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結婚する人生 しない人生 #1 大人になった僕は披露宴もするし、別居も提案しない

結婚する、結婚しない……どちらが幸せか? なんて問には意味がない。漠然としたイメージで比較するのではなく、表に出てこない一般のリアルな事例を受け止めてみる。そうすることで、自分はどうしたいか、自分にとってどちらが望ましい人生か――自分だけの答えが見えてくるはず。

結婚する人生 しない人生 #1 大人になった僕は披露宴もするし、別居も提案しない

 マンガ『美味しんぼ』の主人公で、東西新聞社の文化部記者・山岡士郎は、同僚の栗田さんに単行本43巻でプロポーズし、結婚することになる。いきなりなんで『美味しんぼ』の話なんだよ、とお思いのかたもいるかもしれない。なぜ『美味しんぼ』の話をしたかというと、じつは、僕の人生におけるロールモデルは、山岡士郎なのである(あとNHK朝の連続テレビ小説『あぐり』の吉行エイスケさん)。普段はグータラだけど、ものごとの本質はわかっていて、ここぞというときには、超絶いい仕事をし、間違っていると思うと躊躇なく上司にも楯突き、言うべきことは言う。なんてカッコいいんだ……。僕は将来こういう人物になるんだ! そう思って僕はずっと生きてきた。そんな山岡が。結婚の際に、結婚披露宴に反対するのである。あんな虚栄心の塊のような行事、いらねえよ! と。あんなのに無駄金を使うのは俗物だけだと。

■恥ずかしすぎた妹の結婚披露宴

 案の定、他の同僚やなんかに、叩かれまくるのであるが、大人になって、いくつかの結婚披露宴に呼ばれるようになって、僕は山岡の考えに大いに共感することになる。僕も結婚披露宴というものを理解できなかったのである。あんなのはずかしめ以外の何物でもないと。特に妹の結婚披露宴に出たときはマジで、見られたものではなかった。普段あんなにケンカばかりしている親子が、手紙で涙を流している姿を見て、なんて茶番なんだと、僕は飲めないお酒をぐいっと飲んで、早く忘れようと思った。

 また、山岡は、栗田さんとふたりの新居を決める際、別居を提案し、これまた、同僚から叩かれまくる。山岡曰く、ずっと一緒にいるとどんな人でも嫌いになってしまうから。これも大人になって、すごく共感することになった。誰かと一緒に暮らすなんて、どうかしている。人間、ひとりの時間がないと、発狂する。僕も、もし、結婚することがあったら、別居を提案しよう、そう心に決めて、今まで生きてきたのである。なんせ、僕の人生の指針である、あの山岡さんが言うのだから、間違いない。

■あのときは高すぎた結婚というハードル

 そんな僕にも30歳をすぎた頃、交際期間も3年を越えた彼女との結婚話が持ち上がった。彼女は僕の2つ下で、結婚適齢期に入っていたし、僕はその頃、インドに旅行に行き、腸チフスという感染症に罹り、生死の境をさまよって、1ヶ月入院した。そのときに、40歳を超えてこの状況はキツイなあと漠然と思い、結婚を意識するようになった。ちょうどタイミングがよかったのだ。そういうわけで、ふたりの間で、なんとなく結婚という目標に向けての合意形成が行われていった。そのひとつとして持ち上がったのが、結婚披露宴だ。僕は山岡士郎ばりに、結婚披露宴無用論を一席ぶった。すると彼女のほうは、それはもういまだかつてないほど大反発し、大喧嘩になったのである。彼女は東京ドームに5万人呼びたい勢いで結婚披露宴を豪勢にやりたいと僕に言ってきた。僕は、それだけはなんと言われようと、嫌だった。今までの自分のポリシーを曲げることはできない。「このままだと私たち結婚できないね」ふたりでため息をついた。仮にこの問題をクリアできたとしても、次は別居をきり出さないといけない。そのときの僕には、結婚はハードルが高すぎた。若かったのだ。しばらくして僕らは破局を迎えることになる。

■結婚はリスクヘッジ――それくらいのスタンスがちょうどいい 

 そして今。同じ状態になったら、どうするか。僕は、たぶん、結婚披露宴もするし、別居も切り出さないと思う。だんだん歳をとって、丸くなったのもあると思うが、そもそもの考えとして、結婚とは、リスクヘッジであるという側面として捉えるようになった。なんだか冷め切った考えと思われるかもしれないが、それくらいのほうが結婚はうまくいくのではないかと、数々の離婚した友人たちを見てきて、思うようになった。『美味しんぼ』で海原雄山と山岡士郎が和解したように、僕もあれから大人になったのである。さきごろ『美味しんぼ』が、もうしばらくで完結すると聞いた。『美味しんぼ』が完結するのが先か、僕が結婚するのが先か。いや、その前に僕は、彼女を作らなければならないので、京極さんみたいに飯食って泣けるような店にまずは女の子を誘うところからはじめたいと思う。

Text=神田桂一
ライター/編集者。『ポパイ』『ケトル』『スペクテイター』『トランジット』などのカルチャー誌から、『女性自身』『週刊金曜日』などでルポなども執筆。バックパッカーで、旅に関する寄稿なども多い。今ハマっているのは台湾。Twitter

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