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生理は恥ずかしいことでも、穢れでもない【ハヤカワ五味×田中ひかる】

私たちが当たり前のように使っている生理用品。でも、日本で現在のナプキンに近い商品が発売されたのは、なんとたった58年前のことです。社会的な“生理”のとらえ方を研究している歴史社会学者の田中ひかるさんと、新しい生理用品の開発に向け奔走している経営者・ハヤカワ五味さん。おふたりの対談で生理をとりまく歴史と現状を見つめます。

生理は恥ずかしいことでも、穢れでもない【ハヤカワ五味×田中ひかる】

ハヤカワ五味

1995年東京生まれ、多摩美大卒業。課題解決型アパレルブランドを運営する株式会社ウツワ代表取締役。 大学入学後にランジェリーブランド《feast》2017年にはワンピースの《ダブルチャカ》を立ち上げ、Eコマースを主として販売を続ける。2018年にはラフォーレ原宿に直営店舗《LAVISHOP》を出店。

田中ひかる

1970年東京生まれ。著書に『月経と犯罪 女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史 タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)、『「毒婦」和歌山カレー事件20年目の真実』(ビジネス社)など。

■“生理=穢れ”という意識は、もはや根拠がない

ハヤカワ:生理用品に関心を持ってから『生理用品の社会史』『月経と犯罪―女性犯罪論の真偽を問う』など、田中さんの著書をいろいろ拝読しました。

田中:ありがとうございます!

ハヤカワ:「生理=恥ずかしいこと」という文化が生まれた背景についても詳しくまとめられていて、学ぶことがとても多かったです。もともと宗教の本をよく読んでいたので、人は昔から生理を“穢れ”として扱っている、というイメージは持っていたけれど……医療がなかった時代の考え方も踏まえて、当時の現実をよく理解できました。

月経禁忌とは、「血穢」を理由に月経中の女性、さらに月経のある身体を持つ女性そのものを禁忌(タブー)と見なすことである 。
ーー『生理用品の社会史』(角川ソフィア文庫)より抜粋

月経禁忌の慣習は、明治時代初期に一気に解消されたわけではなく、地域によっては、戦後も根強く生き続けていた 。
(中略)
三河の北設楽郡では 、 「食い交じり(引用者注 ・食事を通じて 「穢れ」が移ること ) 」を防ぐために 、月経時の女性を 「火小屋 」へ隔離した 。(中略)また 、月経中の女性を 「小屋分 」と呼び 、もし火を 「穢された」場合 、村中の火打金を集めて鍛冶屋に清めてもらったという 。
(中略)
備中真鍋島では、山の上に設けられた月経小屋から女性が下りてくるとき、「穢れ」を移さないために、大声で人を払った。家に戻ると、川水で沐浴したあと軒下や土間に筵を敷いて一夜を過ごし、かりの竈をしつらえ、粥などを煮て食べた。
ーー『生理用品の社会史』 (角川ソフィア文庫)より抜粋


田中:“穢れ”の根拠には、科学的な話がなきにしもあらずだったんですよね。たとえば「生理中にマヨネーズをつくるな」「酒蔵に行くな」というのは、単なる迷信とも言い切れなくて。生理のときに膣内にある乳酸菌が食べ物に混入すると、食品がうまく仕上がらなかったりしたわけです。ただ、衛生観念や医療が発達した今では、もうそんな事態は起きない。なのに“穢れ”意識だけが受け継がれちゃっているんですよね。

ハヤカワ:医学的な知識がなかった昔の人にとっては、身体から流れてくる血なんて得体が知れないし、病気の感染経路にもなるから、本能的に避けるのはある意味正しかったのかもしれない。でも、現代になってそういう妥当性がないのに形だけ“穢れ”が残っているので、そろそろ意識を変えなくちゃいけないと感じています。

田中:1970年生まれの私の世代だと、「生理は恥ずかしい」という空気が今より強くあったんですよね。「シモの話ははしたない」「生理用品は隠すもの」みたいな。さらに私たちの親世代には“穢れ”意識がより強く残っていて、生理中に神社には参拝しないという方々もいらっしゃる。だけど、今は“穢れ”なんて認識すらない若い方たちもいて、それはすごくいい変化だなあと思いますよ

■現代女性の生理回数は、戦前の9倍!?

ハヤカワ:生理用品の歴史が浅いことにも驚きました。日本初の使い捨てナプキン「アンネ」が発売されたのが1961年。それまでは脱脂綿を当てていたと聞いて、衝撃でしたね。ぽそぽそくっつきそう……(笑)。

田中明治の中頃から1950年代まで、ずっと脱脂綿ですからね(笑)。膣の中に入れたり、外から当てたりしつつ、上から月経帯と呼ばれるバンドで留めて……。

ハヤカワ:昔は今より月経が少なかった、ということが影響しているんだろうなと思いました。一生に経験する生理の回数が、すごく増えているんですよね?

