性犯罪の原点は「家族」にある。女性をモノ化する男尊女卑的価値観

性犯罪の原点は「家族」にある。女性をモノ化する男尊女卑的価値観

痴漢という性犯罪の根本に潜んでいるのは、日本社会に蔓延る「男尊女卑」という価値観。わたしたちは、この差別的な考えを次世代に連鎖させないために、どうしていけば良いのでしょうか。痴漢問題の実態に迫りながらそのヒントを探ります。



斉藤章佳先生インタビュー前半の記事はこちら「男性に無視され、女性に軽視される痴漢問題

■女性をモノとして捉える「男尊女卑」的価値観

――性暴力が引き起こす問題のひとつとして「セカンドレイプ」が挙げられます。以前この話を聞いたときに感じたのは「なんて簡単に行われてしまうのだろう」ということです。ぼくもきっと自分の気づかないところで「セカンドレイプ」をしてしまっているだろうなと。

「セカンドレイプ」は、男女とも無自覚に行っていることが非常に多いです。

――この「セカンドレイプ」をなくすことは可能なのでしょうか。

まずは、性暴力の実態を正確に知ることですね。

今、私たちの治療プログラムに自主的に協力してもらっている被害者の方がいます。
このプログラムは『被害者からのメッセージ』というもので、自分の被害体験を加害者の前で話してもらうという試みです。通常、被害者と加害者の対話はまずありえませんが、その方のたっての希望で実現しました。彼女は約20年以上も前に性暴力の被害に遭い、今でもその後遺症に苦しんでいます。でも加害者側は「そんなに長く苦しむ必要はないんじゃないか」と思うわけです。それだけ時間がたてば、回復して普通の生活ができるじゃないか、と。こうした加害者側(周囲)の想像力の欠如は、セカンドレイプを引き起こす要因のひとつと言えるでしょう。

被害者は被害に遭った瞬間だけでなく、そのあとにPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状で苦しみ、人間関係にも大きな支障が出てきたりとさまざまな後遺症に苦しみます。このときに正確な知識がなければ、実は同姓(女性)からのセカンドレイプも結構あると聞いています。

例えば「時間も経ったし、そろそろ大丈夫なんじゃない?」とか「もう男性と普通に付き合えるんじゃないの?」などの言葉をかけてしまうことがあります。被害をなかったことにする。これほど辛い孤独なことはありません。そして、悪気がないだけに余計に相手を傷つけることになるといった悪循環が生じます。

――想像力が身についていない人が性犯罪を起こしやすい、ということですか?

性犯罪を起こす人は想像力がないかというと、実はある意味彼らは想像力が豊かです。痴漢行為をするときには、今までの経験を振り返ってどうやればうまくいくかをシュミレーションしたり、行動場面を想像しながらマスターベーションをする人もいます。

でも、自分が傷つけた被害者に対する想像力は抜け落ちてしまします。これは、想像力がないというわけではなく、自分で想像することを止めてしまっているんです。

――想像することを止めている……。

弱者(自分より下に見ている対象)や女性(モノとして見ている対象)への想像力を働かせようとしないのです。新聞紙はモノですよね。新聞紙を破って「その立場になって痛みを理解しろ」と言ってもわかりません。これと同じようなことが起こっているんです。

女性や弱者をモノとして捉えてしまう原因は、現代に至るまで脈々と受け継がれてきた「男性は女性を力で支配しても構わない」という男尊女卑的な考え方が根底にあります。

――痴漢の撲滅、という話になると「満員電車の解消」や「女性専用車両」などの社会的施策が話題になりますが、より本質的に解決していくためには、そうした男尊女卑的価値観をどこかでアップデートしなければいけない、と。

もちろん環境的な整備で痴漢を減らしていくことは大切だと思います。でも、それだけでは根本的な解決にはならない。きっと痴漢は起きなくても、どこか別の場所で他の性暴力が起きる可能性はありますし、その男性自身の生きづらさにコミットしないと好ましい変化は起きません。

■私たちは「男尊女卑」の価値観をアップデートしていかなければならない

――斉藤先生は、男尊女卑をなくすために、どうすれば良いと考えていますか?

性犯罪の治療プログラムでもっとも大切とされているのは「対話」なんです。

加害者臨床の中では対話を大切にしています。これは男尊女卑的価値観も同じで、どう相手と対話をしていくかということが非常に重要です。対話をして、自分の中にある価値観を調整していかないといけません。ですので、男性はもっと対等に女性と対話すべきだと思います。

――男尊女卑の考え方が強い人の価値観が、対話によって変わっていくんですね。

例えわかりあえないとしても対話をすることが重要だと思います。「自分にはこういう考えや感情があって、こういう受け入れがたい価値観がある」ということは、言葉にしなければわかりません。特に男性は「考える(Think)」は得意でも、「感じる(Feel)」が苦手です。相手を感じながら、ひとりの人間として対等にコミュニケーションをとることを意識的に習慣化していくことが大切かなと思います。

――そもそも、こういった差別的な思考をこれからの若い世代に残さないためにはどうすれば良いのでしょうか。

まずは家族単位で、男尊女卑の文化を断ち切っていく必要があるでしょうね。子どもができたときに、男尊女卑的なロールモデルを親が示さないことが大切だと思います。

――例えば、夫婦間における「対話」として気を付けるべきポイントなどはあるのでしょうか?

