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男性に無視され、女性に軽視される痴漢問題

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痴漢という性犯罪の根本に潜んでいるのは、日本社会に蔓延る「男尊女卑」という価値観。わたしたちは、この差別的な考えを断ち切るために、どうしていけば良いのでしょうか。痴漢問題の実態に迫りながらそのヒントを探ります。

男性に無視され、女性に軽視される痴漢問題

日本初の社会内での性犯罪再犯防止プログラムを12年前から実践している精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳(さいとう・あきよし)先生が執筆した『男が痴漢になる理由』(イーストプレス)は、痴漢加害者のリアルな実態を分析し、痴漢撲滅の手段を探っていく日本で初めての“痴漢の専門書”だ。

「世間一般で信じられている加害者像と治療に来る彼らの人物像の間には大きな乖離があります。サラリーマンで、4大卒で、妻子がいて……というように日本人男性の平均的なタイプの人たちが訪れます」

「一方で被害者はどうかと言うと、こちらも世間一般で共有されている人物像と被害者の相談としてくる人たちにも大きな乖離があります。世間では、短いスカートなど露出度の高い派手な服装や化粧の人が痴漢被害に遭いやすいと思われています。ですが加害者に聞いてみると、そういった自己主張が強そうな女性は選ばないと答えます。むしろ痴漢被害に遭いやすいのは泣き寝入りしそうなおとなしいタイプだったりするんです。世間が想像している痴漢と、リアルな実態には乖離があり、そしてこの乖離こそがセカンドレイプ(※1)の温床になっていると思ったんです」

1000人以上の性犯罪の加害者臨床に携わってきた斉藤さんは、本書を出版した理由をこう語る。今回『DRESS』ではこれらの内容を踏まえた上で、痴漢という問題を起こる本質的な原因を探っていく。まだ、本書を読んでいないという方は、過去に『DRESS』が取材させていただいた対談記事があるのでこちらもぜひ(記事の最後にリンクを記載)。

※1:性的暴行を受けた者に対して、第三者が、性被害の苦痛を思い出させるような言葉を投げたり、被害を受けた原因の一端が被害者自身にもあったというような中傷めいた発言をしたりして、精神的な苦痛を与えること。(新語時事用語辞典より)

■痴漢問題を軽視する世間の声

――僕がこの痴漢の問題に興味を持ったのは、先日、50歳代の女性と話したとき「昔は痴漢に遭いながら会社に行ってたんだよ(笑)」と軽い感じで話すのを聞いたことがきっかけでした。
おそらくこの女性が痴漢被害に遭っていたのは今から30年ほど前。それから2017年の今に至るまでの間に、痴漢(性犯罪)を取り巻く状況が変わっていないこと、そして痴漢問題をさも“そんなこともあった”という軽い気持ちで捉えている人を目の当たりにしたことへの驚きがありました。


私もその世代の方とお仕事をさせていただくことがあるのですが、とくに上の世代は「あなたに性的な魅力がない」ということで「痴漢に遭ってないと可哀想」というような発想を持っている人がいるということに驚きました。「性的魅力があるから痴漢される」という誤った認識が根付いているんです。

――「可愛くないんだから、痴漢になんか遭わないだろ」という言葉をぶつける人もいますよね。こういった痴漢問題への認識は、今の世の中でも大きいと感じますか?

大きいですね。容姿が特別可愛くはなくて、ファッションも地味な人が「痴漢に遭った」という話を友人に話すと、「あなたが痴漢に遭うはずないでしょ?」というリアクションをされる。さらに女性側からは「なんで私は痴漢に遭ってないのにこの子が?」というような捉え方をされてしまうこともあるそうです。

斉藤章佳(さいとう・あきよし)先生

■「女性は男性の性欲を受け入れて当然である」という価値観がある

――こうした発言や認識を痴漢被害を受けた女性へぶつける環境というのは、どうして生み出されたのでしょうか。

最近『男尊女子』(酒井順子著,集英社刊)という書籍が出版されましたが、この本は男尊女卑の考え方に知らないうちに染まっている女性の思考パターンの話です。

日本社会の根底には「男尊女卑」という価値観が確実に存在し、私たちはそれを育った環境の中で無意識に学習してきています。

さきほどの痴漢被害に遭った女性は、容姿端麗ではなく、ファッションも地味……こういった要素も含めて「女性は男性の性欲を受け入れて当然である」というような前提が、男尊女卑の思考の中にあるんですよ。

