1. DRESS [ドレス]トップ
  2. 恋愛/結婚/離婚
  3. 他人の目にさらされる恋愛。それでも私たちは風邪を引くように恋に落ちる

他人の目にさらされる恋愛。それでも私たちは風邪を引くように恋に落ちる

Share

どんなに気をつけていても、予防対策をしていも、風邪を引いてしまうことがある。恋もそれと同じで、自分の意思でコントロールできるものではないのかもしれない。

他人の目にさらされる恋愛。それでも私たちは風邪を引くように恋に落ちる

恋は当事者同士でするものなのに、どうして第三者の目が気になってしまうのだろう。

ばかにされないだろうか。

「やめとけ」と言われないだろうか。

そんなこと、本当は気にしたくない――。

だけど、気にさせているのはいつだって世間の目で、自分もそんな目のひとつだ。

今回、そんな「恋と世間体」について語ってくれたのは、バーテンダーで作家の林伸次さん。

店を訪れる人からは、「今、浮気をしてるんだよね」「彼女のいる男性を好きになってしまって……」など、実に多種多様で、ディープな話が持ち寄られる。

渋谷のバー「bar bossa」で長年たくさんの恋愛模様を見つめてきた林さんは、「他人の恋」に何を思うのだろうか。

渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」店主・林伸次さん

■他人の恋は、他人の恋なんで。

林さんが7月に出版した小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(以下、『恋はいつも~』)は21編のラブストーリーからなる連作短編集。お酒と音楽、季節の描写が美しい作品だ。

物語の語り手である「私」は、林さん同様にバーテンダー。バーにやってくるさまざまなお客様の恋の話に耳を傾け、ときにはささやかに祝福し、ときにはさりげなく寄り添う。

作中のマスターは常に聞き役に徹し、お客様の恋に忠告することはない。林さんもそうなのだろうか。

「僕、忠告って一切しないんですよね。質問されたら、その人がなんて答えてほしいのかを想像して、その答えを言うようにしています。質問や相談ではなく、ただ『私、こういう恋してるんです』という話だったら、『そうなんですか~』みたいに返します」


作中のマスターは寡黙だけど、林さんご自身は気さくなキャラクター。

「意外と軽いんですよ、僕。不倫やセックスの話に対しては『すごい! そんなことしちゃうんですね~!』とか、そんな感じです(笑)」



お客様の恋愛の話題で盛り上がっても、それに対して「是か非か」ということは言わない。

「他人の恋は、他人の恋なんで。ジャッジはしないですね」


ジャッジしないことを心掛けているというよりは、「単純にそこまでの興味がないから」だという。

「下世話な噂としての興味はあるんですよ。でも、それが良いとか悪いとか、世間一般から見てどうなのかとか、そういったことには興味が湧かないんですよね」


その言葉は、ともすればややドライなものにも聞こえる。だけど、林さんに恋愛相談をする女性は後を絶たない。

なぜ、多くの女性は林さんに恋愛相談をするのだろうか。

「友人に相談すると『ダメだよ。そんな男、別れちゃいなよ』とか言われるらしいんですね。その点、僕はただのバーテンダーなので、お客さんの求めている言葉を言えるんです」



林さんは、「バーテンダーとしての自分」が求められている言葉を言うことにしているという。

「たとえば、女性からよく『彼女のいる男性を好きになったんですけど、どうしたら奪えますか?』って聞かれるんです。それって、もし奪い取れたとしても、彼女が幸せになれるとは限らないですよね。

でも、そういうことは言わないです。相談してきた人はそんなことを聞きたがってないですからね。僕がそこで求められている言葉は、『エッチのときにすっごく感じるといいらしいですよ~』とか、そういったキャッチーなものなんですよ」



そう笑ったあと、ふと真顔になり「でも、人間って本来はもっと曖昧なんですよね」とつぶやく。


たとえば、好きな人を奪い取れるかどうかも、掘り下げれば「奪い取れる」「奪い取れない」の二極ではない。


関係性はもっと多様で、幸せの基準も人によって違うだろう。


だけど、あえて掘り下げることはしない。


その距離感が、バーに来た人たちの心をほどいていく。

■どんなに気をつけていても、風邪を引いてしまうことがある。恋も同じかもしれない。

多くの人から恋愛相談を受ける林さんだが、ご本人は恋愛をどう定義しているのだろうか。

「恋愛って要するにゲームなのかな、と考えていて。自分のスペックやコミュニケーション能力を上げて、恋を成就させることが面白いんだよな、と。昔のフランスの貴族たちも、ゲームとして楽しんでたんじゃないかと想像するんです」



恋愛は心理ゲームの要素がある一方で、「風邪を引くように落ちてしまう恋もある」と言う。

「風邪を引くように恋に落ちるっていうのは、もうゲームじゃないですよね。風邪は引きたくて引くわけじゃないですから。『今日は会議がある!』と思っていても、引いてしまうこともあるじゃないですか。恋も、『この人のこと好きになったらダメだ』って思っていても、好きになってしまうことがあるんですよね」



