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「バイバイ」じゃなく「またね」 人との出会いの中で、中川翔子がもらった生きる希望

DRESSの『運命をつくる私の選択』は、これまでの人生を振り返り、自分自身がなにを選び、なにを選ばなかったのか、そうして積み重ねてきた選択の先に生まれた自分だけの生き方を取り上げていくインタビュー連載です。今回のゲストは中川翔子さん。

「バイバイ」じゃなく「またね」 人との出会いの中で、中川翔子がもらった生きる希望

アニメカルチャーにとどまらない多種多様なジャンルへの深い造詣を活かし、キャリアを通じてさまざまな興味の分野へコミットしてきた中川翔子さん。近年はいじめやネット上の誹謗中傷に対するアクションを起こし、社会に向けた発信をおこなっています。そんな活動の背景にある中川さんの考えを伺いました。

ヘアメイク       :柏瀬みちこ
スタイリスト      :宮崎真純
取材・文        :ヒラギノ游ゴ
写真          :宮本七生
編集          :小林航平

中川翔子さんインタビュー風景

■“何かを褒めるゲームをする場所”で

中川翔子さん

――アニソン、ポケモン、宇宙など、中川さんはかねてSNSなどで熱く魅力を語っていた分野に次々お仕事で関わっていっています。そういった夢を叶えていく姿に励まされている方は少なくないのではないかと思います。

いやいや、とんでもないです。私のネットの使い方はずっとそうですね。とにかく好きなことについて喋るという。
大好きだったことにお仕事で関わりを持てているのが自分でもずっと不思議な感じなんです。今も昔も仕事に繋げようってつもりはなくて、まったく別のことを思って始めたことだったので。

――元々はどういった思いで?

卒業アルバムにほとんど載ってなかったんです私。個人の写真以外だと、どのページも写ってるのはいわゆる陽キャの人たちばっかりで。卒業式も休んじゃったし。
高校を卒業したてで芸能のお仕事がほとんどなかった時期、私って今この世から消えたらなんの証も残らんなって思って。それで、自分が生きてたっていう記録を残そうと思ったんです。
最初はネットを使った日記として始めたんですけど、途中からどうやらこれがブログって名前になるらしいって知って。

――当時はブログという言葉自体なかった時期なんですね……!

そうなんです。それで、最初はスクールカーストの上の人たちに合わせる感じで「趣味は読書とお菓子作り」みたいなこと書いてたんですよ。でもすぐに断念しました。やっぱりそういう人生を送ってきてないので無理があって。

ブログを始めた当時は本当に闇って感じでした。「アニソン歌いたい」、「特撮ヒロインになりたい」って思って芸能界入ったけど、誰も見てくれてない。
そういう鬱々とした思いをブログで吐き出したい気持ちもあったんですけど、万が一誰かに見られたら「こいつ大丈夫か」って思われちゃうから、じゃあ自分の好きなことについて話そうって決めたんです。
思いきって学生時代好きだったけど言えなかったことを全部ここでぶちまけようって。
すごく怖かったけど、「私もです!」って声がたくさん届いて。なんだ、息できるじゃん! って思いました。

――そういうふうに、中川さんの趣味についての発信で救われたファンの方はたくさんいらっしゃると思います。

私のほうこそネットやSNSには人一倍助けられてきました。……すごく傷つけられもしたけど。
ただネットへの向き合い方としてずっと変わらないのは、何かを褒めるゲームをする場所として使ってるってこと。本心で思ってないことは書きたくないというか、心が動かされて我慢ならなくなって書く、というのをずっと続けている感じです。

■子供時代のこと、大人として思うこと

中川翔子さん

――いわゆるオタクと呼ばれる属性を持つ女性たちの存在は、この数年でぐっと顕在化してきました。そして中川さんこそがその変化のキーパーソンの1人と言えるのではないかと思います。

そんなふうに言っていただけるとうれしいです。そう思っていいのかな……。でも、お仕事を通じて子供たちと話していると、教室で絵を描いてるだけでキモいって言われる、みたいなことは随分減ってきてるのかな、とは思います。

