「逃げたら負けだから、立ち上がる」プロレスラー・野村直矢に見る心の強さ
野村直矢さんは、全日本プロレスに所属するプロレスラー。1993年生まれの23歳。デビュー3年半の若手ながら、がむしゃらな負けん気の強いファイトスタイルで、見る者を魅了しています。DRESSプロレス部 部長補佐の池田が注目する若手選手のひとりでもあります。野村選手のインタビューをお届けします。
「完成」「成熟」といった言葉が似合うプロレスラーがいます。彼らの洗練された試合を観戦するのはもちろん楽しい。一方で、彼らと比べると経験が少ないせいか、「未完成」「荒削り」な印象を与えるものの、今後必ず素晴らしい選手になると感じさせてくれる、次世代のプロレスラーを見つめ、応援するのもとても楽しい。
プロレス観戦歴1年半と短いですが、そんな楽しみ方を見つけた、DRESS編集長/DRESSプロレス部 部長補佐の池田です。今春より私が注目する若手選手のひとり、全日本プロレス所属の野村直矢選手をインタビューしました。
■プロレスを見るのが好きな少年時代
――幼い頃からプロレスラーになりたいと思っていたんですか。
プロレスラーを志したのは10代の終わりで、それまでは単に、プロレスが好きな子どもでした。父がプロレスファンだったこともあって、僕も幼稚園くらいからプロレスに興味を持って、昔の映像をビデオで見ていましたね。
小3くらいから、夜中に放送されるプロレス番組を見るようになりました。夜更かし型な小学生だったんです。土曜の新日本プロレスで長州力さん、日曜のプロレスリング・ノアで小橋建太さんを見て、カッコいいなと憧れました。これぞレスラーだ! という印象で、はまっていきました。
――生観戦もするようになりましたか。
初めて生で試合を観戦したのは中2の頃です。僕の地元は金沢で、あるとき偶然、全日本プロレス金沢大会のポスターを見かけて、これは行きたい! と夏休みに見にいきました。地方での興行は東京と比べると全然少ないので、行けても年に1回くらいのペースでしたね。
――当時、生でプロレスラーや戦いを見て、どんな感想を持ちましたか。
ものすごい迫力でした。休憩中にトイレに行ったとき、外国人レスラーと出くわして、「でけぇ……!」とびっくりしたのを覚えています(笑)。「この人、プロレスラーだ」と、ひと目でわかる大きさだったんです。
■実は戦略的? 全日本プロレスに入った理由
――そうやってプロレスにはまっていくなかで、プロレスラーになろうと明確に決意して、動き始めたきっかけは、なんだったんですか。
高3の夏に進路を考えるとき、軽い気持ちでAO入試を受けて、仙台の私大に進学したんです。でも、せっかく大学生になったのに、勉強をだらけてしまい、授業についていけなくなって、悶々としていました。
そんなときに、読んでいたプロレス雑誌で、全日本プロレスが「練習生募集」の広告を出しているのを見て、大学1年の終わりに応募してみたんです。
――なんと……。運命的な出会いですね!
いえ、そんな感じでもなく、打算的な気持ちが働いていました(笑)。当時、全日本プロレスは所属選手の離脱が続いていたので、他の団体よりも若手選手を欲している印象があったんです。
だから、中学では陸上部、高校ではラグビー部と、格闘技経験がまったくない僕でも、入団できるチャンスはあるのではと思い、入団テストを受けにいきました。
――プロレス団体の入門テストは、非常に厳しいと聞きますが、どうでしたか。
正直、テスト内容は全然こなせませんでした。でも、意識して大きな声を出すとか、プロレスをやりたい、という気持ちは示すようにしていましたね。
キツいメニューでも途中で投げ出さず、とにかくやりきるようにもしました。そういう姿勢を見せていたので、「まぁ仕方ない。合格にしてやるか」という感じで、入団させていただけたんだと思います。
■入門からデビューまでの半年
――現在(2017年9月末時点)、新生・全日本プロレスの生え抜き第1号が野村選手だと思います。入門後の思い出を教えてください。
先輩たちとの合同練習は、入門テストとは比べ物にならないほどキツかったです。毎回つぶれていた記憶があります。ただ、僕ができるようになるまで、先輩たちが見てくれたのが大きくて、おかげでできることが少しずつ増えていきました。
とくにマット運動はとても苦手で、倒立もろくにできないほどだったんですが、練習を続けるうちにできるようになって。練習をすればするほど、できることが多くなっていて、嬉しかったですね。
――デビューは入門から約半年。とても順調な滑り出しに見えます。
正確に言うと、デビューさせていただいた、という感じです(笑)。金沢大会開催(2014年3月30日)に向けて、なんとか間に合わせようと、先輩たちにも力を貸していただき、なんとかデビューしました。
