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「私はこんな人」と明確に言えなくてもいい。曖昧なのが私たち【小島慶子 連載】

昨日と今日で考えていることが変わるのが人間。でも、SNSに縛られて「自分のキャラがブレていないか」「設定から逸脱していないか」と、疲れている人も少なくない。でも、とっ散らかって気まぐれなのが私たち。それでいいんじゃないか。

「私はこんな人」と明確に言えなくてもいい。曖昧なのが私たち【小島慶子 連載】

 DRESSに寄稿したり、ほかの記事を眺めたりしていると、どんな人が読んでいるのかわかるようでよくわからない。ものすごくストイックに仕事をしている気もするし、恋愛のことばかり考えている気もするし、子育てや夫婦関係で悩んでいるようだが、セックスには興味津々らしい。健康や親の介護が心配なお年頃でもあり、「女子らしさ」を失いたくない気持ちもあるんだな。

 それってどんな人だよ……となかなか「読者さん」がイメージできず、正直言うと何を書いたら面白がってもらえそうか、見当がつかないのだ。

 でも、だ。いざ私はどんな人かって言おうとすると、矛盾だらけで説明できない。他人が説明するのは簡単だろう。どうぞ勝手に説明してくれ。でも自分で「私はこんな人」なんてはっきり言える人、いるのかなあ。

■「仕事大好き!」と言い切れるほど、働くことは単純ではない

 一家を支える大黒柱が、仕事好きとは限らない。私は今、かなり身を削って働いているが、本当は働くのが好きではない。しかし、生きていくのにはお金が必要なので、真剣に働いている。

 「私にとって仕事とは?」なんて考える暇も理由もなくなって、「仕事が生きがいです(キラキラ)」とか語れる人が眩しすぎる。片働きになってから、とにかくお金を手に入れられること自体がありがたい、という以外のことは考えられなくなった。

 では仕事が嫌で嫌で仕方ないかと言われたら、やっぱり楽しいし、喜びも感じる。しかしそれをもって「仕事大好き!」と言えるほど、働くことは単純ではないのは、皆さんも骨身にしみておわかりだろう。

 私はよく『おかあさんといっしょ』の旧エンディングテーマ「帰りたーくなーい 帰りたーくなーい 帰りたくないけど さよならマーチ〜」のメロディで「働きたーくなーい 働きたーくなーい 働きたくないけど お金が要るの……」と歌っている(意外と救われるので、だるいときにはおすすめ)。

■子育てや夫婦関係は悩みもあれば、安らぎも喜びもある

 恋愛はどうだ。これはもういい。前回のコラム「ドラマのセックス描写より、芸術家の脳みそに発情する 」を読んでちょ。

ドラマのセックス描写より、芸術家の脳みそに発情する

https://p-dress.jp/articles/2688

恋愛モノの作品で描写される濃厚なキスシーンやセックスシーンが気持ち悪くなった。一方、優れた作品を遺した芸術家の脳みその動きに欲情する、と話す小島慶子さん。これならリスクゼロ!?

 ごめん、恋愛センサーが枯れているのは多分、働きすぎかプレ更年期のせいだと思う。ときめく話が読みたい人は許してください。ちなみに好きなタイプは骨密度の高そうな人です。

 子育てや夫婦の悩みは、そりゃうんとある。悩んでいない人なんかいないだろう。でも、子育てや夫婦の安らぎやら喜びだってもちろんあるわけで、その割合に変化はあっても、悩んでいるか楽しいかどっちですかと聞かれたら、両方だとしか言いようがないよね。両方なんだけど、人はきっといろんな理由があって、追い詰められたり別れたりするんだろう。

 ワイドショーを見ているときは、他人の離婚の理由を詮索してお楽しみタイムを満喫できても、いざ自分の夫婦喧嘩を友人に諌められたりすると「何にも知らないくせに勝手なこと言うな!」とか言いたくなるもの。そう、何にも知らないのだ、他人のことなんて、私たちは。だから一言で語れるのだろう。あれは女が悪いとか、男がゲスだとか。

■DRESSという媒体は「解放の場」なんじゃないか

 SNSなんてものがあるおかげで、みんな「私はこんな人」を売り物にしなくちゃならなくなった。キャラという言葉が日常語になって久しいが、頼まれもしないのにキャラ設定をしなくてはという強迫意識が浸透して、なんかするたびにキャラ逸脱チェックをしてしまう自分に疲れ果てている人もいるだろう。

 他人にキャラの破綻を指摘される前に自分で回収しようと、何重にも防衛線を張って先回りトークをしてしまい、メビウスの輪みたいになっている人にもよく出会う。昨日と今日で考えていることが変わるのが人間なのに、それはしんどいよね。

 てなことを考えてみると、読者像が描きにくいDRESSという媒体はむしろ解放の場なのではないかと思う。とっ散らかって気まぐれなのが私たちだ。

 恋に夢中で介護も心配で女子でいたいけど仕事のことしか考えられない、それがあなただと言われてもなお、まだ説明しきれない気がする曖昧な私。そんな女性が集まって、それぞれに仲間を見つける場があるのは、なかなか素敵なことなのではないかと思う。

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

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