太陽と月と海原の三貴子が鎮まる「阿佐ヶ谷神明宮」【巫女ライターの神社と御朱印めぐり#5】
日本の伝統文化を通して、深い心の学びを促してくれる神社の世界。巫女ライター・紺野うみが、おすすめしたい各地の素敵な神社とその御朱印をご紹介していきます。今回は、平成の大改修を経て大きく姿を変えた、東京都杉並区の「阿佐ヶ谷神明宮」。太陽の神を主祭神として、月の神、海原の神の「三貴子」が鎮まる、明るく心地よい神社です。
■太陽・月・海原の神「三貴子」が並び鎮まる希少な神社
にぎやかな阿佐ヶ谷(あさがや)の駅を少し離れて路地を入ると、そこには静かで明るい神域が広がっています。
東京都杉並区に鎮座される「阿佐ヶ谷神明宮(あさがやしんめいぐう)」。人々の暮らしと密着した地域にありながらも、ひとたび足を運び入れれば、その神聖さが肌で感じられる素敵な神社です。
手水を済ませて玉砂利を踏みしめながら歩くと、右手には能楽殿があらわれ、いっそう明るく清々しい雰囲気が感じられるのではないでしょうか。
※この能楽殿は、通常閉じられていますが、催しの際などに開かれます
主祭神は、伊勢神宮におわします太陽の神様「天照大御神(あまてらすおおみかみ)」と、その御饌(みけ)の神である食物神「豊受大神(とようけのおおかみ)」。
そして、天照大御神と時を同じくして「伊弉諾尊(いざなぎのみこと)」から生まれた、月の神様「月読尊(つくよみのみこと)」と、海原を治めよと言われた「須佐之男尊(すさのおのみこと)」の4柱です。
この阿佐ヶ谷神明宮において特に珍しい特徴は、拝殿から臨むことのできる御正殿に「天照大御神」、東西両殿に「月読尊」「須佐之男尊」の3つの御殿がお祀りされているところ。
中央が「天照大御神」の御殿で、東に「月読尊」、西に「須佐之男尊」の御殿が並んでいるのです。
神話・古事記に「兄弟神」として登場する「三貴子」が、このようにひとつの神社に並んでお祀りされているのは、全国的に見ても大変珍しい姿だと言えます。
拝殿からその「御垣内三殿」を拝することができますが、広く拓けた明るい場所に美しく並ぶ3つの御殿の姿は、いつ見ても静謐で清らかな空気をたたえています。
■その姿を大きく変えた「平成の大改修」
阿佐ヶ谷神明宮は、かつて「日本武尊(やまとたけるのみこと)」が東国への勢力拡大のため遠征をしたその帰りに、この「阿佐谷」で休息したと伝えられ、その後、彼の功績を慕った村人が建てたお社が起源だと言われています。
この国の最高神である「天照大御神」がお祀りされていたこの場所には、その後も、この村の各地に散らばっていたいくつものお社が次第に合祀(併せてお祀りすること)されていきました。このように、今ではさまざまな神様がこの地に鎮まって、人々の暮らしを見守っているのです。
この神社に大きな変革があったのは、まだ記憶に新しい平成21年のこと。境内に祈祷殿(ご祈祷が行われる場所)や能楽殿が新設され、以前は拝殿と本殿がひとつの形になっていたものが別々に切り離されることになったのです。
こうして私たちが祈りをささげる場所となる拝殿からは、現在のように並ぶ三貴子のお社を見つめることができ、それぞれの神様をより意識しやすい姿に生まれ変わりました。
御本殿は青空の下に緑の杜を背にしたかたちで、静かに、そしてひときわ眩く鎮座しています。特別なときにしか足を踏み入れることのないその空間は、目には見えなくともごく自然に神様の存在を感じられるような、素晴らしい心地よさを感じます。
そして平成26年には、伊勢神宮が20年に一度お宮を新たに立て替えて神様にお遷りいただく「式年遷宮」という祭祀に伴って、撤下された鳥居のひとつを受け継いで、この御本殿前に置かれることとなりました。
それまで伊勢神宮の神域を御守りしていた鳥居が、今はこうして、この阿佐ヶ谷神明宮を見守っている……。そう思うと、お伊勢さまとの深いご縁を感じずにはいられません。
■あらゆる災難厄事を払いのける「八難除」