なんで好きなことをやってるだけで“恥ずかしい奴”みたいなことになるんだろうって今なら不思議に思えるけど、自分自身、中学に入った頃からそういう扱いを受けてました。

学校でひどいことを言われて、家に帰って「なんでだろう、なんでだろう」って頭の中ぐるぐるしながら楳図かずお先生の模写をしてました(笑)。

つらかった中学時代の姿がレギュラー出演していた番組で「光を求めていた頃のしょこたん」としていじられたことで、少し前向きに捉えられるようになったそう

あの頃の気持ちを忘れないようにしようって思ってるんですけど、やっぱりリアルタイムで渦中にいる子の話を聞いてはっとすることはたくさんあります。
中でも忘れられないのが、大津のいじめ事件についてのディスカッションに呼んでもらったときのこと。

出席者のひとりである中学生の子が「大人はしんどいときにぱっと喫茶店に入ったりして気分転換できるけど、私たちはそうはいかない。だから生徒が自由にできる空き教室をひとつ与えてほしい」って言ってたんです。今まさにの当事者じゃないと言えないことですよね。

今学校に通ってる子供たちの逃げ場のなさ、1日1日の重さがわかってなかったなと思いました。流れる時間の速さが大人と全然違いますよね。思い返せば、5分休みだって永遠に感じられたなって。

そもそもいじめって言葉の使われ方に疑問を感じることが多々あります。この言葉が隠れ蓑になって、犯罪として対処されるはずのことが覆い隠されてる。大人たちがそういうふうに問題を見えにくくしてはいけないですよね。

明るみに出るのは被害者がどうにか大々的なアクションを起こしたものだけで、結局被害者が被害から立ち直ること以外にも別の無理をしなきゃいけない。

それに、大人たちがキャンペーンの標語なんかで「子供たちをいじめから守る」って言っても、行動が伴ってないと説得力は生まれにくいはず。ネットで大人が大人に誹謗中傷してる姿を、いじめと同じ構図を日々見せられて、この世界は大丈夫だと思えるんだろうかって。

■「もっと褒めてあげれば良かった」

中川翔子さん

最近になって子供と関わる機会が増えてきて、子供にかける言葉の選び方には本当に気をつけなくちゃなって思います。何気ない一言のつもりでも、大人が思ってる何倍も重いものを投げつけてるかもしれない。
褒めたり励ましたりするにしてもちゃんとリスペクトして思ってることを言わないと、その空気感が伝わりますね。

私はいじめられてた頃に「今だけ我慢して、卒業しちゃえば大丈夫だよ」って言ってくれた大人に対して「私は明日も学校行かなきゃいけないんだよ」って思ったのをよく覚えてるんです。子供の体感している時間の流れ方に寄り添った言葉じゃないというか、そんなふうに感じたんだと思います。嘘くさくなっちゃいけない。子供はわかるから。
いざ傷ついた子供を前にしたときに、私はなんて声をかけられるだろう、変なことを言ってしまったらどうしようっていつも不安になります。

――傷ついた子供に「この大人なら大丈夫そうだ」と思わせられるのは並大抵のことではないと思います。中川さんはどのようなことを大切にされていますか?

話し相手になったり、得意なところを褒めたりすることで救われる子供はたくさんいると思っています。
自分の子供時代がそうでした。小学校の先生がいいところを見つけてたくさん褒めてくれる人で。私が絵を描くのが好きだってことを察して、ちょっとしたクラスの掲示物なんかに絵を描く機会をくれたりして、役割と居場所を与えてくれたんです。

大人同士もそうですよね。褒めあったり励ましあったりは、ある意味大人同士の方が軽んじられてるかもしれません。そういえば、私が大尊敬している漫画家の楳図かずお先生のことなんですけど。

楳図先生はしばらく漫画を描かれていない時期があったんですけど、描かなくなった理由のひとつが「誰にも褒められないから」だったんですって。

それを聞いて私はええー! ってものすごくショックを受けたんです。
私たちファンは四六時中褒められると思うんですよ。でも実際日常で関わる人からは、描くことが当たり前になっていって声がかけられなくなる。
また描こうって思ったのも、数年前にフランスで賞をもらったからだそうです。

――賞という形で久しぶりに“褒められた”ということですね。

そのお話を聞いて、大人だって褒められないと気持ちが続かないのは一緒だよなとしみじみ思いました。褒められたい、認められたいって気持ちは何も子供っぽいことじゃないよなと思います。

