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SNSに嫉妬をまぜこむ人は、他人の恋愛に怒りやすい

嫉妬心をポジティブに変えるために、私たちができること。

SNSに嫉妬をまぜこむ人は、他人の恋愛に怒りやすい

世間体を気にする恋はしんどい。

そう思っていても、SNSで他人の恋愛にあれこれ口出しする「世間」を目の当たりにしていると、どうしても世間体を意識してしまって――。


「セフレから恋人に昇格するにはどうしたらいいですか?」


「容姿に自信がなくて……」


「結婚してるのに、他に好きな人ができてしまった」


知り合いや友人、ましてや家族に言えないような恋の相談に耳を傾けるのは、バーテンダーで作家の林伸次さん。

誰にも話せない。けれど、この秘密を誰かに明かしたい……そんな一夜限りの想いを胸にして彼ら(彼女ら)は林さんの元を訪れるのかもしれない。


今回は、7月に恋愛小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』を上梓したばかりの林さんに、「恋と世間体」というテーマでお話を伺った。

他人の目を気にする心理・他人の恋にあれこれ言いたくなる心理について、林さん自身はどう考えているのだろうか。

■嫉妬心とインターネットの難しさ

渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」店主・林伸次さん

他人の不倫に対して「自分には関係ないから興味がない」という人がいる一方で、ものすごく怒る人もいる。

芸能人の不倫スキャンダルが報じられるたび、関係のない第三者がネット上で怒りの声をあげる。


他人の不倫に怒る第三者の心理について、林さんは「嫉妬が根底にある」と言う。

「人間って嫉妬するようにできてるんですよ。

フリーライド(ただ乗り)っていう言葉があるんですけど、みんなが一生懸命に頑張っているのに、ひとりだけ適当に楽しくやってる人がいると、『ズルイ!』って嫉妬するようにできてるみたいなんです。

同じように、他人が不倫してると、『自分らは一夫一妻制でやってるのに!』って損してる気分になってしまうのかもしれません」


また、世の中には他人の不倫を「汚い」「気持ち悪い」といった言葉で批判する人もいる。

それは嫉妬心というより「生理的な嫌悪感」なのだろう。

そういった感情を抱く心理について、林さんはどう考えているのか。

「たとえば、自分の親がセックスしてるところって見たくないし、想像したくない。本能的にというか、生理的に。

不倫に生理的な嫌悪感を抱く人も、その感覚に近いものがあるのかもしれないですね。不倫に限らず、『性的なもの』に嫌悪感を持つ人もいますし」


他人の不倫を叩く理由は、嫉妬心か生理的な嫌悪感だけだろうか。もしかしたら、「つらい思いをした経験から不倫がトラウマになった」という人もいるかもしれない。


自分の配偶者に不倫をされた。

親の不倫によって家庭が壊れた。


こういった事情を持つ人もいるだろう。


そういう人の怒りは、不倫をしている人だけではなく、ネット上で「他人の不倫に興味がない」と発信する人にも向けられるケースがある。

「その辺は難しいですよね。ネットの文章でも、読者が増えれば増えるほど、いろいろな人に届く。決して誰かを傷つけたいわけじゃないけど、結果的に傷つけてしまうこともある。

たとえば『お酒って美味しいよ』ってツイートしたら、『お酒が飲めない人の気持ちも考えてください』って怒られるんです。でも、そのツイートは飲める人に向けて書いているのであって……。だから、蛇足とわかっていても、『もちろん、飲めない方もいるとは思いますが……』って毎回書かなきゃいけない。それがインターネットの難しさですよね」


不倫に限らず、SNSで芸能人の恋愛が炎上することがある。

最近では、女優の剛力彩芽さんが交際中の会社社長・前澤友作さんとのデートをインスタグラムに投稿したことで批判を浴びせられた例が記憶に新しい。

「それもきっと、嫉妬ですよね。たぶんみんな、うまくいっている人を見て嫉妬は感じるんですよ。でも、その嫉妬に対して『じゃあ自分もいい恋愛しよう!』って変換するのか、『調子に乗ってんじゃないよ!』と怒るのか。その違いだと思うんです」


林さん自身も、嫉妬を感じることがあるという。

「僕も、嫉妬はするんです。お客さんがたくさん入ってるバーの話とか、売れてる本の話とか聞くと、嫉妬する。その嫉妬をどう転換するかですよね」


恋愛は相手あってのものだから、必ずしも努力が報われるとは限らない。

多くの大人はそれを実感しているからこそ、嫉妬をポジティブに転換することが難しいのかもしれない。

■嫉妬をポジティブな原動力にするには

林さんは、嫉妬を恋愛の原動力に転換させるには「自信」が大切だという。

「僕はよく『自信持とうよ、自信持って笑顔でいけば恋愛うまくいくよ!』って発信するんです。だけど、その度に『こんなブスに生まれてる私の気持ちがわかるか』っていうコメントが届くんですよね」