「降臨殿」と呼ばれる祈祷殿では、「天照大御神」の荒魂(あらみたま)と「豊受大神」が併せてお祀りされています。この場所には、江戸時代に奉納された、銅製の黒い「三本御幣」を拝することができます。それは、この阿佐ヶ谷神明宮に集まる庶民からの信仰が厚かったことを示す、大変貴重で珍しいものです。
私たちの人生には、あらゆる節目が訪れます。「安産祈願」「初宮詣」「七五三詣」「成人式」「年祝い」などといった、人生儀礼の数々。
その折々に神様へご報告を申し上げ、その恵みとご加護に感謝し、これからの繁栄を願うのが御祈祷です。この祈祷殿の御神前は、御祈祷のとき以外は入ることのできない場所。きっと、その厳かな空気を肌で感じられることでしょう。
※ご紹介のため、特別にご許可をいただき、お写真を掲載させていただいています
この場所で受けることのできる御祈祷の中でも、阿佐ヶ谷神明宮ならではのものといえば、「八難除」です。「八難」というのは、8つの難という意味ではなく、「世の中にあるあらゆる災い」のことを指しています。
厄年の災い、方位や地相・家相に起因する災い、火や水にまつわるの災い、人の災い、因縁から来る災い……。挙げればキリがないほど、私たちの生きる世の中には、数多くの災難や厄事が存在しています。
「八難除」とは、それらすべてを取り除く御祈祷であり、御祭神である八百万の神々の中心となる「天照大御神」様のご加護をいただいて、それぞれの人生が素晴らしいものになるようにと願うもの。
最近よくないことが続いているという方や、何か不安なことがあって前に進めないという方、身の回りで病気や事故が増えているという方も、この御祈祷を受けられてみてはいかがでしょうか。
■巫女が最後の縫製を行う「神むすび」の御守り
※ご紹介のため、特別にご許可をいただき、お写真を掲載させていただいています
阿佐ヶ谷神明宮といえば、特に話題を呼んでいるのが「神むすび」という御守りです。ブレスレットタイプになっているので、手首やバッグなどに着けて、肌身離さず持ち歩くことができます。
美しく繊細に編み込まれたデザインで、その色やモチーフにも、さまざまなものがあります。春なら桜、梅雨の時期なら紫陽花、秋には月うさぎなど、季節ごとに期間限定のものが準備されるのもワクワクします!
こちらは、阿佐ヶ谷神明宮でご奉仕をしている巫女さんが仕上げの縫製を行い、大切に作られているのも特徴です。その中に御神気が込められ、私たちのもとへと届くのですね。「神むすび」は阿佐ヶ谷神明宮のオリジナルであり、珍しい形の御守りですが、私たちがより身近に持つことができるのではないでしょうか。
御守りとは、日々の暮らしの中で折に触れて神様の存在を意識し、その御神徳にあやかりながらも、常に感謝を忘れないための「形あるもの」です。その出会いは「直感」が大切。
神社に訪れた際に御守りを目にして、あなたが強く心惹かれるものがありましたら、ぜひ手に取ってみてください。それがあなたと、その神社・神様との絆を示す、ひとつの証になることでしょう。
■行事ごとに少しずつ変化する御朱印
御朱印については、阿佐ヶ谷神明宮の場合、大きく分けて2種類があります。「神明宮」のものと、「月読尊」のお社である「月読社」のものです。
また、「神明宮」の御朱印については、祭祀や催し物などにちなんで手作りの印が追加されることがあります。お正月、観桜会、夏越の大祓、七夕、例祭、新嘗祭、年越しの大祓など……それぞれのモチーフになるものが、季節を感じさせてくれますね。
昨今は、多くの神社でいただける御朱印にも、限定のものなどが増えてきました。思わず見とれてしまうような、美しい御朱印に出会うこともありますよね。
ただし、それをいただくために神社に訪れるというよりは、さまざまな季節に足を運び御朱印の変化も楽しみつつ、お詣りを通じて神様と心を通わせることを大切にしてみてください。
きっと、そのような心で何度も足を運ぶことができたなら、その神社はあなたの人生にとってかけがえのない場所となり、その祈りの心を神様も喜んでくださるに違いありません。
■変わらぬ「祈り」と「感謝」の心を、変わりゆく時代の中に
皆様は、「不易流行(ふえきりゅうこう)」という言葉をご存知でしょうか?
