性犯罪の一次予防は「性教育」から始まる【痴漢から見る日本の病~緊急討論#3】

性犯罪の一次予防は「性教育」から始まる【痴漢から見る日本の病~緊急討論#3】

痴漢とAVの関係から、「痴漢」と聞くと冤罪問題を挙げる男性心理の話へ。最後には、痴漢を少しでも減らすためのアイデアを探っていきます。


2017年8月に刊行された『男が痴漢になる理由』(斉藤章佳著,イースト・プレス刊)は、痴漢の実態を解き明かし、その撲滅の手段を探る一冊となっている。男性の中には、タイトルを見ただけで、苛立ちを覚える人もいるだろう。

『男が痴漢になる理由』はすでに多くの話題を呼び、各メディアに取り上げられている。そして今回、著者・斉藤章佳さんと、痴漢をはじめとする性犯罪にまつわる問題を追うライター・小川たまかさん、そしてAV業界で長年仕事をしてきた二村ヒトシ監督、同書の企画・編集をしたフリー編集者の三浦ゆえさんが、痴漢問題に見る「日本の病」を、それぞれの立場から解き明かすトークイベントが開催された。

ここでは、イベントで繰り広げられた討論の一部を全3回に分けて紹介していく。

出演者プロフィール

・三浦ゆえさん(フリー編集&ライター)
・斉藤章佳さん(精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長)
・小川たまかさん(性暴力、教育、働き方などを取材するライター)
・二村ヒトシさん(アダルトビデオ監督)

第一回:すべての人間には、加害者性がある【痴漢から見る日本の病とは~緊急討論#1】

第二回:「女性専用車両」は、なぜ憎しみを産むのか? 【痴漢から見る日本の病とは~緊急討論#2】

■「痴漢」や「レイプ」のAVは「エロ」ではなく「犯罪」カテゴリにしてほしい

三浦ゆえさん(以下、三浦):続いてのテーマは「痴漢とAV」です。すべての痴漢常習者・性犯罪者は、こうした対象行為のアダルトビデオを見ていると言い切っていいのでしょうか。

斉藤章佳さん(以下、斉藤):私の勤めるクリニックにはこれまで1116名(※平成28年12月末時点)の方が来院しています。この数字は痴漢常習者のごく一部なんですが、彼らの治療から得たデータの話をすると、AVや痴漢サイトを見て模倣的に痴漢を始める方は実はとても少ないです。一方で痴漢が常習化した人がそれを見たとき、引き金になるというケースは多いですね。つまり痴漢サイトで痴漢になる人は少ないが、痴漢常習者のトリガーにはなることは多いということです。

二村ヒトシさん(以下、二村):斉藤さんは、治療者の立場から「痴漢を描いたAVはつくらないでほしい」と思いますか?

斉藤:彼ら(痴漢加害者)の言葉をヒアリングしていると、痴漢AVなどが明らかに行動の引き金になっているんですね。

二村:まあ、そりゃそうだよねぇ。

斉藤:ただ、彼らにはもちろん情報を選択できる能力があるので、作品自体を規制するのはどうなのかと思います。「痴漢AVが問題行動の引き金になる」という知識を持った上で、ご本人の中で選択していってもらいたいというのが私の希望です。

小川たまかさん(以下、小川):「痴漢」と「レイプ」は、エロカテゴリに入れないでほしいんですよね。犯罪カテゴリにしてほしい。

二村:これは「犯罪のフィクション」であると?

小川:そうです。「痴漢」や「レイプ」作品を見ている人は、エロを楽しんでいるんじゃなくて、暴力や犯罪行為で興奮するんだということを認識しながら見てほしい。
加害者には「認知の歪み」があると言われますが、Google検索で「痴漢」と検索したときに被害者ケアの情報ではなくAV作品ばかりが出てくるのは社会的な「認知の歪み」なのではないかと思います。

二村:AV業界でも、内容的な自主規制は始まっていて、たとえば成人した女優さんが子どもに扮して性行為をするビデオは作らない方向で申し合わせができつつあります。そういった作品を楽しみにしている人には本当に申し訳ないけど、ぼくは、これはもう仕方がない流れなんじゃないかって思っているんです。小川さんの「これはフィクションではあるけれど、エロではなくて、暴力や犯罪であることを分かって見てくださいね」という提言は、AVを作っている人間として、非常にもっともだなと受けとめます。

