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物語ってあたたかい…肌寒い季節に読みたいほっこり作品【TheBookNook #34】

肌寒い季節にこそ、心温まる読書体験を……。八木さんが西加奈子『舞台』、アレックス・シアラー『チョコレート・アンダーグラウンド』、江國香織『とるにたらないものもの』の3作品を紹介します。自己と向き合う、自由を求める冒険、日常の小さな幸せを描いた物語で、心を癒し、勇気づけられる一冊を。

物語ってあたたかい…肌寒い季節に読みたいほっこり作品【TheBookNook #34】

文 :八木 奈々
写真:後藤 祐樹

夏から秋、冬、と季節が変わり一気に肌寒くなってきた今日この頃。

みなさんが途端に欲しくなるものはなんですか……?

私が今、欲しいのは、あたたかいお鍋にあたたかい飲み物、あたたかい毛布。

そして、あたたかい物語

秋の読書

今回は寒さでキュッと固くなってしまった心ごと解してくれるような、どこか懐かしく、あたたかい気持ちになれる物語を厳選してご紹介させていただきます。

あたたかいお部屋で、ホットミルクでも飲みながら今日この瞬間まで頑張った自分を甘やかしてあげてください。

1. 西加奈子『舞台』

西加奈子

自分を“演じる”こともある。そんな自分も愛してほしい……

いつも人目を気にして生きてきたことで本来の自分を見失った主人公が旅行先のニューヨークにて盗難にあうところから物語は始まります。

突然の無一文、携帯もない、英語もままならない、そんな主人公はなりふり構わず死に物狂いでニューヨークの街を徘徊し、徐々に自分を取り戻していきます。

“いやいやそんな奴いないだろ”の一行後に、“あ、自分もこういう思考に陥ることよくあるな……”と青くなるような生々しい人間性の描写。いつしか主人公と“自分”をひどく重ねて恥ずかしくなっていました。

太宰治の「人間失格」をオマージュして描かれたという本作は、主人公の自己防衛からなる言動の数々が魅力のひとつ。

中にはこの思想に共感しすぎて首が取れるほど頷いてしまう人もいるかもしれません。

だからこそ、ラストの展開には大きなため息がでますし、物語を読み進めながら自分自身と対峙し、自分の、いや誰かの心にまで寄り添いたくなるのです。

巻末にある、早川真理恵さんと西加奈子さんの特別対談も必読です。

2. アレックス・シアラー『チョコレート・アンダーグラウンド』

アレックス・シアラー『チョコレート・アンダーグラウンド』

選挙で政権を勝ち取った“健全健康党”によって突然チョコレートを禁止された国民。誰がこんな世界を想像できるでしょうか……。

ありそうでなかったその法律。大人の無関心によって生まれた暴走する権力者に、子供たちとそれに影響された大人たちが自由を求め、抵抗し、勇気を出して立ち向かう物語です。

一度読み進めたら止まらず、500ページを超える大作ではありますが、時間を忘れて物語に没頭できること間違いなしの痛快ストーリー。

ただ、本作にあるチョコレートがもし別のものだったら……なかなか笑えませんよね。そう、これは諷刺作品でもあるのです。

私も10数年ぶりくらいに再読しましたが、大人になって読むからこそわかる皮肉とユーモア、そして怠慢と無関心の恐ろしさ。冷静と興奮が隣り合わせに描かれていくのが妙にリアルで、読みながら何度も声が出てしまいました。

こんなに良くも悪くもワクワクしたのはいつぶりでしょうか。たかがチョコレート、されどチョコレート。「すべての人に、自由と正義とチョコレートを!」

3. 江國香織『とるにたらないものもの』

江國香織『とるにたらないものもの』

日常で使用する何気ない“モノ”にも自分だけの記憶や想いが潜んでいると思うと、なんだか愛おしく感じませんか……?

本作は石鹸、フレンチトースト、書斎の匂い、輪ゴム、ゆで卵など……とるにたらないけれど暮らしの中で欠かせない“モノ”への愛おしさを綴った短編エッセイ集です。

江國香織さんの特有のユーモアセンスと、読み手にも温度が伝わる有形無形の“モノ”への愛着。見慣れたものからささやかに送られるメッセージと、それに囲まれて生きる安堵感がきっと貴方にも蘇るはずです。

“エッセイ”という括りにとどめておくにはもったいないほど詩的な作品で、作中の言葉が少し古臭い感じもとても好き。

「青信号が“すすめ”だからゆっくり見られない」という発想は、良く考えれば非常に単純なことなのに目から鱗でした……。

不意打ちで大好きな安部公房の名前が出てきたのも嬉しかった。

とにかく、文章が、言葉が、視点が、距離が、本当に素晴らしい。過去や日常を綴った私の延長線上にもあるようなテーマばかりなのに私の延長線上ではとても綴れないような、“暖かくて冷たい”言葉たち

そう、あたたくて、つめたい。ふっと心の糸が緩むようで心地の良い読書時間でした。

■心をあたためるなら、読書で

冬本番に近づくこの季節。体を温める方法はたくさんありますが、心をあたためるなら読書一択。

お守りのような一冊があるだけで凍えた心も嘘みたいに解けて落ち着きます。あなたの秋の読書時間が、少しでも暖かいものになりますように。

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DRESS編集部

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