「チャック女子」化させる組織で日本の会社は変わる?
『覆面姉さんのワサビトーク』は、酸いも甘いも噛み分けたDRESSの働く女性たちが、仕事やキャリア、結婚、出産・子育て、離婚などの女性が対面するさまざまな問題を、自身の生々しい経験を交えて匿名でコラム化したものです。第一回では、これからの会社や組織が生き残っていくために必要なことについて考えていきます。
はじめまして、大手金融機関に勤めるしの(49歳)です。
バブル期に当時流行った「女性総合職」で入社して早25年超。早めの結婚・離婚・再婚・二児の出産という浮き沈みの激しい人生と、同じく浮き沈みの激しい職場キャリアを展開しつつ、今も管理職として同じ会社に継続勤務です。
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先日、十年来の友人たちと飲んだ。
皆、今から10年ほど前に一度盛り上がった女性活躍推進の動きに合わせて作られた団体に参加すべく、各社から選出された女性管理職メンバーだ。当時はそれぞれの社内で女性は明らかに男性より不利な状況に置かれていたため、その改善・改革を求め、業界を超えて戦う同志でもあった。その後、リーマンショックによる不況でその活動がバッサリ切られてしまう、という苦い現実も一緒にしっかり味わった仲間だ。今でも数カ月に一度集まっては情報交換をし、社内ではとても言えない愚痴をその場限りで言い合い、盛り上がる。
先日、その中で役員になったMちゃんから、役員会議で自分の発言がなかったことのようにスルーされてしまう現状を聞かされた。それ、あるある! 特に純日本企業! そういう意見は結局「聞きたくない」んだよね~、と盛り上がった後、ひとりがふと言った。「今の『チャック女子(※1)』だらけの女性登用って、本当に私たちがあの頃頑張って目指した姿になっているんだろうか?」
※1:着ぐるみを着たように、見た目は女性なのに、背中についたチャックを開くとオジサンが出てくると言われる、「見た目は女性・考え方や行動パターンはオヤジ」な女性のことを指す。
■「中身は男」な女性が選ばれる理由
今の女性活躍推進は、政権の後押しで進展している。かつてとは隔世の感がある。
過去の個人的な経験を話すと、人事部のエリート男性に「え? 俺は自宅で仕事なんてしたくないよ。必要ないでしょ」と在宅勤務制度を一蹴されたことや、「なんで女性だけ特別扱いしなきゃいけないんだよ、俺たちは自分で苦労して社内人脈を作ってるのに」とメンター制度を潰されたことがある。
件のエリート男性は専業主婦の妻を持ち、女性が働くことには最初から否定的だった。いや、想像もできない、というのが正しいのかもしれない。
今になって在宅勤務やメンター制度を採り入れて、我々は女性活躍先進企業です! と華々しくアピールしているのを見ると悔しくもあるが、女性活躍推進もようやくここまで来たという安堵もある。そして管理職も、部長も、役員も、お決まりのような社外取締役も、どの会社でも10年前と比べると格段に女性の割合が上がっている。それは本当に嬉しいことではある、が、特に部長・役員クラスに登用されるのが「チャック女子」ばかりとなると、ちょっと首をひねらざるを得ない。
なぜチャック女子が重用されるのか。その答えは単純である。会社を動かしている男性にとって、登用した女性に自分たちの価値観に合わないような発言・行動をしてもらっては困るからだ。だから、自分たちと同じような発言・行動をしてくれる女性が選ばれる。
■便利に使われるチャック女子
ダイバーシティとは本来、ダイバーシティ&インクルージョンの略であり、元々は「多様性の認容」を意味する。多様性を受け入れ、それぞれの個性を尊重して、いろいろな意見を戦わせることで、今までの閉塞を打ち破って新たなイノベーションが生まれる、と考えられている。
多くの日本企業では、金太郎飴と揶揄されたように、同質の社員を育てようとしてきた。つまり日本で育ち、同じレベルの学歴を有し、同じ思考パターンで社内教育され、同程度の生活水準の日本人男性が、阿吽の呼吸でわかり合って、整斉と仕事を進めることがよしとされてきた。
確かにそれでよかった時代もある。しかし、今は全く先の見えない時代であり、10年後の予測は誰にも立てられない。だからこそ今はダイバーシティが重要であり、女性の目線や考え方といった「異種」の意見を経営判断に入れて企業の舵取りをすることが、企業の生き残りのために必要だと言われているのである。
しかし、現実はそうはいかない。今まで「わかるよな」で済んでいたものを説明しなくてはいけない。何より女性は正論を大事にするが、彼らは正論で済むものばかりじゃない、と言いたがる。過去の役員のメンツも大事にしたがると、社内のしがらみも大切になる。理屈では説明できないこともたくさんあるわけだ。
しかし女性を管理職、役員として登用しないと、民主的で開けた企業でないと思われるし、政府からの圧力もある。そこでチャック女子の登場だ。「はいはい、わかりますよ、そうですよね」と飲み込んでくれるチャック女子は便利なコマでしかない。
■会社が次の100年生き残るために大事なこと
だから、チャック女子ばかりが登用される現状では、本来のダイバーシティ、女性活躍推進の目的である、「日本の企業の力を強くする」ことにはならない、残念ながら。
もちろん、深夜まで集まって酒を飲んで管を巻いている我々が、全く「チャック女子」ではない、とは言わない。今までの時代、男性感覚を持たずして、この年まで会社で生き残れる訳はなかった。ただ、だからこそ今、「はいはい、わかりますよ」と言うのが、本当に会社がこれから生き残るためにはよくない、ということはわかっている。だから、嫌がられても「異論」を吐くのだ。だってこの会社も、この日本も好きだから。
チャック女子であっても女性が経営決定の場に入っていくのは、はじめの一歩としては歓迎すべきことだと思う。でもそれは、第一歩としての価値だけであり、本当のゴールではないんだよ、と言いたい。
むしろ女性でなくてもいい、外国人でなくてもいい、異論をきちんと吐ける人材が経営陣に入り、その意見を無視したり拒絶したりするのではなく、「認容」してきちんと議論して、会社の経営に生かせるなら、きっと日本も、日本の企業も、もっともっと力を発揮することができるだろう。それこそが、我々が10年前に一生懸命目指そうとした姿なのだ。
■しなやかでしたたかな姿勢がこれからの未来を創る
件の「発言がなかったことのように無視されてしまう」女性役員Mちゃんは、その後自分を慕ってくれる社員たちの気持ちを背負ってクビ覚悟で社長に手紙を書いた。その結果、社長はMちゃんの提言を採用した。そんなふうにしなやかに、したたかに、会社を変えていこうとする人もいる。
これから先、女性に門戸はよりたくさん開かれていくだろう。企業は個人では到底成し得ない規模の取引ができる、とても面白い現場だ。特にポジションが上になればなるほど、「自分で決められる」という、苦しいけどやりがいのある、「イタキモ(痛いけど気持ちいい)」な仕事が待っている。
その面白い場を男性だけに独占させて、挙句の果てに会社を衰退させるわけにはいかない。チャック女子はみんなの憧れにはなれないと言われている。だったら、そうならなければいい。そうじゃない、しなやかでしたたかな姿勢こそが、その女性の本音の意見こそが、必要とされる時代がきっと来るから。そう、まだまだこれから。先は長いし、負けてなんかいられない。
でもMちゃん、早く社長になってね。なったら、みんなで君の会社の株を買うから。だって本当のダイバーシティを実現した会社だもの、買いだよね。
Text/しの
※この記事は2016年1月15日に公開されたものです。