生理は恥ずかしいことでも、穢れでもない【ハヤカワ五味×田中ひかる】
https://p-dress.jp/articles/8725私たちが当たり前のように使っている生理用品。でも、日本で現在のナプキンに近い商品が発売されたのは、なんとたった58年前のことです。社会的な“生理”のとらえ方を研究している歴史社会学者の田中ひかるさんと、新しい生理用品の開発に向け奔走している経営者・ハヤカワ五味さん。おふたりの対談で生理をとりまく歴史と現状を見つめます。
歴史社会学者の田中ひかるさんと、新しい生理用品の開発に向け奔走している経営者・ハヤカワ五味さん。前編では、生理をとりまく歴史や現状について対談しました。後編は、これからの世代が生理とよりよく付き合うために必要なことや、ハヤカワさんがこれから開発したい生理用品などについてお話しいただきました。
▼対談前編はこちら▼
生理は恥ずかしいことでも、穢れでもない【ハヤカワ五味×田中ひかる】
https://p-dress.jp/articles/8725私たちが当たり前のように使っている生理用品。でも、日本で現在のナプキンに近い商品が発売されたのは、なんとたった58年前のことです。社会的な“生理”のとらえ方を研究している歴史社会学者の田中ひかるさんと、新しい生理用品の開発に向け奔走している経営者・ハヤカワ五味さん。おふたりの対談で生理をとりまく歴史と現状を見つめます。
ハヤカワ:生理を取り巻く状況は今まさに変わりつつあります。そのなかで、現実とズレが大きいままになっているのは性教育。学校でちゃんとした知識を教えてくれないのに「学生が妊娠するな」と言われ、それなのに「社会に出たら子どもを産め」と求められるのは、辻褄が合っていないと思うんです。
田中:性教育の内容は学校によって全然違うし、いまだに「おしべ」「めしべ」みたいな性教育を、男女別で受けている学校もあります。
ハヤカワ:まだ!? 結局、親や教師が恥じらいなくそういう話を扱えるようにならない限り、変わらないのかもしれないですね。生理や性についてフラットに発信できるようになってきた今の若い世代が親になれば、世の中も少しずつ動いていくのかもしれない。
田中:そうだと思います。最低限これは教えようという基準がない中で、保護者から来るクレームを考えて、現場が消極的になってしまうのは無理もない。でも、生理についての知識は、いいタイミングで教えていってほしいですね。よくわからない状態で突然に初潮を迎えるのは、やっぱりかわいそうだから。
ハヤカワ:この前、Twitterで「生理に関するアンケート」を実施したんです。1日足らずで6500くらい回答が集まったのも衝撃でしたが、その回答の中に「教室で急に生理が来てしまい、椅子に血だまりができた」という話があって……。そんなことが起きたら、もうトラウマになりますよね。
田中:たしかに、授業中に生理が始まってしまったんだけど言えなくて、休み時間になってもスカートが汚れているから立てない、ということもあるみたい。そんなことがあると、生理に対してずっと嫌なイメージを持つことになっちゃうんですよね。
ハヤカワ:アンケートを読んでいると、“生理観”って、小学生くらいの若いときにつくられるんだなと感じます。だから女の子にとって「初潮という体験をいかによいものにするか」というのは、すごく大切。アメリカにはショーツ自体が経血を吸収する「THINX(シンクス)」という商品があるんです。そういうアイテムがもっと日本でも普及して、ジュニアサイズとかもできれば、初潮を迎えそうな子が前もって履いておけそうですよね。
田中:そういう微妙な年代の子どもを持つ親にとっても安心ですね。生理を迎える“入口”のつくりかた、とっても大事だと思う。
ハヤカワ:それから「初潮のときにお赤飯を出されてすごく嫌だった」っていう意見も多かったです。単純に、世代的にお赤飯自体を好きではない子が多い。嫌いなものを出されるわ、めでたくもないのに正月っぽいわ、みたいなので嫌な思い出というか(笑)。
それがたとえばショートケーキだったら、大々的に祝われても悪い気はしないだろうし、逆に「次に生理が来たらまたケーキ食べられるの……?」ってアガる気がするんですよ。意外と、そういう小さなことでも意識が変わりそう。
田中:「生理用品がかわいい」というのも、若い世代としてはうれしいかもしれませんね。娘は友達同士で「猫の模様が入っているナプキンがかわいい」「次は私も使ってみたいな」なんて話しているみたいだし。
田中:ハヤカワさんは今、生理用品の企画を進めていらっしゃるんですよね。
ハヤカワ:はい。でも、組んでくれるメーカーや工場がなかなか見つからなくて……。つくりたいのは、とにかくシンプルなもの。部屋に置いても違和感がなく、トランスジェンダーの方でも抵抗なく買えるデザインの生理用品です。
既存製品は「お花やハートで明るくハッピー」みたいなものばかり。それを求めている人も実際にいるのだけど、もっとシンプルなデザインが選択肢としてあってもいいと思うんですよね。
また、パッケージで機能を語りすぎなくていいと思うんです。トイレットペーパーとかと同じ、インフラなわけだから。コンビニの店員さんが生理用品だと認識しない、分けて紙袋にも入れなくてもいいようなものをつくりたいです。
田中:生理やナプキンを特別なものにしたくない、ということ?