私が出演させていただいたしまじろうの映画『しまじろうと キラキラおうこくの おうじさま』にもそういう場面があります。私が演じたのはエメラルド女王というキャラクターで、毎日忙しくしていて、あまり子供と接する時間を持てていない母親です。

物語の終盤、ちょっと見ない間にどんどん息子が成長していくことを実感して、「もっと褒めてあげればよかった」って言うんです。台本を読んで「うわ、本当にそうだな」って思いました。誰かをいいな、素敵だなって思う気持ちがあるならちゃんと口に出さなきゃ。

■抑止のために上げた声

中川翔子さん

――中川さんは昨年末、YouTubeに『殺害予告・誹謗中傷の件についてお話しします。』という動画を投稿されました。

私自身、ネットでの誹謗中傷の被害を受けていて。

これまで長い間、“有名税”みたいな言い方でしょうがないこととして扱われてきたと思うんですけど、あまりにもひどいし、きりがないし、改めて考えてみてもこれはしょうがないとかじゃないじゃんって。

昔はもっと「言い返すほうがおかしい」みたいな同調圧力というか、被害者に何か言わせない空気があったんですよね。芸能人なんだからにこにこしてなきゃって。

最近ネットでの誹謗中傷が厳罰化されましたけど、まだまだ軽いと思いますし、もっと早く動いてよかったと思います。

――中川さんの発信以降、被害を訴える方がちらほらと現れた印象があります。

そうだとうれしいです。
同じように苦しんでる方のために、抑止になればと思ってやったことなので。誰かを攻撃したらちゃんと報いがあるんだってことを社会に見せていかないと。警察っていろんな方法で匿名の相手を特定できるんだってこと、もっと知られてほしいと思います。

警察の方には、抑止のためにと思って動いたけど、意味あるんですかね、もしかしたら逆効果なんじゃないですかねって聞いてみたんです。
そしたら、「いや、抑止効果はものすごくあるし、こういう行動を起こしてくれると僕たちも動けますから」って言ってくれました。

実際、自分に向けられている誹謗中傷も発表後はだいぶ落ち着いているとは思います。
それに、こういうアクションを起こすだけじゃなく、ネットのいい面を見せることも同時にしていけたらと思います。無責任にネット最高だよねっていうんじゃなく。
ネットは新しく好きになれることを見つけられる場所。宝探しみたいな使い方もできるんだよっていうことを言っていきたいですね。

■先輩たちのようになるために、キャンペーン中

中川翔子さん

――宝探しとおっしゃいましたが、中川さんはいわゆるオタクらしい趣味以外にもどんどん新しい分野を開拓されていますよね。最近だと運転免許を取られたりとか。

長らく陰の者だったからこそ、陽の人たちがやってたことが新鮮で楽しいんです。

中川さんの本名は「中川しようこ」(「よ」は大文字)。届出時の手違いによるもの。

車なんていらない、部屋の中に欲しいものは全部あると思ってたけど、車で行かないと出会えなかったご飯屋さんを見つけたり、アニソンがあればいいと思ってたけど、K-POPも聴いてみたら「いやかっこいいな!?」ってなったり。

昔は「私はこれが好きなんだ」「みんなが好きになるようなことには興味ないんだ」っていう線引きをして、どんどん思い込みを強くしていたところがあったんだと思います。免許を取ったくらいの頃から、そういうのをやめようっていうキャンペーンをしていますね。今は車を買おうかなって思ってます。

取材から数日後、実際に購入したベンツ

新しいことで言うと、YouTubeを始めたのは大きいです。
ブログを始めて一気にいろんなことが拓けていった、きらきらわくわくのゾーンに入ってたときと似た感覚なんです。

毎日忙しいけど、毎日低温のまま過ぎていくのはもったいないから、新しいことを楽しんでやっていきたい。そのほうが生きてて得してる感じがして。

あと、若々しい先輩方って皆さん新しいことを否定しないでおもしろがってるんですよね。
そういう人になりたいって思います。

――思い出深い先輩とのエピソードがあれば教えてください。

たくさんあります! 私には本当に恩人がたくさんいて、しみじみ人に恵まれてる、運がよかったと思います。

たとえば芸能界に入ってすぐの頃、初めてのレギュラーで共演した勝村美香さん。元々憧れの人なんです。大好きな『未来戦隊タイムレンジャー』でユウリ(タイムピンク)役を演じていた俳優さんで、私はユウリみたいなかっこいい大人の女性になりたい、勝村さんみたいにお芝居やったりグラビアやったりしたいって思って芸能界に入りました。