阿佐ヶ谷神明宮の神職の方が、神社を守り受け継いでいく中で大切にされていることのひとつで、「伝えるべきものの本質はかたちを変えることなく守りながら、時代とともに変えてゆくべきものは変えながらつないでいく」という意味があります。
「神道」というのは、何世代も前の日本を生きたご先祖さまたちから順番にバトンを手渡してきたからこそ、今日まで日本に息づいている大切な文化です。
古くから多くの人が信仰を寄せて神々をお祀りし、その心のよりどころとなってきた神社。これから先も、時を越えてその本質を受け継ぐためには、さまざまな工夫や時代に即した変化もまた、必要な努力なのでしょう。
しかし、神社に訪れる私たちこそ、その場所が持つ本来の役割やあるべき心の姿を、忘れることなく残していかなくてはなりません。当たり前の日々の中に存在する感謝の気持ちや、この国を守ってくださっている神様たちへ祈りを捧げる心を、失くしてしまうことのないように……。
神社に足を運んだときこそ、神様を想い、手を合わせることの意味を噛みしめてみてください。私たちはその積み重ねで、神様を感じる心が養われ、どんなときも迷わずに心明るく生きていくことができるのですから。
■写真でご紹介する、境内の見どころと授与品!
拝殿に向かって右手側にあるのは「元宮」。
向かって左から、阿佐ヶ谷神明宮の誕生のきっかけである「日本武尊」、三貴子の生みの親である「伊弉諾尊」、その妻であった「伊弉冉尊」がお祀りされています。
「神むすび」以外にもさまざまな御守りがありますが、この「災難除」の御守りがふと目に留まりました。
日本らしいイメージの五色の色合いと、素朴さの中に宿る美しさが印象的です。
※ご紹介のため、特別にご許可をいただき、お写真を掲載させていただいています
学問の神様である「菅原道真公」がお祀りされる北野神社。
五角形の鳥居は比較的新しいもので、「合格」するようにとの願いが込められています。
ぜひ、何かの試験を控えている方は、こちらの鳥居をくぐってお詣りしてみてくださいね!
道祖神である「猿田彦大神」をお祀りする猿田彦神社の前にある、立派な「夫婦欅」を見上げてみてください。
阿佐ヶ谷神明宮の3000坪の敷地には、このような立派な大樹が、いたるところにそびえ立っています
阿佐ヶ谷神明宮は、地域の人々にとって大切なコミュニケーションの場となる役割も、積極的に果たしています。神楽殿では能などの伝統芸能の奉納やバリ舞踊・ジャズストリートの会場になるほか、骨董市や植木市などが開催されるなど、広く親しまれているのです。
それでいて、「瑞祥門」という神門より内側は厳かに神聖に、神事が執り行われる場所としていました。このようなけじめも素晴らしく、神域を神様のための場所として、守ることの大切さを感じずにはいられません。
ぜひ足を運んで、その清々しい空気を隅々まで感じてみてください!
■神社基本情報(アクセス、住所、最寄駅)
【神社名】
阿佐ヶ谷神明宮(あさがやしんめいぐう)
【御祭神】
■主祭神
天照大御神(あまてらすおおみかみ)
豊受大神(とようけのおおかみ)
月読尊(つくよみのみこと)
須佐之男尊(すさのおのみこと)
■元宮(もとみや)
日本武尊(やまとたけるのみこと)
伊弉諾命(いざなぎのみこと)
伊弉冉命(いざなみのみこと)
【境内末社】
■猿田彦神社(さるたひこじんじゃ)
猿田彦大神(さるたひこおおかみ)
■北野神社(きたのじんじゃ)
菅原道真公(すがわらのみちざねこう)
【鎮座地】
〒166-0001 東京都杉並区阿佐谷北1-25-5
※駐車場完備
【電話】
03-3330-4824
【FAX】
03-3310-9007
【最寄駅】
JR中央線「阿佐ヶ谷駅」北口より徒歩2分
(※「阿佐ヶ谷駅」は、特別快速並びに土日の快速では停車しません)
東京メトロ丸ノ内線「南阿佐ヶ谷駅」北口より徒歩10分
【巫女ライターの神社と御朱印めぐり】
◆◇◆東京◆◇◆
#1 東京の白蛇さま「蛇窪神社(上神明天祖神社)」
#2 五龍神のすまう田無の杜「田無神社」
#3 子育てと厄除けの八幡さま「大宮八幡宮」
#4 長い歴史とロマンが宿る「根津神社」
#5 太陽と月と海原の三貴子が鎮まる「阿佐ヶ谷神明宮」
#6 武蔵国を総べる社「大國魂神社」
【神社のたしなみシリーズ】
◆◇◆神社と心◆◇◆
初詣だけじゃない! 人生の中で私たちが神社に行くべき理由とは?
◆◇◆神社と御朱印◆◇◆
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御朱印を集めて各地の神社を巡る「御朱印ガール」とは
御朱印帳の使い方! 素朴な疑問と知っておきたい基礎知識
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◆◇◆神社の授与品◆◇◆
「おみくじ」は吉凶よりも「言葉」を読もう! 基本の引き方・捉え方
巫女が教える「御守り」の役割! 取り扱い方法・持ち歩き方のお話
◆◇◆神社と行事◆◇◆
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