小川:でも難しい話ですよね。私は「エロが嫌いな人」と思われることが多いんですけど、そうではなくて性暴力が嫌なんです。そこのところを理解してもらえないことが多々あって。だから「性暴力」と「エロ」は違うものですよってことを、私は死ぬまで言い続けるのかなって思っています。

二村:我々の罪は、フィクションの痴漢やレイプやロリAVを作ったことではなく、もっと全体として「女性をモノ化したAVを作ってきたこと」です。よりユーザビリティの高いコンテンツを作ろうとしたことによって、人間のセックスではなくなってしまった。出演している女優さんたちは感情豊かな人間です。でも彼女たちに演じてもらっている映像に登場する女性は、ひたすら男性にとって都合の良いキャラクターなんです。

日常で生活しながら他者の気持ちが、もしくはセックスを撮影をしながら出演者の感情が本当にわかっているのか、ぼくには自信はないし、多くの人間もわからないでしょう。今、セックスレスになる人もとても多いし、性暴力も少しずつ問題視されるようになってきた。だからこそ、いかに被害者を生まないようにするかっていう議論は、してもしてもしたりないと思います。

■なぜ多くの男性は「痴漢といえば、冤罪」発想になるのか

三浦:「痴漢」の議論というのはいつも難しいなと思います。「痴漢といえば、冤罪があるじゃないか」と意見をぶつけてくる男性が多いからです。

斉藤:加害者臨床の中では、「抵抗」や「反発」というものを重要に扱うんですね。
抵抗や反発は、その人の本質に触れたときに起こりやすいものだということが、彼らの反応のパターンとしてよく見られます。

「あなたは痴漢になる可能性があるかもしれない」と提示されたときに、男性からこの冤罪の主張が出てくることは、抵抗や反発の典型例だと私は思っていて、彼らの非常に本質的な部分に触れているのだと考えています。

三浦:となると男性も一緒に「痴漢冤罪」でなく「痴漢問題」を話してもらうにはどうすれば良いのでしょうか?


斉藤:加害者臨床の中には変化のステージモデルというものがあるんですが、倫理感や道徳感を押し付けても反発しか生まれません。人間が変容していくためには、まずは教育的アプローチの中でリアルな実態や知識を知り、次のステージとしてリスクマネジメントの方法を学ぶ、そしてやっと「じゃあ、あなたはどうやって本当の意味で内面が変わっていくのか」、つまり、どのようにより良く生きていくのかということを治療の中で扱っていくんですね。これをグッドライフモデルといいます。なので、まずはファーストコンタクトとして正しい知識の情報提供とリスクマネジメントというのが大切になっていくのかなと思います。

■痴漢を少しずつでも減らしていくために――

三浦:二村さんからも「痴漢はどうやったって出てくるものだ」という話が出ましたが、それでも痴漢を撲滅する、あるいは少しでも減らしていくにはどうすれば良いと思われますか。


小川:『男が痴漢になる理由』に書いてあることくらいの知識を、日本中の大人が知るようになれば違うと思うんですよね。

とくに、これから自分のお子さんを通学電車に乗せるお父さん・お母さんは読んでほしい。自分が過去に痴漢に遭っていても忘れているお母さんもいるし、地方に住んでいたから満員電車の中で痴漢被害を受けること自体を想像できない人もいる。男性の多くは被害に遭ったことがないから「本当にあるの?」と軽視する方もいますよね。

だから、いざ子どもから言われたときにびっくりして「あなたに隙があったんじゃない」って言ってしまう。

二村:それがまたセカンドレイプになってしまったりする。

小川:そうなると子どもも誰かに相談しようと思えなくなってしまう。だから親と話し合うべき。交通事故があったときに110番すれば良いってことをみんなが知っているように、痴漢に遭った子どもにどんな言葉をかけたら良いのか、あるいはどんな言葉を言ってはいけないのか性的な加害心理を持った人が日常的に、子どものすぐ隣にいるってことを知っているか、知らないかって大きな違いだと思います。

斉藤:私も男性で、加害者と同じ部分を内包していますが、今のところセルフコントロールができているので行動化はしていない。ただ、非常に過度なストレスがかかった場合、反応として痴漢してしまうかもしれないということを、彼らの中に見ているんですね。だからこそ私は、加害者臨床を通して彼らの行動変容や治療を続けていかなければならないと思っています。

