ひとりでいる力

オーストラリアと日本のデュアルライフ。日本の一人でいる空間も快適で、ようやく大人になれた気がしています。

ひとりでいる力

というわけで(前回と前々回をご参照あれ)、オーストラリア・パースと東京との行ったり来たりの暮らしをしている私なのだが、東京にいるときは、夫と同棲を始めた26歳の時以来の一人暮らしである。

以前の一人暮らしは全然快適じゃなかった。自己否定感が強すぎて15歳のときから摂食障害だった私は、一人の部屋で食べては吐き、食べては吐きの実に凄惨な毎日だった。ひゃー、二度と戻りたくない。あんまりにも自分が嫌いで、自分と二人きりになるのが怖くて部屋にも戻れず、かと言って安らげる行き場はどこにもなく、下戸なので酒にも逃げられず、毎晩毎晩、食べることだけで孤独と自意識を紛らわせていた。生き地獄だったなあ……。

という負の記憶でいっぱいの一人暮らしを再び始めるにあたり、摂食障害はすでに克服しているものの、「飢え死にしないか」「寂し死にしないか」と心配でいっぱいだった私。

部屋を決め、家具を運び込み、それから一家でパースに引っ越した後、初めて仕事のために東京の部屋に来てみると……、

とっても快適だった。

淋しいことは確かに淋しい。ちょっと泣くこともあるし、家族とFaceTimeしてばっかりだけど、しかしだ。私は実に縄張り意識の強い女だったのである。

隅々まで自分の部屋! 素晴らしい、知らぬ間に散らかっていることがないなんて!

自分が食べたいものを食べたいだけ食べられる! 料理がこんなに楽しかったなんて!(と言っても干物焼いてばっかり)

そして、自分が集中しているときに中断されるのが何よりも苦手。でも子どもや夫と一緒に暮らすってことは、とにかくなんでも中断したり順番を変えたりすることの繰り返し。それはそれでとっても鍛えられたけど、

誰にも邪魔されないって、快適!

そうかそうか、
一人でいられるって、一人じゃないって証拠なんだな。

かつての私は、親元にいても友達といても、どこにも居場所がないという思いが強かった。一人でいると心細くて淋しくて、自分と向き合うのもイヤで、自分から逃げるのに必死。でもそれが夫と同棲して、結婚して、子どもを二人産んで育てるうちに、すっかり自立した大人になっていたのだった。

今は一人でいても、とてつもなく広い家に一緒にいるみたいな感覚。そう、東京とパースがおなじ家の中みたいな感覚なのだ。南北8,000キロのすんごい広い家に一緒に住んでる感じ。時差が1時間てのも大きい。

この感覚を親との間に持つ人も、女友達との間に持つ人もいるだろうけど、私の場合は、夫と子どもたちだった。それはこうしてときどき離れてみなければ分からなかったことだけど、嬉しい発見だった。

家族のことが大好きだし、しかし一人でいる空間も実に快適。
誰かと一緒に生きることができるのも、一人で立つことが出来るのも成熟の証だとすると、わたしはやっとそれができるようになったのかなあ。
41歳で、ようやく大人になれた気がしたのである。

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

関連するキーワード

関連記事

Latest Article