スイート・ホーム/ポプラ社/原田マハ
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「TheBookNook #41」は、大切な人へ“本”というラブレターを手渡す特集。日常に寄り添う3冊の物語が、あなたの代わりに言葉にしきれない想いをそっと届けてくれます。
みなさんは、誰かに“贈り物”をしたことはありますか…?
普段お世話になっている知人や、大切な家族。友人、恋人、もう二度と会えないかもしれないあの人……。
溢れるいとおしい気持ちや言葉に詰まるほどの感謝の気持ちを“贈り物”という形で示すことはとても素敵なことですよね。
今回、私がおすすめしたいのは、“本”の贈り物。“物語”というのは贈る側にも贈られる側にも、さまざまな可能性を見せてくれます。
贈り手の心をまっすぐに表現し、贈られた人の心に寄り添う……。
そう、本の贈り物はラブレター。
本を読みながらふと思い浮かんだあの人に、その物語を贈ってみませんか……? どんな言葉を並べるよりも想いが伝わる一冊があるかもしれません。
町の小さな洋菓子店“スイートホーム”を営む香田家をとりまく家族の物語。
他、全9編からなる心温まる短編集。絵に描いたような幸せとはきっとこういうこと。街も人も非の打ちどころが一切なく、善人と美味しいものしか登場しません。
もちろん良いことばかりではないけれど、悪いことばかりでもない。道中に広がるスイーツの香りにパティシエの振る舞い、看板娘たちの楽しい会話で、気づいた時には“幸せ”が伝染していく。
もちろん私たち読者にも。若干の胸焼けを覚えるほどの理想的な幸せの物語。幸せから始まって幸せで終わる。
……あ、もしかして今、つまらなそうって思いましたか?
一度、思い出してみてください。純粋に日常を描いた真っ直ぐな絵本を楽しんでいたあの頃を。
刺激がない物語は、ときに、それ以上の“衝撃”を私たち読者に届けてくれます。
誰かのやさしさに触れたい時、寄り添ってほしい時に読みたい、いや読むべき、大人のためのおとぎ話。読後は大切な誰かに、そして自分自身にエールを送りたくなること間違いありません。いいじゃないですか。みんなが幸せになる物語。
突然1歳の女の子の面倒をみることになった16歳不良少年のひと夏の奮闘記。中学駅伝をテーマに描かれた同著者の「あと少し、もう少し」の走者のひとり、太田君が主役の本作品。
駅伝を経て成長し、努力したものの実らず。何者にもなれぬ思いを抱いていた少年が子守を通して変わっていきます。
大きな事件が起きるわけでも驚くような展開もありません。でも、それなのに、自身と重なるはずのない少年と同じスピードで呼吸をするようにあっという間に読み終えてしまいました。まさか1歳と16歳のふたりに泣かされるなんて……。
よく笑いよく泣き、日々の行動ひとつに振り回され、必死に向き合い、育つ命の尊さを目の当たりにする……。
子育て経験がある人はきっと共感の嵐。物語の終わりがふたりの別れの時だと分かっているからこその読み終えたくない気持ちと、一緒に見守り、読み進めてあげたい気持ちで葛藤しました。
瀬尾まいこさんの作品はどこまでもあたたかく、こんなはずじゃなかったときも、今できる最善の先に明るい未来がたくさんあると信じさせてくれます。
きっと、あなたも、ぜんぶ大丈夫。
心に傷を負った人だけが辿り着ける、アルコールを出さない不思議なスナック キズツキ。ママはお客の愚痴を聞き、踊ったり歌ったり一緒に叫んだり……。
豊かに見えるあの人も、無神経に思えるあの人も、通りすがりの彼も、機嫌の悪そうな彼女も、みんな誰かの大切な人。
誰かの些細な一言で傷ついたとき、腹が立つこともありますが、その誰かもまた他の誰かに傷つけられていて、自分もまた気づかないうちに他の誰かを傷つけているかもしれない……そんな“キズツキ”の連鎖が描かれていく中で、作中に散りばめられた胸を撫でるママの心遣い(言葉)に励まされ、現実で引っかかっていた出来事がストンと自分の中に落とされていく感覚を覚えました。
そう、まるで自分自身がスナックキズツキを訪れられたかのように…。もしあなたが自分の“傷”に気がついたら、もう少し自分に優しくしてあげてもいいのかしれません。
誰のことも傷つけずに生きていくなんて不可能。つまり、たまには自分も傷つくということ。でも、それでも大丈夫みたいだと前を向けるそんな一冊でした。
身近な誰かに“ちょっと読んでみて”とあなたもすすめてみたくなるはず。アルコールなしで、“今日もおつかれさん”。
今回は私が実際に大切な人に贈ったことのある3冊を紹介させていただきました。
3作とも何が起こるわけでもない、私たちのすぐ近くでもありそうな日常の物語。
なんでもない日の贈りものは少し勇気がいりますが、普段口下手な人こそ、おしやべりな“本”の贈り物に、想いを託してみてはいかがでしょうか……?
みんな誰かの大切な人。あなたも、わたしも。
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