生を祝う/朝日新聞出版/李琴峰
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「TheBookNook #32」は、読後の不快感が忘れられない衝撃作特集です。八木さんが紹介してくれたのは、斬新な設定や残酷な実話、予想外の展開をもつ3つの作品たち。李琴峰『生を祝う』、ケッチャム『隣の家の少女』、我孫子『殺戮にいたる病』。トラウマ級の読後感です……、体験するか否かを決めるのは自己責任でお願いします。
読んでみたはいいものの、想像以上に読後の不快感が残り、後悔した……。そんな経験はありませんか?
読後に物語の一節がやけに頭に残っていたり、忘れたい描写が色鮮やかに思い出されたり、面白いが故に恐ろしくリアルに感じてしまうホラー、ミステリー、トラウマ作品を紹介させていただきます。
もう二度と読みたくない読書体験で、一緒に後悔してみませんか…?
出産=幸せ……ではない。新しい命が誕生することは必ずしも幸せなんてことはない。
人間はこの世に生まれた時点で人生という名の無期懲役だ。誕生の意思は親ではなく子供に確認するべきだ。
“合意出生制度”。胎児に遺伝や環境などの要因から“生存難易度”が伝えられ、本当に生まれるかどうかの判断が委ねられる近未来の制度を軸に物語は進んでいきます。
もし、出生を拒んだ胎児を出産した場合、親は罪に問われる。我が子に会いたくてたまらない母親に突き付けられる出生拒否。冷静に考えればあり得ない設定にも思えますが、技術さえ追い付いてしまえば実現してしまいそうな生々しさと説得力があり、半ば強引に物語に惹きこまれていきました。
さまざまな妊婦の視点で物語が描かれているためか、男性嫌悪の傾向が少し強すぎるようにも感じましたが、読みやすいボリュームながら世界観の精度が高く、苦しいのに一気読みしてしまえます。
もし、こんな世界が現実になったらどんなことが待っていると思いますか……? 自分の意思として生まれた世界のほうがよっぽど怖いように思えるのはに私だけなのでしょうか……。
なぜ読了できてしまったのだろう……。これほどこの感情を強く抱いた物語は、他にありません。
ここでおすすめしておいてこんなことを言うのもなんですが、私は、もう二度と読みません。
苦痛と共に生き、“本当の苦痛”を知っていると語る主人公。青春小説のような回想シーンから始まるものの中盤から非情な虐待と暴力に心が削られていきます。狂気に沈んでいく心情、複雑な感情の移り変わりの描き方があまりにも巧みで、本を持つ手の震えが止まりませんでした。
トラウマ、監禁、暴行、洗脳、拷問……冒頭から終盤まで一度も光なんて見えません。それどころか、黒く、暗く、もう戻れないところまで染まっていき……。正直、こうして今、思い返して文字に起こすのも戸惑うくらいには後悔しています。
でも、もし私が同じ空間に生きる子供だったら、同じことをしてしまっていたのかもしれないと思うと心の底にすらなかった何かがえぐり出されたような気持ちになりました。
何より恐ろしいのは、この作品が“実話”を元にして描かれた物語だということ。読む際は自己責任でお願いします。
たった一言で全てがひっくり返る大どんでん返しミステリー……と各所で謳われている本作品。
物語は次々と猟奇的殺人を重ねるシリアルキラーを追う形で進み、冒頭犯人が警察に捕まるところから始まります。犯行を重ねる少年、息子がシリアルキラーだと疑い始める母、定年退職をした元刑事の三人の視点で描かれていくのですが……。
真の犯人が冒頭で明かされているのに、どのようにして“どんでん返し”に繋がるのか。そんな疑問を抱きながら読み進め、時系列のピースがはまった瞬間……体中に電流が走るような強い衝撃に襲われました。
凄まじい人物トリックとトラウマになるほどグロテスクな描写。理解し難い欲求をもつシリアルキラーも、息子を過保護に心配する母親も、かなり常軌を逸しており翻弄されつつ読み進めました。
そして最後の最後で明かされる事実。ところどころに違和感を覚えつつも殺害シーンに引っ張られほぼ思考停止なまま最終ページまで読んで呆然自失。解説まで読んで無理やり落とし込みました。
これは再読してスッキリしたいのですが……まだその勇気が出ません。グロ描写が苦手な人は要注意です。
今回紹介した三作品は角度は違うものの、どれも私が人に安易に“おすすめできない”作品達です。でも、一度は最後まで読めてしまった物語。ただの胸糞小説とは違います。
希望も正解もないラストのその後の世界に思考を巡らせ、光を見れるかは私達次第です……ね。
秋に読書するなら、環境を整えるところから。ベッドやソファでくつろげるようなアイテムを用意して、万全の準備をして充実した読書タイムを……。
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