『恋はいつも~』の中にも、「やっぱり恋ってひどい重症の風邪と同じなんです。(中略)でも、やっぱり風邪と同じでずっと耐えているとやがては治っていってしまうものなんですよね」という台詞が登場する。

若い男性シェフを好きになってしまった既婚女性が、恋心を誰にも言わずに封印する話だ。


「実はこの『恋は風邪のようなもの』という話は、僕の中ではすごい太い話なんです。この本を作るとき、編集者の方と『恋愛ってなんだろう』って考えたんです。そこで、『恋愛って結局消えていくよね』という話になって。風邪にかかるように恋に落ちて、でも、それが自然と治っていくように、いつか恋愛感情って消えていきますよね」



いつか消えていく恋と気持ち。それは、どこから始まるのだろうか。

「考えたんですけど、『相手の名前を検索したら恋の始まり』っていうところにたどり着いたんです。その人のことで頭がいっぱいになって、無意識的に名前を検索するようになったら、それが恋の始まりなのかな」



しかし、林さんは「今は恋愛が流行っていないのかも」という。

「恋に落ちたくない……と思う人が増えてるんでしょうね。きっと恋愛に夢中になってしまったら、めんどくさいことになってしまうって思っているんです。今は、マッチングアプリを使えば『こんなルックスで、こんなスペックで……』ってわかるじゃないですか。だから、条件に合った相手と熱くならないまま結婚まで持ち込みたい、という若い女性もいました」



風邪は、手洗いうがいや睡眠で予防する。


それと同じで恋に落ちないよう、心を予防している人が増えているのかもしれない。

■もしも「妻が僕以外に実はすごい好きな男がいて……」って想像すると、とても辛い。

世間体を気にする恋愛の代表といえば不倫。

不倫をする人の多くは、パートナーや世間に不倫がバレないよう気をつける。

だけど、そもそもパートナーへの罪悪感はないのだろうか。

「罪悪感があれば不倫しないと思うんですよね。好きな人といるときは目の前の相手に夢中で、妻や夫のことなんて頭からすっぽ抜けてるんだと思います。家に帰ったらまた、結婚している相手のことも思い出すんでしょうけど」

罪悪感なく不倫をする人がいる一方で、パートナー以外を好きになっても恋心を押し殺して一切の行動をとらない人もいる。そういった行き場を失った気持ちも「不倫」なのだろうか。

よく議論される「どこからが浮気問題」について、林さんはこう語る。

「今まで聞いた中で一番納得したのは、『嘘ついたら浮気』という基準ですね。 一緒に食事に行ってもいいし、デートしてもいい。だけど、それを報告しなかったら浮気、っていう定義です」



林さんはそう言ったあと、「でも、本当に本当は、気持ちが動いたらですよね」と話す。

「もしも妻が僕以外に実はすごい好きな男がいて……って想像すると、とても辛い。何もなかったとしても、妻が他の男のことを想って切なくなっていたら、僕は悲しいですね」


実際に想像してみたのか、そう言う林さんの表情がすこし暗くなる。

そして、その心理を自身でこう分析する。

「知り合いに浮気し放題の男性が何人かいるんですけど、『もし奥さんが浮気してたらどうする?』って聞いてみるんです。そしたら、どの人も『仕方ないよね』って言います。『あんたが浮気してるんだったら、私もしてくる!』って言われたら止める理由がないよな、って。

そう考えると、もし妻が浮気したら嫌なのは、僕が浮気していないからのような気もしてきました。『ずるい!』っていう……。 だから、本当はもしかしてみんな浮気したいのかもしれないです(笑)」



人間の心理を分析するのが得意な林さん。

不倫をする人の心理については、どう考えているのだろうか。

「僕の知り合いですごく悪い男がいるんですけど、彼は『毎回毎回、浮気じゃなくて本気で好きだから困るんだよね』と言っていました。相手の女性に『奥さんのことは?』と言われても、本当に、その場では奥さんのことを考えられないそうなんです」


そう聞くと、意図せずに「恋に落ちてしまった」ように聞こえる。

しかし、そういった恋を繰り返しているのであれば、それはやっぱり「ゲーム感覚」としての側面もあるのだろう。


取材・Text/吉玉サキ
TOP Photo/池田博美
Photo/DRESS編集部

林伸次プロフィール

1969年生まれ、徳島県出身。渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」店主。著書多数。最新刊は7月12日発売の『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』(幻冬舎)。

Twitter:@bar_bossa

Share

吉玉 サキ

1983年生まれ。noteにエッセイを書いていたらDRESSで連載させていただくことになった主婦です。小心者。

関連するキーワード

関連記事

Latest Article