私がこないだ流産したことを、誰も知らない【母でも妻でも、私#10】
先月、超初期の流産(化学流産)を経験した。だけど、胸を張っている。隣でふつうに笑っている友達も、一緒に働く仲間も、じつはこれまで流産していたかもしれない。でも、ひっそりと終わっていく妊娠を、みんな立派にやり遂げていたんだろう。
いつもより鮮やかな血を見て、「あぁ、本当に流産したんだ」と思った。
毎月、なにも考えずに流していたはずの血のなかに、かたちがあるはずもない命を探してしまう。かけらが、見えたりしないだろうか。
思わず手を当てたお腹は、いつもと同じで、すこしひんやりとしていた。
■弱々しく見えた「陽性」の判定ライン
妊娠検査薬で陽性が出たのは、4月6日のこと。
心当たりがあったから調べたのだけど、身体の変化も感じはじめていた。
すこし熱っぽくてだるい感覚に、ひとり目を妊娠したときのことを思い出す。
ただ、検査薬の判定ラインは、前に比べて格段に薄く、弱々しい。
心がざらりとしたけれど、これから濃くなっていく段階なんだろう、と考えた。
数日後、産婦人科の門を叩く。
息子を産んだのはすこし遠くの病院だったから、最寄り駅で通院するのははじめて。
よく言えばレトロ、悪く言えばお化け屋敷のように古い病院へ行った。
優しい目をしたおじいちゃん先生は、尿検査の結果を見て「妊娠してるけど、まだ反応が弱いなぁ」とひとりごちる。
でもまぁ、日数的には胎嚢が見えてもいいころだから、エコーしてみましょう、と言われた。
案内された内診台は、見たこともないくらい古くて、すこし笑ってしまった。
■妊娠が確定するまでの道のりは、意外と長い
妊娠超初期には、越えなければならないハードルがとても多い。
そもそも、健康な男女がどんぴしゃのタイミングでセックスをしても、妊娠する確率は3割程度しかない、ということからして震える。
奇跡的に出会った精子と卵子は、まず「受精卵」になる。
卵管の端にいる受精卵は、すこしずつ子宮内に移動して「着床」を目指す。
無事に着床できると、尿や血液にはじわじわ妊娠反応が出始めるけれど、医学的にはまだ「妊娠」ではない。
すべての妊娠のなかで、自然流産が起きる確率は10~15%。
ひとつのハードルを越えるたびに、流産率がじわじわ下がっていく。
着床後、エコー検査で「胎嚢」(赤ちゃんを包む袋)が確認できれば、まずひと安心。
しばらくして、胎嚢のなかに「胎芽」(胎児の前身)が見えれば、またひと安心。
その胎児の心拍を確認して、ようやく流産率がぐっと下がり、3~5%ほどになるといわれている。
一般的には、妊娠7~8週目くらいのタイミングだ。
そして、ここでようやく、医学的にも「妊娠」が確定する。
だから超初期は、病院で毎週なんらかの確認ができるまでそわそわ。
「きちんと着床しているのか」「胎嚢はつくられたかな」
「胎芽は?」「心拍、始まった?」
もちろん、どれも妊婦がひとりで確認する術はない。
手放しで喜べない時間があるなんて、私も当事者になってから知った。