この場合、「痴漢されても仕方ない」というのは女性側が思うわけです。男性側は「減るもんじゃない」と思っている。この「減るもんじゃない」というのは、女性をモノとして捉えている典型的な表現ですよね。私は、こうした痴漢問題軽視の背景には根強い男尊女卑の価値観があると考えています。

――育った環境の中で、男尊女卑の考え方を知らないうちに刷り込まれているという。

私の両親は地方の田舎で暮らす60代後半なのですが、この世代というのはまだまだ男尊女卑という価値観が根強く残っています。例えば「町内会の集まりに女は出るな」という発想がある。そこに女性が参加すると「なんで女が出しゃばってでてくるのか」という反応がいまだにあるんですよ。さらに、親の世代よりもっと上の世代にはより強い男尊女卑的な発想があって、過去日常的にDVが行われていた世代だと思います。

私の親はそういった夫婦関係(男女モデルの最小単位)をロールモデルとして見てきた。そこから受け継がれた親の夫婦関係を私も見てきていますよね。ですので、子どものときから自然と学習している可能性が高いのです。でも、社会に出たときにそういった価値観や発想で適応できるかというと難しく、そこでは男女平等の考え方が浸透しつつある。だから、自分の中に新しい価値観をインストールして、アップデートしていく必要があります。

――夫婦関係から男尊女卑の考え方が受け継がれるんですか?

この本を読んだ20代前半の男性ですら嫌悪感を激しく示すケースがありました。詳しく話を聞いてみると、そもそもこの本の著者(私)のことを女性だと思っていたらしいんです。「女性がこういう本を出していることに反発や抵抗がある」ということです。

彼が小さいころには男女雇用機会均等法が制定されて、性別に関係なく活躍できる社会を教育として受けてきているはず。それにも関わらず、このような考えを持っているということは、家族というコミュニティの中で自然と男尊女卑的なロールモデルを見て学習していることが考えられます。

■痴漢の話を「無視する男性」がもっとも多い

――自分の中にある価値観をアップデートするという意味で『男が痴漢になる理由』は、まさに最適な一冊だと思いました。ただ、一方でそういった情報を取り入れるときに怒りを露わにする方も多くいるんですね。

加害者臨床の中では、「反発」や「抵抗」を重要な反応として扱います。反発や抵抗は、その人自身の本質的な部分に触れたときに起こりやすい彼らの典型的な反応パターンです。新しい情報を取り入れたときに生じる「否定的な反応」もそのひとつだと考えられます。

ですので、こうした反発や抵抗を踏まえて「あなたの中に今反発や抵抗が生まれています」「あなた自身がそれによって守りたいものはなんなのか」ということを揺さぶり理解しやすいように解体して、さらに言語化していく作業が加害者臨床の中では大切になってきます。もしもこの作業をせずに反発や抵抗のまま終わってしまうのであれば、その人の成長は止まったままであるということになってしまう。

――この「男が痴漢になる理由」という言葉だけで、「抵抗」や「反発」を示す人は数多くいるような気がします。

大勢いるでしょうね。これを見た人の反応としては「反発や抵抗を起こす人」、「無視する人」そして「自分の中に新しい価値観として取り入れようとする人」という3パターンが考えられます。中でも一番多いのが「無視する人」です。

そしてこの「無視する人」というのが一番変化することが難しい。「反発や抵抗をする人」はきちんと反応をしてくれるのでまだ変化の可能性があります。

――「無視する人」に向けて、痴漢の実態を知ってもらい、反応を引き出すためにはどうすれば良いのでしょうか。

取っ掛かりとしては、挑発的な問いかけをするしかないですよね。加害者臨床でもテクニックとして使いますが、刺激的な言葉をぶつけることで反応を引きだすということが大切だと思います。そして、そこから対話が始まります。


(後半に続きます)


Text・構成/小林航平

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斉藤章佳先生プロフィール

精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。 1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症ケア施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。著者に『性依存症の治療』、『性依存症のリアル』(ともに金剛出版/共著)がある。その他、論文多数。

「痴漢から見る日本の病とは~緊急討論」は以下の記事からご覧になれます

第一回:すべての人間には、加害者性がある

第二回:「女性専用車両」は、なぜ憎しみを産むのか?

第三回:性犯罪の一次予防は「性教育」から始まる

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小林航平

編集者。『DRESS』マーケティング/コミュニティ担当。社会問題、生きづらさ、ジェンダー、恋愛をテーマとした取材・編集・企画制作もおこなう。

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