木南晴夏が好きなことにまっすぐな理由「どの道を選んでもきっと幸せ」
DRESSの『運命をつくる私の選択』は、これまでの人生を振り返り、自分自身がなにを選び、なにを選ばなかったのか、そうして積み重ねてきた選択の先に生まれた“自分だけの生き方”を取り上げていくインタビュー連載です。今回のゲストは、俳優の木南晴夏さん。
高校生のときに芸能界へと足を踏み入れてから約20年、俳優業をメインに第一線で活躍し続けている木南さん。現在は、大好きな「パン」に関するお仕事も精力的にされています。木南さんが幅広く活躍し続ける裏には、どんな“選択”があったのでしょうか。
スタイリスト :中井綾子
取材・文 :仲奈々
写真 :宮本七生
編集 :小林航平
■4歳のとき、姉と一緒に見た宝塚『ベルサイユのばら』
ーー木南さんが芸能界に入ったのは約20年前、中学を卒業してすぐの頃です。小さい頃から芸能界に興味があったのでしょうか?
もともとは芸能界というより、宝塚に入りたかったんです。きっかけは4歳の頃に家族で宝塚の公演を見たこと。演目は『ベルサイユのばら』で、アンドレイ役が天海祐希さんで、オスカル役が涼風真世さんでした。そのとき宝塚の世界観に圧倒されて、幼いながらにいっきに引き込まれてしまって。自宅に戻ってからもその感動が忘れられず、一緒に劇を見に行った姉と「いつかふたりで宝塚に入ろう!」と約束したんです。その頃は、よく姉と宝塚ごっこをして遊んでいました。
それから、姉が宝塚に入るために習い事を始めたので、私も後を追うようにいろいろ始めました。小さい頃は週7日で習い事に通っていました(笑)。ピアノ、バイオリン、新体操、バレエ、日本舞踊や声楽……学習塾や習字もしていましたね。どれも姉が先に始めて楽しそうだったから、私もやってみたくなって。
いつも姉が何かを一足先に始めて、私もそれに続くことが多かったんです。振り返ると、小さい頃の私は何かを決めるとき、姉を中心に家族の影響を大きく受けていたなと思います。
ーー木南さんは「パン好き」で知られていますが、そちらも家族の影響ですか?
パンは母の影響が大きかったと思います。私がまだ幼稚園にも行っていないような頃、母がパン工場で配達の仕事をしていて。母に連れられて、私も一緒に配達に行っていました。そうすると、工場で働いている方が焼き立てのパンをわけてくれたりしました。その後、姉が近所のパン屋さんでアルバイトを始めたりもして。だから、実家に住んでいる間は常にパンがありましたね。
近所にパン屋さんができたらすぐに足を運ぶし、行きつけのパン屋さんも何軒かありました。母も姉もパン好きだったんだと思います。でも、私自身は中学生頃まで「自分がパン好きだ」とは思っていなかったです。
■「パンが好き」小さな趣味から広がった世界
ーー今では“芸能界一のパン好き”と称されることも多い木南さんですが、パン好きを自覚したきっかけは何だったのでしょうか?
高校生のときに地元を離れて、東京で寮生活を始めました。そのとき、朝ごはんはしっかり食べて、昼はサラダメイン、夜はダイエット食品だけという、今考えると過酷なダイエットをしていたんです。
その寮は、朝ごはんにパンかお米、どちらかを選べたので、私は毎朝パンを選んでいました。お腹がすいているからか本当においしく感じて。 朝ごはんを食べ終わった瞬間から「翌日の朝ごはんが待ち遠しくてたまらない」って日々を半年くらい過ごしていました。そのときに、パンへの愛情が大きくなったのだと思います。
それからダイエットもやめてひとり暮らしを始めました。自由な時間が増えてからは、パン屋さんめぐりをするように。「東京にはこんなにたくさんのパン屋さんがあるんだ!」「東京にはこんなにおいしいパンがたくさんあるんだ!」って毎日のように感動していましたね(笑)。多分、都内だけで100軒以上は回ったと思います。
ーーパン好きが高じて、パンの食べ方で性格診断ができるとの噂もありますが……。
それは難しいですね(笑)。ドラマを見ていたらパンの食べ方で性格診断ができるというシーンがあって、私もやってみようと思って、雑誌のパンの連載で遊びでやってみただけなんです! サンドイッチを縦にして食べる人は、人と違うことをしたがる天の邪鬼とか……私の妄想で性格を診断してみただけなんですよ。
ただ、今でもいろんな方から「パンの食べ方で性格診断ができるんですか?」と仰っていただけるのですが……パンの食べ方で性格診断はできません!(笑) なのでみなさん、ぜひ好きな食べ方で召し上がってください!