田中:そうです。現代女性は一生の間に、約450回の生理を経験します。でも昔は妊娠・出産・授乳期間が長かったり、閉経が早かったりして、生涯で50回ほどという女性も少なくなかった。生理が来るのは妊娠と妊娠のあいだの短い期間だけだから、まぁ脱脂綿を当てておけばいいや、みたいな感じだったんでしょうね。

ハヤカワ:ちょっと使い心地が悪くても、「まあいっか」で流せる回数ですよね。

田中:昔はどの会社も「女のシモのものでメシを食う」ことに抵抗を感じていたから、最初のナプキンができるまでは難航したけれど、アンネが話題になって類似品もたくさん発売されました。アンネをきっかけに、生理用品の技術革新が起きた。おかげで今、日本のナプキンは世界一の性能ですからね。

ハヤカワ:そうやって技術革命が起きるの、日本っぽいですね。今も「ここをテープで留められるのがすごい」「吸収力が違う」というテクニカルな目線を中心に、開発が進められている気がする。

田中:でも、それだけ技術に関心がいく国なんだから、そのあともう少し進化しても不思議ではないのに、意外と原形を保ったままというか。

ハヤカワあきらかに生理の回数が増えていて、女性を取り巻く社会環境も変わってきている今は、まさに生理用品が見直されるべきタイミングだなと思います。たとえば既存製品でも、タンポンとかはもっと普及していいと思うんですよね。だけど、体内へ入れるものにはやっぱり抵抗のある方も多いみたいで。

田中:処女膜が破れちゃう、みたいな信仰がなんとなく残っていますよね。昔は「タンポンを使うとお嫁に行けなくなる」と言う人もいましたし……。それに、出し忘れると命にかかわる病気(※TSS:トキシックショック症候群)になる可能性もあるから、単純に怖いイメージもあるんでしょう。温泉に入ったりするとき、紐が見えないように切り取ってしまって、取り出せなくなっちゃう方もときどきいるみたいです。

(※)黄色ブドウ球菌の産生する毒素が原因で起こる急性疾患。タンポンの使用に際して手指を清潔にしなかったり、長時間使用したり、取り出し忘れなどにより黄色ブドウ球菌が増殖し、発症する可能性があると言われている。

ハヤカワ:以前、YouTubeでタンポンの使い方について動画をアップしたら「知らなかった!」という声が結構ありました。正しい使い方を知らずにアプリケーターそのものを入れると思っていた方とか、8時間以上入れっぱなしにしていた方もいて……。正しく使えば問題ないから、そういう誤解を解くためにも、動画をつくってよかったなと思いましたね。

■生理をもっとフラットに扱えるように、社会も変わらなきゃ

ハヤカワ:生理や性のことで嫌な思いをする女性がいる状況も、どうにかしていきたいと思うんです。たとえば、産婦人科。「PMSや月経痛がつらくてピルをもらいに行ったら避妊だと決めつけられた」「内診で性器についてからかいの言葉をかけられた」という話を聞くことがあって、驚きました。運悪くそういうお医者さんに当たってしまうと、どうしても産婦人科に行きにくくて、自分の生理や身体のことを大事にできなくなってしまいますよね。

田中:そのお医者さんはひどいですね……!

ハヤカワ:それから、産婦人科に入るところを見られただけで、通りすがりの人に「卑猥だ」と言われたという高校生もいます。そんなことされたら、中高生は余計に病院に行けないですよ。生理用品そのものだけでなく、社会のリテラシーまで含めて変わらなくちゃいけない。

田中:特に男性の視線に関しては、知識や教育の欠如が大きいと思いますね。たとえば姉や妹がいる家庭に育った男の子は、トイレにいつもナプキンが置かれていたりするから、意外と生理が身近にある。でも、家族に女性がお母さんしかいなくて、しかも生理用品を隠しがちだったりすると、よく知らないまま大人になったりするんです。男の子がいる家庭で、生理をオープンに扱うだけでも、次の世代の空気は変わりそうな気がしますね

ハヤカワ:それ、よさそうです! 個人的にはすべての男性に「生理を知れ!」って強要するつもりは全然ないんです。でも「男性も知っていたほうがかっこいい」という空気が生まれたら、風向きが変わりそう。実際、友達の彼氏が生理のときにすごく気を遣ってくれるなんて話を聞いたら「めっちゃいいじゃん!」と思いますし。まずはパートナーや友達みたいに近しい間柄で、生理の話を普通にできるようになればいいなと感じます。


Text/菅原さくら(@sakura011626
Photo/ぽんず(@yuriponzuu

▼対談後編はこちら▼

第三次生理ブーム到来? 今、新しい生理用品を作りたい理由【ハヤカワ五味×田中ひかる】

https://p-dress.jp/articles/8726

歴史社会学者の田中ひかるさんと、新しい生理用品の開発に向け奔走している経営者・ハヤカワ五味さん。前編では、生理をとりまく歴史や現状について対談しました。後編は、これからの世代が生理とよりよく付き合うために必要なことや、ハヤカワさんがこれから開発したい生理用品などについてお話しいただきました。

3月特集「あの子が来る、今月も。」

DRESS編集部

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