よく「加害者とばかり関わっていて辛くないですか」と質問されます。辛くはないですね。これは使命感というよりも、私の中の尽きることのない好奇心から来ていると思います。

二村:元痴漢加害者が「治療してほしい」と言ってきたときに、その受け皿がまったくなかった状況は、斉藤先生の登場とかでだんだん良くなっているかと思うんです。だけど、いまだに足りないんだよね。

斉藤:受け皿も専門家も全然足りないです。

二村:痴漢加害者は犯罪者ですから罪を償うのは当然として、償ったあとに「あなたは心の病気を抱えているんだよ」って告げる人がいないってことですよね。今って、痴漢で逮捕された人が、強制的に治療プログラムを受けるという仕組みはないんですか?

斉藤:今のところはないです。自分で保険証を持って来院してくれないと治療は始められません。そして、あくまでも継続するのは本人の意思のみです。

二村:まずは「痴漢は病気である」ってことをみんなが知るべきですよね。

小川:あと、痴漢の加害者ケアの場所がないっていうのもそうだし、被害者のケアの場も全然ないってことがですよね。強姦であってもケアの施設が足りてないですし、痴漢になると「痴漢ぐらいで……」って言われるんですよ。

二村:常習犯の加害者に「あなたは病気である。治そうとするべきだ。我々が協力する」と責任をもって告げる人がいない。一方、被害者が声を挙げても「たいしたことないじゃないか」って言われる。どちらも医療従事者がそういう対応をしていることがまずい。

小川:どちらも排除されて、ないことにされていますよね。

三浦:斉藤さんは痴漢の撲滅に関して、どういったアイデアをお持ちですか?

斉藤:一次予防……つまり、再発防止ではなくどう犯罪を起こさないような土壌を社会で作っていくかという部分はまったくの手つかずなんですね。ここに関しては、私たちのような加害者臨床の専門家ではなくて、性教育の分野だと思います。性教育の中で性被害にしても、性加害にしても、いかに性暴力のことを正しい知識と実態を伝えていく教育ができるかどうかが今まさに求められているのだと思います。なおかつ、そういった性教育を伝える専門家と、私たちとの連携もこれからやっていくべき課題かなと考えています。

第一回:すべての人間には、加害者性がある【痴漢から見る日本の病とは~緊急討論#1】

第二回:「女性専用車両」は、なぜ憎しみを産むのか? 【痴漢から見る日本の病とは~緊急討論#2】

(Text/小林航平)

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男が痴漢になる理由

出演者プロフィール

斉藤章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。 1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症ケア施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。著者に『性依存症の治療』、『性依存症のリアル』(ともに金剛出版/共著)がある。その他、論文多数。

小川たまか(おがわ・たまか)
文系大学院卒業後、フリーランスを経て2008年から編プロ取締役。主に性暴力、教育、働き方などを取材。2015年に自身の性被害を書いたことをきっかけに性暴力に関する取材に注力。エロは好き、暴力は嫌い。近々、性暴力とジェンダーに関する本を出版予定。

二村ヒトシ(にむら・ひとし)
アダルトビデオ監督。1964年東京都生まれ。慶應義塾幼稚舎卒、慶応義塾大学文学部中退。監督作品として「美しい痴女の接吻とセックス」「ふたなりレズビアン」「女装美少年」など、ジェンダーを超える演出を数多く創案。現在は、複数のAVレーベルを主宰するほか、ソフト・オン・デマンド若手監督のエロ教育顧問も務める。著書に『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(ともにイースト・プレス)、『淑女のはらわた』(洋泉社)、『僕たちは愛されることを教わってきたはずだったのに』(KADOKAWA)など。

三浦ゆえ(みうら・ゆえ)
フリー編集&ライター。女性の性と生をテーマに取材、執筆活動を行うほか、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』シリーズをはじめ、『サクラ先生が教える! コウノドリ 妊娠・出産 Q&Aブック』(講談社)、『失職女子。〜私がリストラされてから、生活保護を受給するまで〜』『私、いつまで産めますか?〜卵子のプロと考えるウミドキと凍結保存〜』(ともにWAVE出版)などの編集協力を担当。著書に『セックスペディアー平成女子性欲事典ー』(文藝春秋)がある。

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人生を自分らしく楽しむ大人の女性たちに、多様な生き方や選択肢を提案します。

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