ーーパンへの愛情が深いからこそ「パンでなんでもわかりそう!」と思われるのかもしれないですね。木南さんはパン以外にも、語学やダンスなど、特技が多い印象です。好きなことは突き詰めるタイプなのでしょうか。
そうかもしれません。逆に言えば、昔から好きなことや興味があることしかできないタイプ。その分、好きなことにはとことん没頭してしまいます。
10年ほど前に、ドラマで日本語が話せる韓国人の役を演じたことがあって。そのときに韓国語の発音がかわいいなと思って、一年ほど大学の夜間学部に入って韓国語を勉強したんです。当時は『冬のソナタ』が流行っていたので、クラスには韓流ドラマ好きの生徒さんがたくさんいました。そこに混じってカリカリ勉強していましたね。
ーー仕事をしながら学校に通うのは大変なことも多かったのではないですか?
仕事と重なって授業に出れないことも多々あったので、そういう意味では大変だったかもしれません。でも、好きなことをやっている時間は楽しかったですね。それに芸能界では、趣味や特技をそのまま仕事に活かせるチャンスが眠っている気がします。
だからこそ、何をやっても無駄にならない。どんな些細なことでも、好きだったり得意だったりすれば必ずプラスになる世界にいるって、すごくラッキーなことだと思うんです。だから、少しでも興味が湧いたことは何でもやるようにしています。
ーー木南さんの場合は、パン好きがこうじて、雑誌での連載やオリジナル宅配サービス「キナミのパン宅配便」がスタートしていますね。
自分の好きなものでお仕事をさせていただけるのもありがたいのですが、そこからさらに世界が広がっていくのも楽しいんですよ。ふだんは近所のパン屋さんに行くことが多いのですが、「日本中のパン屋さんをめぐる旅」みたいなお仕事があると、知らなかった全国のパン屋さんに出会うことができます。好きが仕事になって、そこからまた好きが深まっていくなと思っています。
ーーパンに関するお仕事が広がっていくことによって、木南さんにはどのような変化がありましたか?
人間関係が広がりましたね。あるドラマの撮影のとき、私がパンが好きだからという理由でプロデューサーさんが毎回パンを差し入れしてくださって。そうしたら共演させていただいていた阿川佐和子さんが、「パンに合うと思って持ってきたの」と手作りジャムを差し入れてくれたり、「こうして食べてもおいしいかも」とみんなでいろんなトッピングを楽しみながら食べたりして。
阿川さんは、「実は一番の得意料理はお粥なの」と言ってスタッフ全員分のお粥を作って振る舞ってくれたこともありました。
パン好きをきっかけに、人との輪も広がりました。パンに限らず、“食”には人と人とをつなぐ効果があると思うんですよね。自然と縁をつくってしまうような。でも、新型コロナウイルスが流行してからは、みんなでワイワイ食事を囲むことが減ってしまって……。それがすごく寂しいんです。私が思っている以上に、“食”は私に大きな影響を与えていたんだと気づきました。
ーー“食”をはじめ、コロナ禍で変わったことは多いかもしれませんね。
新型コロナウイルスの流行によって社会がどれほど変化したのかを体感しました。コロナが流行する前はみんなで集まってワイワイ食事や休憩をしていたのに、食事のときはもちろん、楽屋でも距離を取らなきゃいけなくなっていて……。
特に舞台の公演期間中は、無事に公演できるよう感染予防を徹底していたから、数カ月間に渡って舞台関係者と家族以外には会わない生活を送っていました。また、仕事の関係者とは、一定の距離を保つために仕事の話以外は極力しないようにしていたから、実質コミュニケーションを取る相手が家族しかいなくて。あのときは結構しんどかったです。
その一方で、パンを食べることに関してはあまり変化がなくて。パンって基本的にパン屋さんで購入して自宅で食べるから、コロナ禍でも変わらず楽しむことができるんです。むしろ、家にいる機会が増えたから日本全国のパン屋さんから取り寄せにもチャレンジできます。コロナ禍で、パン愛はより強まったかもしれません。
