奥深くも親しみやすい版画の世界。アートを自宅に飾る贅沢はいかが?【CWAJ現代版画展】
芸術作品は展覧会で鑑賞するものと思っている方へ。絵筆で描く一点ものの絵画に比べ、版画は比較的手が届きやすいアートです。この秋は、奥深い版画の世界に触れ、新たなファッションアイテムを揃えるつもりで、お気に入りの作品を手に入れてみてはいかがでしょう。
爽やかな秋風は芸術の香りも街に運んできました。駅の壁は展覧会を知らせるポスターだらけ。
あちこちの美術館やギャラリーでは魅力的な展覧会が開催されています。何を観ようか目移りしている方へ、ちょっと面白い展覧会「第61回CWAJ現代版画展」をご紹介します。
■意外と知らない版画の世界
版画というと、浮世絵がまっさきに頭に浮かぶかもしれません。あれは板目木版。基本的な技法は、小学生の頃、図工の時間に彫刻刀でベニヤ板を削って作った、あれと同じです。
木の板に彫って作る木版は、版画の数ある技法のひとつにすぎません。ひと口に版画と言ってもその制作方法は想像以上に複雑です。
たとえば、下絵を描刻する版の素材もさまざま。
*これは木版画(woodcut)
*これも木版画(woodblock)
*これは銅版画(etching)
*これも銅版画(etching & acuatint)
*これはペーパーブロック(paperblock)
厚紙など紙の版を使用しています。
*これはリノカット(linocut)
板にリノリウムという樹脂板を使用。
版画は版面下に限定番号が書かれているものがほとんどです。
たとえば、上の作品の場合、
左端の1/ 40の表記は、同じ版で40枚の作品が制作されていて、うち1番最初に刷られたのがこの作品ということ。
コレクターのなかには、1枚目に刷った版画作品だけを集めるというマニアもいるくらいです。この数字、今後注目してみると面白いかも。
*これはコラグラフ(collagraph)
さまざまな素材の平版に、各種素材を貼りつけたり、下地剤を塗ったりして凸凹を作って刷ります。フランス語の「コラージュ」に由来。
こんなふうに板の種類だけでもいろいろ。そこに、彫りの技法や彩色、紙質、刷り方の特徴が複雑に組み合わさるのですから、版画はとてつもなく繊細で、可能性に満ちたアートなのです。
あれ、話が本題からそれてしまった……。
■CWAJ版画展のお話
CWAJ現代版画展とは、ボランティア団体「CWAJ(College Women Association in Japan)」が開催する版画展で、今年で第61回目を迎えました。第1回は戦後まもなくの1956年ですから、この版画展の歴史はとてつもなく長いのです。
会場に展示される版画は、ほぼすべて、異なる版画家の手で制作されています。
篠田桃紅、横尾忠則、野老朝雄といった日本を代表する著名作家から、公募で選ばれた新進気鋭の作家まで、日本の版画界を牽引する200名近い版画家たちの多種多彩な作品が、代官山ヒルサイドフォーラムに勢揃い。会期中、入場は無料で、しかも、すべての版画が購入可能というのは嬉しいところ。
技法に注目するのもよし。テーマを探すのもよし。色彩で選ぶのもよし。限定番号に着目するのも面白い。自分の部屋に飾るならどれがいいかなあ、なんて考えながら観てまわるのも楽しそうです。
この版画展の運営はすべてボランティアの手で行われ、版画の純益はCWAJの教育、奨学プロジェクトや福島支援プロジェクトの資金に充てられるとか。素敵な取り組みです。気に入った作品を自分のものにできて、それが支援につながるなんて、ちょっと良い気分!
開催は10月25日〜29日まで。芸術の秋、おしゃれな街、代官山に足を延ばし、部屋に飾るとっておきの版画を探しに出かけてみてはいかがでしょうか?
ちなみに、これは我が家のとっておきの1点。リトグラフ(lithograph)という技法が使われています。「リト」はギリシャ語で「石」の意味。かつては石灰石の版を使っていたからその名がついたとか。
う~ん、版画ってやっぱり奥が深い……
※記事中の画像はすべてCWAJの許可を取ってお借りしています。
アーニャ・サハロフ,ショーン・ダール DU BOOKS 2016-09-09
早稲田大学卒業後、高校教師を経て翻訳家の道へ。主な訳書:『ファッション・アイコン・インタヴューズ』、『ヴィヴィアン・ウエストウッド自伝』、『ブルックリン・ストリート・スタイル:ファッションにルールなんていらない』、『メンズウ...