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「自分らしい働き方」と「自己内利益」の最大化

「満足」とも言い換えられる「自己内利益」というキーワード。もらっている年収や昇進といった効用から、肉体的・精神的な疲労やストレスなどのコストを引いた値のことを指します。安藤 美冬(あんどう みふゆ)さんの連載第3弾は、この「自己内利益」の最大化について、「自分らしい働き方」をテーマにお話ししていただきました。

「自分らしい働き方」と「自己内利益」の最大化

先日、ビールと本が楽しめる下北沢の書店「B&B」にて、「ボールペン1本とマルクスから考え始める〈仕事と生き方〉入門」というイベントに登壇させていただいた。チケットはすぐに完売するほどの反響があったのだが、ご一緒させていただいたのは経済ジャーナリストの木暮太一さん。

お互い、2013年の元旦にNHK Eテレ『ニッポンのジレンマ』という討論番組に出演したご縁。この番組も「働き方」がテーマだったということもあって、すぐにイベントが実現したのだった。

■「自己内利益」=「満足」をいかに高めるか

木暮さんは大学を卒業後、富士フィルムに入社。今の活躍からは想像できないのだが、新入社員当時は失敗をしては上司からよく怒られていたそうだ。つけられたあだ名は「怒られ侍」。その後、スキルアップをしながらサイバーエージェント、リクルートと転職を重ねて、現在はビジネス書作家、経済ジャーナリストとして出版社を経営しながら仕事をしている。日本的な大企業、ベンチャー、起業と様々な立場で仕事を取り組んできた木暮さん。そんな木暮さんが、この討論番組で非常に面白い発言をされていた。

それは、「働き方においては、自己内利益を最大化させることが大事」(だったような……)という趣旨の発言だった。

「自己内利益」とは木暮さんの造語で、彼の著書『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』では、こんな風に説明されている。

成長し続けることが絶対条件である企業においては、「利益」の最大化が求められる。図式にすれば、こうだ。

(売上)−(経費)=(利益)

例えば100円のボールペンが1本売れたとすると、売上は100円。そこからボールペンをつくるための材料費、人件費、宣伝費など諸々の経費である80円を引いた20円が、ボールペン1本あたりの利益となる。これはごく単純化させた例だが、これを私たちの仕事に当てはめてみると、こうなる。

(年収•昇進から得られる満足感)−(必要経費 ※肉体的、時間的労力や精神的苦痛も含まれる)=(自己内利益)

仕事をする上で、「年収」を最重要事項にしている人は多い。もちろん、生活を営んだり、楽しむためのお金は大事だ。

けれども、年収の金額だけを追っていては、「満足感」は得られない。日本人の平均的年収である400万円〜500万円から抜け出して仮に年収1000万円を達成したとしても、年収1000万円を稼ぐための長時間労働(肉体的、時間的労力)、プレッシャー(精神的苦痛)と、プレッシャーを癒すためのコスト(エステに行ったり、気分転換に旅行をしたり)、ポジションなりの立ち居振る舞いを維持するためのコスト(身なりに気を使ったり、美容に凝ったり)、友人付き合いのコスト(同じくらい年収の高い友人たちと高級レストランで会食したり)諸々が嵩み、1000万円からそれらを差し引いて残った「自己内利益」はほんのわずかということもしばしばだろう。(とても恥ずかしい話だが、現にそれくらいの給料をもらっていた会社員時代の私は、日々のストレスを解消するために「良い服を買おう」「旅行をしよう」「マッサージに行こう」「会食を積極的にやろう」とお金を使ってばかりいて、ちっとも貯金できなかった)

つまり、本当に満足して、幸せを感じる働き方をしたいのであれば、「年収」「仕事の内容」「ポジション」ばかりに目を向けるのではなくて、諸々を差し引いた時に残る「自己内利益」をいかに最大化させるか、という視点がポイントになるのである。