ーー自分で楽しむだけでなく、パンを好きな人を増やしたいんですね。
「日本のパンがおいしい」ってことが、まだ広まりきっていないことが悔しいんです。あんまりパンが好きじゃないって人に話を聞くと、「パン屋さんでパンを買って食べたことない」って口にされることが多くて。
スーパーやコンビニの袋パンももちろんおいしいんですけど、パン屋さんのパンもめちゃくちゃおいしい!それをもっとたくさんの人に知ってほしいんです。好きなことはとことん突き詰めたい性格だから、私の好きなものをみんなにも知ってほしい、世に広めたい! という気持ちが強いのかもしれません。
■“ヒロインの友だち役”しか受からない自分が嫌だったけど
ーー“好き”な気持ちに正直に突き進んだ結果、俳優業も、パンのお仕事も順調にステップアップしているようにお見受けします。キャリアが変化していく中で、木南さんにはどのような悩みがあったのでしょうか?
芸能界に入ってしばらくは、俳優としてのキャリアに悩んでいました。オーディションを受けてヒロインの友だち役に選ばれることが多かった時期があるんです(笑)。でも、本心ではヒロイン役を勝ち取りたくてオーディションを受けていたから、当時は複雑な心境でした。
あるとき、ヒロイン役に選ばれたくて思い切ってオーディションの受け方を変えてみたんです。その結果、ヒロイン役に選ばれないどころか、友だち役にも受からなくなってしまって……。「何をやってもうまくいかない」と絶望していましたね。でも、2008年に公開された映画『20世紀少年』のオーディションで転機が訪れたんです。
その作品でも、いただいたのはヒロインの友だち役でした。今思うと、オーディションのときに少し違和感はあって。ヒロイン役志望で受けているのに、なぜか私だけヒロインのせりふを読ませてくれず、それでも最終審査まで残れたから、「今度こそヒロインになれるかも」と期待していたら、ヒロインの友だち役に決まったと結果を知らされました。
正直、ショックでしたね。私は一生ヒロインにはなれないと突きつけられたような気持になってしまいました。
実は、当時のマネージャーにオーディション後「友だち役ならやりたくないです」って伝えていたんです。でも、「公開前から注目されている映画の出演を断る選択肢はない」とバッサリ切られました(笑)。あのときの私は望んだ配役がいただけず落ち込んでいたけれど、無名の女の子が出番もせりふも多い役で注目の映画に出られるなんて奇跡のようなこと。役を辞退しなくて本当によかったなと思います。
実際、映画が上映されてから「ヒロインの隣にいるあの女の子は誰だ」「原作のキャラクターそのものだ」と多くの反響をいただいて。そこから一気にお仕事の幅が広がりました。ずっと“ヒロインの友だち役”が嫌だったけど、俳優としてステップアップするきっかけをくれたものも“ヒロインの友だち役”でした。
ーー『20世紀少年』でヒロインの友だち役を演じてから約15年が経ちましたが、役に対する気持ちの変化はありますか?
今でも「主演の友だち役」を演じることはありますが、「また友だちか」とは思わなくなりました。それは私が大人になったからでもあるし、年齢を重ねるにつれて演じる役幅が広がってきたからだとも思います。学生の頃は、脇役といえばわかりやすく「主演の友だち」が多かったのですが、20代、30代と年を重ねるに連れて「部下」「上司」「恋人」「妻」「母」など役割の幅が広がってくる。それが面白いんです。
ーーこの秋から、ドラマの出演も決まっていると聞いています。
2022年9月からMBSにてスタートするドラマ、『闇金ウシジマくん外伝闇金 サイハラさん』と10月からTBSでスタートするドラマ、『君の花になる』に出演予定です。
ーー『闇金ウシジマくん外伝 闇金サイハラさん』ではどんな役を?
