに巻き込まれていきます。それでも読後はなぜか“坊ちゃんがそんな風に言うのはどんな場所なんだろう……?”と知りたくて堪らなくなります。
唯一、坊ちゃんが気に入っている“道後温泉”は誰もが知る人気観光スポットですが、この小説を読む前と読んだ後では、訪問した際の気持ちがまるで変わってくるはずです。100年以上も前に描かれた本作品は、時代背景も描かれる景色も何もかもが今とは違いますが、不思議と共通する部分もあり、現代でも楽しく読むことができます。坊ちゃんが感じたことを追体験するつもりで松山へ温泉旅行に出かけてみませんか?
今回は、特に読後感が良いものや、情景がありありと思い浮かび、ついつい物語の舞台に足を運んでみたくなる作品を厳選して紹介させていただきました。
実際に行かなくてもいいんです。描かれた舞台を想像しながら読書したり、検索して浸ってみたり、いつか行きたい場所を物語を通して考える時間はとても有意義なものです。ぜひ、より深い物語の世界へ。
この連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。
一冊の本から始まる「新しい物語」。
「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
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