ただのファンだった頃も、イベントなどでお会いすると、本当に優しくしてくださって。レギュラーでご一緒していた頃って芸能界の治安が今より悪くて、けっこうよくないいじりをされることもあったんですけど、そういうときにも守ってくれて。大恩人です。

――そういった先輩方から学んだ、人生の重要な場面での決断の指針にしていることがあれば教えてください。

そうですね、やっぱり「おもしろそうだからやる」というのはありますね。
お仕事でご一緒してから仲良くしてくださってる小林幸子さんや水木一郎さんからも学ばせてもらったことです。

この間も私のYouTubeの企画に小林さんが出てくださって。ある日私が家に帰ったら、小林幸子さんがゾンビの格好で倒れてたんですよ。

大御所中の大御所がなんでこんなことやってくださるんですか? って聞いたら、「だって楽しいじゃない!」って。そういう姿勢って本当にかっこいいなって思います。

水木一郎さんも、この間「ゼルダおもしろいですよ」って言ったらすぐ始めて、あっという間に祠コンプリートして。

※祠:Nintendo Switch/Wii Uソフト『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の攻略対象である構造物。

年下の人もリスペクトしていきたいし、そういう先輩からもどんどん吸収して、新しいことにチャレンジしていきたいです。それはそれで「今度はここに手出してきたか」みたいなふうに言われちゃったりもすると思います。だからこそ、お仕事に繋げるために何か言うみたいなことはしないようにしてますね。

■もっと周りにも自分にもご褒美を

中川翔子さん

――これまでの人生を振り返って、忘れられない言葉があれば教えてください。

私はこれまで、本当にピンチなときに憧れの方が優しい言葉をかけてくれて踏みとどまるってことが何度もあったんです。どの言葉をもらったときも「もうやめようかな」って思うくらい落ち込んでるタイミングだったんですけど。

たとえば、松田聖子さんからは「あなたにはたくさんの才能があるから、楽しみにしてるんですよ」という言葉をいただきました。聖子さんの魅力を8時間ぶっ通しで語るラジオ番組の最後にサプライズでいらっしゃって、そのときにくださった一言です。
あの頃はプライベートで弱りきっていて、眠れないくらいかなり限界だったとき。言葉と一緒にディオールの香水もプレゼントしてくださって、号泣しすぎてなんて返したか覚えてないくらいです。

もうひとつが、楳図かずお先生が何気なくおっしゃった「またね」。

――またね、ですか。

ご本人としては本当に何気なく言ったことだと思うんです。ただ、あの楳図先生が、何者でもない私なんかに「またね」って、この先を感じさせる言葉をくださったことに救われたんです。その3文字があったから、辞めなければ・死ななければまた会えるのかもって思えてがんばれた。
だから私もイベントをやるときには「バイバイ」じゃなく「またね」って言って終わるようにしてるんです。

――おふたりとも未来のことを指す言葉という点で共通しているかもしれません。

そうですね……「お疲れさまでした」でもよかったと思うんです。そういう区切りをつける言葉でも、それはそれで労われたとは思うんですけど、未来のことを考えられる言葉だからこそ助けられた部分は大きいかもしれません。本当に命の恩人です。

そんな方でさえ「褒められないから描きたくなくなる」ってことがあるわけで、人を褒めること、褒めあうことって本当に重大なことなんだと思います。
私もつい、すばらしい方を前にして「神!」って思っちゃうけど、みんな人間なんだっていうのは忘れずにいたいです。どんな方が相手でも「すごいですね」って言えることを見つけていきたい。

中川翔子さん

あと、周りを褒めるのもそうですけど、自分にももっとご褒美をあげていきたいです。
この間、ご褒美ひとり旅をやってきたんですけど、最高だったんですよ。

福島でのお仕事終わりに急遽思い立って、仙台に行ったんです。おいしいものを食べまくって、自分にたっぷり時間を使って、本当にスカッとして。

久しぶりの休みだったので、これまでだったら部屋でひたすらゴロゴロしてたと思うんですけど、自分にご褒美を与えることをサボってたんだなって。やるとこんなに元気になるんだなって思いました。せっかく今こうして大人になっていろんなことができるようになったんだから、大人の自由度を楽しみたいですね。

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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