主人公の女闇金・屑原さんと確執のある夫を支える妻の役です。元ヤンで喧嘩っ早くて言葉遣いも荒い。何より、闇金業者が牛耳っている世界観で生きていて、なんだか現実離れしているというか……。役のキャラクターもドラマの世界観も、私の普段の生活とはかけ離れていて新鮮です。
ーー『20世紀少年』や『勇者ヨシヒコ』など、現実とかけ離れた世界観の役を演じることはこれまでにもありましたよね。
『勇者ヨシヒコ』は、ドラマかどうかさえわからないですよね(笑)。ドラマの世界観も出てくるキャラクターもぶっ飛んでいて、何だかコントをやっているような感覚でした。でも、そのよくわからない感じが楽しかったです。サイハラさんもそれに近いかもしれません。世界観が非現実的だからこその楽しさがあります。
ーーもうひとつ、火曜ドラマ『君の花になる』ではどんな役を演じるのでしょうか?
主人公の姉役です。ただ、主人公がボーイズグループのメンバーが住む家の寮母さんになるという、これまた変わった設定のお話(笑)。私は心配性で世話焼きな性格で、妹を心配してちょくちょく寮に現れる姉を演じます。
ーー現実では、木南さんは兄と姉がいる“妹”ですよね。『君の花になる』では“姉”を演じますが、現実と役でギャップを感じることはありますか?
普段から姉とか妹とかはあんまり気にしていないですね。今回の役でも現実の姉妹の関係でも、家族だから妹のことを心配するけど、妹が姉を助けることもたくさんあるんです。姉妹といっても、姉のほうが甘えたいときもあれば、妹の方がしっかりしているときもある。「妹だから」「姉だから」ではなく、お互いがお互いを思いやる姿勢が大事だと思います。
ちなみに、タイプでいうと私と姉は真逆。姉いわく、「月と太陽」らしいです。姉が太陽で私が月です。たしかに、姉は天真爛漫で社交的で甘え上手。一方で私は陰なタイプで人に頼るのが苦手で。だからこそ「妹だから」「姉だから」とこだわらず、昔から仲が良かったのかもしれません。
■どの道を選んでも、きっと後悔するし幸せだ
ーー木南さんの「自分の好きなことに素直になっている姿」に救われている方も多いと思います。ただ、前に進むためには選択を迫られる場面もあったのではないでしょうか。何かを選択しなければならないとき、木南さんはどのように決断してきましたか?
基本的には人に相談せず、自分で決めることが多いです。決めるときも明確な軸があるというよりは、そのときの状況や感情で「えいっ」と決断することが多いかな。たまに人に話してから決めるときもあるのですが、それは自分の中ではすでに答えが出ていて背中を押してもらいたいときが多いですね。
ーー自分の選択に後悔することはないのでしょうか?
以前は「やっぱりあの道を選んでおけばよかった……」と後悔することもありました。でも、最近はあまり気にならないです。
そのきっかけは、以前脳科学者の茂木健一郎さんと対談させていただいたとき。茂木さんから「AとB、ふたつの道で迷ったときに、どっちの道に進んだら幸せになれるか」と問われたので、「Aを選んだらBに進むとどうなのか知ることはできないし、同じようにBを選んだらAに進むとどうなるか知ることができないから、どちらが幸せか私にはわかりません」と言いました。そうしたら茂木さんは、「どっちの道を選んでも幸せの度数は同じ。木南さんの言うように、選ばなかった道の結末を知ることはできないから、どちらを選んでも同じ量の幸せがあるし、同じ量の後悔がある」とおっしゃったんです。
その話を聞いてからは、自分の選択に自信が持てなくても「どの道を選んでも私は同じだけ幸せだし同じだけ後悔する。なら、終わったことをいつまでも気にするのはやめよう」と思えるようになりました。
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