自信のない人は「笑顔くらいでうまくいくわけがない」と思うのかもしれない。

では、そう思う人と自信のある人、両者の違いはどこで決まるのだろうか。

「やっぱり成功体験なんですよね。自信のある人は、成功した経験があるから自己肯定感が高い。だから、成功体験のない人に『自信を持って!』と言っても、なかなか難しいのかなって思います」

「僕の友人で、いい学校を出て、いい仕事をしている47歳の男性がいるんですけど、たぶん童貞なんです。彼には18歳のときに好きな女の子がいたんですが、振られてストーカーになってしまって……。

周りからも『あいつヤバイよ』って言われはじめて、警察沙汰ギリギリの事態を起こしてしまったそうなんです。それが彼自身のトラウマになったんですね。やっぱり、はじめての恋愛とセックスがうまくいったかどうかが、その後の自信につながる気がします」


一度傷ついたプライドを回復させるのは容易ではない。

もう傷つきたくない、自分を守りたいといった防衛本能により、恋に臆病になってしまう人も多いと想像する。

そういった成功体験がない人が恋愛を実らせるには、どうすれば良いのだろうか。

「大切なのはコミュニケーションを学ぶことだと思います。恋愛って、結局は容姿とかより、相手に『一緒にいて心地良い』とか『話してて楽しい』と思われるかどうか。たとえば、走る練習をしたら、オリンピックには出れなくてもちょっとは早くなりますよね。

コミュニケーション能力も、練習次第で向上できると思ってます。最近はデート講座なんていうサービスもあるそうですし。これからは、学校にしろサービスにしろ、コミュニケーションが苦手な人を対象に教えるといったことが増えていくと思いますね」



コミュニケーションを学べば自信を持つことができる。

それは、コミュニケーション能力の向上という「成果」がすべてだろうか。それだけではなく、成果のために「努力」をする前向きな姿勢こそが、自己肯定感や他者からの評価につながるのかもしれない。

■他人の目を気にしてしまう

恋愛は本来、ふたりだけのプライベートなもの。

だけど、どうしても第三者の目を気にしてしまう。

それは、SNSで他人の恋愛が可視化されるようになったことも背景にある。

「つい他人と比べてしまうということもあるかもしれないですね。SNSで他人が『こんなに素敵なデートしました!』ってディズニーランドの写真を載せてるのを見てしまう。そういう切り取られた輝かしい写真と自分の体験を比べて、優劣をつけてしまうのかもしれません」


他人の目を意識することで生じる葛藤。

「他人の目なんか気にしたくない」という声をよく耳にする。

一方で、周りからどう見られているかを意識することで生じる優越感もある。

「他人の目で言うと、若い綺麗な女の子を連れて歩いてるおっさんっていますよね。やっぱり、綺麗な人を連れて歩くことに優越感を抱く人もいるんだと思います」

人に自慢したい、見せびらかしたい。そういった欲求は、程度の差こそあれ、多くの人にあるものだろう。

もしも世間や社会というものがなくて、恋愛相手と世界にふたりきりだとしたら、恋愛感情は持続するのだろうか。

「たとえば、無人島にふたりきりだったら……うーん、周りに言えてこその恋なのかな……。うーん、でも、やっぱり好きだと思いますね。もしも好きじゃない人と無人島でふたりきりになっても、好きになっちゃうような気がします」


恋愛は、相対的にするものなのか、絶対的なものなのか。

それは、答えのない問いなのかもしれない。

「世間がなんと言おうと、気にせずに自分の恋を貫けばいい」

そんな言説をよく耳にするけれど、インターネットには他人の恋愛をジャッジするような言葉が溢れている。気にしてしまう人だけの問題ではなく、「気にさせる世間」の問題でもあるだろう。

だからこそ、林さんの「他人の恋は、他人の恋なんで。ジャッジはしないです」というスタンスを求めて、人は彼の店を訪れるのかもしれない。

自分の言葉も、世間を形作る一部だ。

「自分の言葉が誰かの呪いになりうる」ということを、いつも忘れずに自覚していたい。


取材・Text/吉玉サキ
TOP Photo/池田博美
Photo/DRESS編集部

林伸次プロフィール

1969年生まれ、徳島県出身。渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」店主。著書多数。最新刊は7月12日発売の『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎)。

Twitter:@bar_bossa

吉玉 サキ

1983年生まれ。noteにエッセイを書いていたらDRESSで連載させていただくことになった主婦です。小心者。

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