■自分らしい働き方・生き方がリスクを圧倒する

そもそも木暮さんが討論番組でこの「自己内利益」を持ち出した経緯について。

日本を代表する若手社会起業家であり、私の大切な友人でもある株式会社HASUNA代表の白木夏子さんが、番組内で起業にまつわるエピソードを披露した。彼女はイギリスへの留学を経て、外資系金融会社勤務などを経験して独立。世界のあちこちを旅する中で沸き上がって来た「世界から貧困を無くしたい。不当に児童労働を強いられている現状をなんとかしたい」という思いから、彼女はエシカルジュエリー(倫理的配慮がなされた上でつくられるジュエリー)を手がけるHASUNAというブランドを立ち上げたのである。

現在では日経ウーマンオブザイヤーにも選出され、ヤンググローバルリーダーとしてダボス会議にも出席し、HASUNAの店舗を各地に展開する白木さんだが、最初は苦労の連続だったそうだ。ジュエリーについての知識はもちろん、お金もコネクションもまったくないところから始めたため、あちこちを自ら出向いて売り込んでは断られ、挙げ句に資金も底を尽きて、親に頼み込んでお金を借りたこともあったという。

そんな彼女が、『ニッポンのジレンマ』収録中に強調していたのは、「それでも自分で決めた、やりたいことだったから楽しかった」ということ。外資系金融会社に勤務していた頃よりも年収が下がり、目の前のビジネスに対して不安は消えない日々の中でも、「世界をより良く変えるため」に注いだHASUNAから得られる満足感ややりがいはとても大きかった。

そう、「自己内利益」が不安定な収入やプレッシャーを超えて、最大化されていたのである。

先に書いたように、私自身も会社員時代は安定したポジションと収入を享受していた。もちろん、それについてはまったく不満はない。

でも、「一度きりの人生を何かにぶつけたい」「自分なりの働き方、生き方を追求してみたい」という情熱がある時から止められなくなり、今、私はここでこうしている。フリーランスになって半年間の報酬はたったの4万円で、初年度の年収は200万円。押し寄せてくる不安から布団をかぶっては震える日々が続き、周囲からの目が気になって恥ずかしくて仕方がなかった。

それでも、後悔はなかった。200万円という収入にも不満はなかった。

なぜならすべては自分が選んだ道であり、肩書がなくても、実績がゼロになっても、お金がなくても、「自分らしい人生を生きる」という私に残されたものこそが、「自己内利益」を最大化させるものだったからである。白木さんも私も、「起業」にまつわるエピソードをシェアしたけれども、もちろん起業が「自己内利益」を最大化させる働き方だとお伝えしたい訳ではない。

私たちにとっては、「リスクを圧倒するほどの情熱」がそこにあっただけで、みなさんひとりひとりが、このエピソードから「自分らしい働き方」を考え直す一助になればと願う。

■「自己内利益」を最大化させる働き方を考える

私はまだまだ30代で、ビジネスパーソンとして未熟極まりない立場なのだが、私よりも遥かに知識も経験も豊富な現代の40代のみなさんを取り巻く仕事の構成要素は、とても複雑に見える。20代、30代よりも高い年収を得て、責任あるポジションに就き、友人付き合いのステージも変わり、何よりもひとつひとつの選択に「親」とか「パートナー」とか「年齢」とか、自分ひとりの力だけでは完結できないあらゆるものが関わってくる。

でもだからこそ、現代をしなやかに生きる40代の女性たちにとって、あらゆる要素を取り除いた時に残る「自己内利益」に目を向けることは多くの気づきが隠されていると思う。シンプルにすること、ミニマライズすること、残ったものを大切にすること、積み減らしていくことである。

(年収•昇進から得られる満足感)−(必要経費 ※肉体的、時間的労力や精神的苦痛も含まれる)=(自己内利益)

みなさんにとっての、「自己内利益」を最大化させる働き方とは、何ですか?

安藤 美冬

フリーランサー、コラムニスト。1980年生まれ、東京育ち。(株)集英社で広告と書籍の宣伝業務を経て独立。組織に属さないフリーランスとして、ソーシャルメディアでの発信を駆使した肩書や専門領域にとらわ れない独自のワーク&ライフ...

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