――初めてリングに上がって、地元のお客様の前で戦ったその日のことを覚えていますか。
デビュー戦の内容はさっぱり覚えていません。ただ、めちゃくちゃ緊張したのは確かです。今でも試合前は緊張しますが、「絶対に勝ってやる」という思いが、気持ちの大部分を占めています。
デビュー戦のときは、ただ緊張して「どうしよう……どうしよう……」という思いであふれていましたが(笑)。とりあえず、思いっきり戦おう、という気持ちはありましたね。懐かしいです。
――野村選手の表情を見ていると、良い意味で緊張しているように見えないです。これもポジティブな意味ですが、若干のふてぶてしさを感じさせ、大物になる感を醸し出しているので。
ありがとうございます(笑)。意識して、緊張を見せないようにしています。堂々としているように見せる、というか。入場曲が流れると自分のなかでスイッチがオンになり、ぱっと切り替えられています。
それと、試合前には誰とも話さず、ひとりになる時間を作っています。集中力を研ぎ澄ませたり、勝ちにいくぞという気持ちを高めたり、どんな戦いをするかシミュレーションしたりする大事な時間です。
■相手の技を受け切った後、自分の技を出し切って勝ちたい
――野村選手の試合で惹かれるポイントのひとつに、相手の技を受けて受けて受けまくる、受けっぷりの良さがあると思います。毎回気持ちを揺さぶられるんです。どうしてこんなにボコボコになっても立ち上がれるのか、と。
相手の攻撃から逃げたら負けだと僕は考えてるんです。それに相手の技をとことん受けた上で、自分の技を出し切って勝つ――そんなプロレスラーになりたい、と思うので。
だから、どんなに技を受けようと、意地でも倒れないというか、立ち上がり続けて、「自分は負けない」「まだ余裕があるからな」と相手にもお客様にも伝えたいです。
――かなり負けず嫌いなタイプですよね。
自分ではそうは思わないんです。むしろ、負けず嫌いになろうとしている、というのが正しいかもしれません。「やられたらやり返す」のを常に意識しています。やり返すためには、いくらやられても、立ち上がらないといけないですからね。
――そのメンタルの強さはどこからくるんですか。折れない心を持つ方法を知りたいです。
方法というほど大層なことではないですが、あまり先のことは考えない、深刻に考えすぎないようにはしています。考え込んでもいい方向にはいかないので、考えすぎないことです。すごいシンプルですね(笑)。
――最後に、野村選手が思うプロレスの魅力や面白さについて教えてください。
もしまだプロレスを見たことがない方がいたら、まずは一度見てほしいです。生で見ると、その“非日常っぷり”に、きっとはまると思います。たとえば、プロレスラーの体の大きさや厚み、技、表情の変化……現実で目にしないことが多いですから。
「表情」もすごく面白いポイントだと思います。見ていて、「えっ、そんなに怒る!?」と驚くこともありますし、ものすごくふてぶてしい顔をして戦う人もいます。僕自身はがむしゃらな感じが伝わる表情かなぁと思います。
僕が所属する全日本プロレスは、体の大きい選手が多いのが特徴のひとつです。そういう男たちの戦いを生で見ると、迫力や音がものすごいし、スッキリするはずです。9月30日にはパートナーの青柳優馬とアジアタッグ王座を獲りました。僕らのような若い世代の活躍も見せていきたいです。
――ありがとうございました!
最近寮を出て、ひとり暮らしを始めた野村選手。プライベートは自称「地味で、そんなに面白味がない」。試合で各地を巡り、東京でゆっくり過ごすオフは少ないプロレスラーの生活ですが、少ないオフはゆっくり寝るか、目的を定めずに出かけるか、ごはんを食べにいくか、といった暮らしだそう。
個人的には試合後のマイクパフォーマンスで、以前と比ると「ぐいぐい前に出る感」が出ているのが気になっています。聞くと「自己主張をしないとお客様には伝わらないのかな、と最近考えるようになった」とのこと。表現や伝え方はまだまだ勉強中だという野村選手。これからの活躍がますます楽しみです。
野村直矢さんプロフィール
1993年10月26日、石川県生まれ。2013年10月、全日本プロレスに入門。練習期間を経て、2014年3月に青木篤志を相手に、地元金沢にてデビューを果たす。185cm、95kg。Twitter( @nomuraajpw )
野村直矢さんが所属する全日本プロレスの大会情報
「2017 旗揚げ記念シリーズ [最終戦] ~秋山準&大森隆男デビュー25周年記念大会~」
日時:2017年10月21日(土)16:00開場 17:00開始
会場:神奈川・横浜文化体育館
https://goo.gl/34ZuxS
構成/池田園子
試合写真提供/全日本プロレス
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