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私がこないだ流産したことを、誰も知らない【母でも妻でも、私#10】 2/3


■来週には、きっと胎児が見えるんじゃないか

私が今回はじめて産婦人科に行ったのは、おそらく妊娠4週ごろのこと。

確定診断にはまだ早いとわかっていたけれど、翌週は仕事で忙しかったから、小さく胎嚢でも見えたらいいなと思って、フライングで行ってしまった。

おじいちゃん先生はゆっくりとエコーを動かしながら「う~ん……ないねぇ」と繰り返す。
モニターが見えたから、胎嚢らしきものが一切ないことは、私にもわかった。


「妊娠反応がもっと強いのに胎嚢が見えないとなると、子宮外妊娠の可能性を疑います。でも、あなたは妊娠反応も強くないから、流産かもしれない。お腹が痛くなったらすぐに来てください。変化がないようならしばらく様子を見て、また来週にでも診察しましょう」


ふむふむ、と説明を聞く。


順調に妊娠が続いたら、おそらく半月後にはつわりがはじまるから、仕事やGWの予定をすこし軽めにしておいたほうがいいな、と思う。

でも、まだそうなるかはわからない。

初期の流産とか、切迫早産とかちらほら聞くけれど、なんとなく、自分がそうなるとは思えなかった。

前回の妊娠に何ひとつ問題がなかったから、自分の運を信じきっていた。

「ここから反応が強くなって、ふつうに妊娠が継続する可能性もあるんですか?」

「ありますよ。日数の計算がずれているのかもしれないし、様子を見ましょうね」

やっぱりとりあえず、待つしかない。もうこれ以上、尋ねたいこともない。

帰ってふつうに仕事をしたし、いつもどおり息子のつたないおしゃべりを聞いて、夫と笑ったりした。

■静かに、妊娠は終わっていった

いまは確実に妊娠しているけれど、来週も再来週も妊娠しつづけられるかはわからない、なんて状態ははじめて。

短期的にも長期的にも予定が読めないのが、すごくストレスだった。


週末にはひさしぶりに会う女友達と泊まりがけで遊ぶ約束があって、妊娠していないならお酒を飲みたいし、しているなら報告したいし、どっちつかずが一番しんどい。

だから、10日ほどあけて産婦人科に行くときは、ようやくわかる、という思いが強かった。

また、恐ろしく古い内診台にのぼる。ぎしっ、と音がした。
二度目のエコーは前回より念入りになされたけれど、やはり胎嚢は見えない。
どんどん強くなっていくはずの妊娠反応も、弱くなっていた。

「このホルモン値で、いまから赤ちゃんが育っていくことはほぼありません。でも、子宮外で破裂するような数値でもないので、自然に生理で流れていくと思います。特別な処置は要りませんが、いつもより生理痛がひどかったりしたら、いらっしゃい」

最初の妊娠反応を確認したときと同じ、優しい目で、おじいちゃん先生が言った。

そういえば先生は一度も「妊娠おめでとう」とか言わなかったな。

初診で「流産」という言葉も出ていたし、おおかた予想がついていたのかもしれない。

検査薬の判定ラインが薄かったころから、もしくは、微妙な熱っぽさが消えはじめた数日前から、私もうっすら気づいていた。
なんとなく、自分は大丈夫、と思ってもいたけれど。

その翌朝、診断を待っていたかのようにはじまった生理は、とてもビビッドだった。
私の2人目の妊娠は、4月6日に発覚して、4月18日に終わった。

この期間に私と会った人のなかで、私が妊娠と流産をしていると気づいた人は、もちろんいない。


40代で母になる。二度の妊娠・出産で気づいた命の尊さ(42歳)

菅原 さくら

1987年の早生まれ。ライター/編集者/雑誌「走るひと」副編集長。 パーソナルなインタビューや対談が得意です。ライフスタイル誌や女性誌、Webメディアいろいろ、 タイアップ記事、企業PR支援、キャッチコピーなど、さまざま...

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