ハヤカワ:そうです。透明なバッグに入れて外を歩いても大丈夫なものにしたい。だから、まずはデザインが勝負だなと思っています。最終的に実現したいのは、「さまざまな生理用品のなかから女性が自主的に選択できる状態」です。
田中:ただ製品をつくって売りたいんじゃなくて、社会の意識改革を目指しているってことですね。
ハヤカワ:はい。私がつくる生理用品は、機能でいえばおそらく、大手メーカーに劣ると思います。でも、たくさんあるアイテムのなかから「自分に合いそうなものを試してみる」とか「好きなものを選ぶ」という経験をするための“選択肢”にしてほしいんです。それで生理にまつわる恥ずかしさが減れば、周囲とそういう話をすることももっと自然になるんじゃないかな。
既存製品の良さや技術もうまく巻き込みながら、世の中からの見え方やお客さんとのコミュニケーションに重きを置いたブランドを生み出すことで、生理にまつわる全体のことをいい方向に進められればいいなと思っています。
田中:私は今“第三次生理ブーム”が来ていると思っているんです。第一次は月経不浄視に基づく慣習が公に廃止された明治時代、第二次はアンネナプキンが登場した1960年代。そして最近しばらくぶりに、生理そのもののとらえ方が見直されたり、生理用品に注目が集まるようになってきました。ハヤカワさんのような若い世代からも中心人物が出てきて、ここからまたぐっと伸びていくように感じます。
ハヤカワ:うれしい一方、浅い知識でなんとなく生理にまつわる活動に取り組んで、微妙な空気をつくり、そのまま“生理バブル”が弾けるようなことにだけはしたくないですね。そのためには生理というものが宗教的に、文化的にどんな歴史をたどってきたかも踏まえながら、論理的なアプローチをしていかなければならないと思います。
「じつは生理用品って、カラーテレビよりも普及が遅かったんですよ」みたいなコミュニケーションなら、生理に対する知識があまりない男性だって「へぇ、そうなの?」と興味を持つかもしれない。
田中:若い女性が目立った活動をしたり声をあげると、いまだに色眼鏡で見られるようなところもありますから……そこを正攻法ではねのけていくやり方まで考えていらっしゃるハヤカワさんなら、心強いなと思いました。
ハヤカワ:2019年はなんだか“女性がしんどい年”という感じがしませんか? レイプ事件に無罪判決が出ているのなんて、報道が間違っているんじゃないかと思いたいくらい理不尽だし……。いつか結婚して子どもを、と考えても、こんな時代に女の子を産むのはしんどいなと思ってしまうニュースばかりだから、少しでも明るい話題を出したいんです。
田中:たしかに、女性はまだまだ生きづらいですよね。生理についてだけでも、もっと軽やかになればいいなぁ。
ハヤカワ:生理との関わり方が変われば、女性の働き方や休暇についての議論にもうまく派生していける気がしますね。
田中:ただ、生理の扱い方で難しいのが、女性の感情と結びつけられやすいこと。今の世の中、結婚や出産を経ても働き続ける女性が増えてきて、社会的な男女の垣根はある程度なくなってきていますよね。でも、女性をマイナスに説明するときのポイントとして「女は生理があるから感情的だ」という論が、説得力を持ってしまっている。個人差もあるし、デリケートな部分だから、そこの説明がとても難しいなと思います。
ハヤカワ:今って、生理も含めた生物的な違いを、いかに理性で乗り越えるかが試されている時代だなと思うんです。生理をもっとフラットに語れるようにすることは、性別関係なく、お互いの権利を見直すことにつながっていくと感じています。
田中:女性が声を上げると「女性優位主義だ」「ヒステリックだ」なんてことを言われることがあるけれど、そうではない。女性が暮らしやすい世の中は、男性にとっても暮らしやすいはずなんですよね。
ハヤカワ:そうなんです! 「女性が生きやすい社会=男性が生きづらい社会」ではないんですよね。たとえば女性がのびのび働けるようになれば、男性はひとりで家族を養う必要がなくなって、ある意味プレッシャーから解放される。
女性が働かなくてもよかった時代の方々の価値観を否定はせずに、「女性の権利が認められることは男性の立場を脅かすことではない」ということを、若い世代がうまく伝えていかなくちゃいけないなと思っています。
Text/菅原さくら(@sakura011626)
Photo/ぽんず(@yuriponzuu)
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