私自身も実践できているとは言いがたいですが……(笑)。
最近「お互いのことを『家内や主人』と呼ぶのをやめましょう」というトピックがありました。呼ぶなら「妻と夫」、「パートナー」、もしくは「連れ合い」と呼んでいる方もいますが、とにかくお互いが対等な関係であることを示すような呼称を家庭内で使っていく。このように日常会話レベルで変えていくというのもひとつの方法だと思います。

■「痴漢なんて、たいしたことない」をなくすために

――ここまでお話をお伺いして、痴漢という問題の根本的な原因が見えてきました。ですがその一方で、そもそもこの痴漢という問題の深刻さをもっと理解してもらわなければいけないなと感じます。

そのためには、やはり痴漢問題の正確な実態を知ってもらうことが大切です。

例えば、「痴漢」は「強姦」よりもたいしたことがないと思われています。
被害を比較することは現実的ではないですが、例えば強姦被害者と痴漢被害者が10人ずついたとして、どちらの後遺症が大きいか――それはPTSDの重症度だったり、それによって長期間通院しなければいけない状態になったとか、医療費などのコスト面などを計算した場合、これはもちろん強姦被害の方が大きいと想像する人が多いと思います。ですが、痴漢被害に遭った方も電車に乗れなくなるとか、夜眠れなくなるとか、男性不信になってしまう、重度の場合は自殺を考えるなど、人生に多大な爪跡を残すという点では一緒なんです。

それにも関わらず、女性側の中でさえ痴漢は軽視されています。人によっては「春だからしょうがない」と害虫が出たくらいに考えている人もいるぐらいです。

――他の性犯罪と比べてしまうことが、痴漢を軽視する状況を作り出しているんですね。

それから「こんな痴漢被害に遭った」という被害者側のメッセージが社会にあまり出てこないこともそういった要因のひとつです。性犯罪刑法改正以降、さまざまな媒体を通じてレイプなどの被害者メッセージは発信されるようになりました。被害者支援の本や手記などを見ても、書かれている内容のほとんどはレイプ被害が中心です。

一方で、痴漢被害の体験談ってほとんど出ていないんですよ。こうして痴漢被害の実態を知らないまま、膨大な数の被害者が毎日泣き寝入りしています。だからこそ、痴漢被害の実態をもっと発信していく必要があると思います。

■性暴力が生み出す「被害者カースト」の実態

被害者側の中にもカースト制度みたいなものがあるらしく

「あなたは強姦というひどい被害に遭った」

「あなたは痴漢だからそんな酷くないね」

「強姦被害に遭った人はかわいそう。痴漢なんてたいしたことない」

というように、被害の重さを比較するという現象が被害者同士の間で起きています。

被害者の方が結婚をして子どもを産むときに、他の被害者の方が「あなたは被害者なのに、なんで結婚や出産ができるの?」と非難されるケースもあります。被害者は被害者らしくしなければいけないという呪いに被害者自身が縛られているんです。

――被害者は慎ましく、陰に隠れてろ、と?

これは性暴力による後遺症であり、被害者の人たちが悪いのではありません。被害者側の中でも関係性を壊すような影響力が性暴力にはあるのです。

そして被害者の人が普通に生きて、幸せになっていくことに抵抗を覚えてしまう。これは痴漢に限らず他の性被害でも同じことが言えます。

――「被害者のくせに」という弱者を見るような目は、男尊女卑的価値観に似ていると思います。

「被害者だったら被害者らしくしろ」という社会の声ですね。このように世間がイメージする被害者像に、実際の被害者を当て込むわけです。これも被害者が声を挙げられない状況に拍車をかける要因になります。

――最後に『DRESS』読者である30代・40代の女性に、少しでも痴漢を減らすために必要なことをお伝えいただければと。

多くの女性が痴漢の被害に遭ってます……ぜひこの『男が痴漢になる理由』を読んでください(笑)。

あと、同性である女性の同調圧力に気づいてもらうことも大切です。
性被害の相談を受けるプロの方々は、訓練を受けているので「あなたは絶対に悪くない」と言うところから支援をスタートするんです。被害者の中には、被害を受けた側なのに「自分に落ち度があったんだ」と思ってしまう方も多数います。ですので、被害に遭ってとしても具体的な回復にむけた行動に移せないことがほとんどです。

ですので、もしも身近な人から性被害の相談を受けることがあれば、まずは「あなたは悪くない」と伝えてほしいです。それから、被害者支援の紹介や警察などに被害の実態を届けるような行動に繋がるサポートをしてあげてください。世間の人々には、性暴力に遭ってしまったら声を上げて良いんだということを知ってほしいです。

Text・構成/小林航平

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¥ 1512

斉藤章佳著,イースト・プレス刊 (2017/8/18)

斉藤章佳先生プロフィール

精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。 1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症ケア施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。著者に『性依存症の治療』、『性依存症のリアル』(ともに金剛出版/共著)がある。その他、論文多数。

「痴漢から見る日本の病とは~緊急討論」は以下の記事からご覧になれます

第一回:すべての人間には、加害者性がある

第二回:「女性専用車両」は、なぜ憎しみを産むのか?

第三回:性犯罪の一次予防は「性教育」から始まる

この記事のライター

人生を自分らしく楽しむ大人の女性たちに、多様な生き方や選択肢を提案します。

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