フランスから見た日本の不倫と婚活~中村綾花×小野美由紀【DRESS対談】
ラブジャーナリスト・中村綾花さんと文筆家・小野美由紀さんが『DRESS』を舞台に対談ををスタート。今だから気になる日本の恋愛についていろんなお話をお伺いしました。3回に渡る本対談。第1回のテーマは「フランスから見た日本の不倫と婚活」です。
不倫に浮気、アイドルの結婚発表や、女優の妊娠……。
ここ最近、こうした恋愛(?)にまつわる報道が世間を騒がせ続けています。とくに「不倫」に関しては、各メディアがこぞって取り上げ、それに対して世間の人々が激しくバッシングする、という構図をよく見かけます。
たしかに誰かを深く傷つけるような恋愛は避けるべき。けれど、個人間の問題に対して、そこまで外部がとやかく言う必要があるのかちょっと疑問……。
今回は、そんな日本の色恋事情をテーマに、ラブジャーナリスト・中村綾花(なかむら・あやか)さんと文筆家・小野美由紀(おの・みゆき)さんが対談。
「自分の価値観で生きていく」「自由な人生を楽しむ」ことについて、それぞれの考えを語る本連載は全部で3回。すこし息苦しさを感じる環境の中で、どのように生きていけばいいのか――自分らしい人生を送るためのヒントが満載です。
第1回:フランスから見た日本の不倫と婚活
第2回:銀座ママから盗んだモテるためのテクニック
第3回:自分のニーズに気づくと、息苦しい環境から抜け出せる
■フランスには「不倫」の概念がない
小野さん(以下、小野):中村さんは、現在フランス人の旦那さんと結婚されてパリの近くにお住まいですよね。先日訪ねたときに初めてお会いしましたが、とっても素敵な旦那さんと、自由な心で暮らしていらっしゃるような気がして、素敵だなあと思いました。
中村さん(以下、中村):そうですか? 私は小野さんの恋愛話を聞いたり、また『DRESS』の連載で書かれている内容を読んで、フリーダムでいいなぁ! と感じています。フランス人の恋愛って本当に本能的で、後先考えないでGOしちゃうんですけど、それと似たものを感じますね。
小野:中村さんにお聞きしたいのが、「不倫」のこと。日本だと芸能人が不倫すると大バッシングですが、フランスでは不倫は当たり前なんですよね? なんで彼らは後先考えずに本能で行動できるんでしょう。「家庭が」とか「将来が」とか、考えないのでしょうか。
中村:それは、フランス人にとってまさに「今日、今」が人生だからです(笑)。
フランス語では日本語の「不倫」に当たる言葉がない、というのは有名かもしれませんが、やっぱり、他人の基準とか社会の常識でなく、自分に従ってるから。自分の本能に。
小野:そうなんですか? 不倫はない? 不貞は? オンリー“愛”?
中村:不倫、というと、社会的にルール違反を犯してる感じするじゃないですか? とくに日本はそういう社会のルール、他人の目……それから後は、まあ法律違反ですよね。
小野::うんうん。
中村::けど、フランスは「ルールはあっても破るもの」みたいな歴史的背景があるというか。
小野::なるほど! フランス革命とかね。
中村::信号もあるけど、守らない人、本気でいますからね。社会的、世間体的に、やっちゃダメなことは犯罪くらい?
小野::日本の革命はベッキーとリリぽん(*1)にあり……あ、リリぽんというのは最近AKBの総選挙の結果発表中に結婚宣言をして引退したアイドルのことです。「アイドルなのに」とか言われて、バッシングされていました。
中村::そんなのフランスでは笑われちゃいますね。恋する権利を侵害するな! と言われそう。
小野::私はとてもスカッとしましたけどね。あれでリリぽんファンになった人もいるんじゃないかと思うけど。フランスでは、不倫している人のことを周りはどう思うんですかね? 別に悪いことだと思われない?
中村::周りは「あーやっちゃったねー(笑)」って感じで。
他人ごとなのに自分ごとのような感じの温かい視線を送っている人が多い。日本のように、一斉に鬼の首をとったようなバッシングはないです。
小野::ふーむ。
中村:前のフランス大統領が、不倫というか、長年付き合っている人がいるのに他の恋人ができちゃって……。お忍びで、単車バイクの運転手の後ろに股がって逢瀬を重ねていたというのがスクープされたときには、「わー、パパ、やっちゃったね。」みたいな、コメディー扱いでしたよ。
小野:「仕事しないで、なにやってんのー」とは、言われない?
中村:バッシングというより、その滑稽さと、人間味を「自分にも覚えがあるなあ」と捉える人が多いんじゃないでしょうか。フランスでは何をやっても、ユーモアというか、喜劇的な感じになりますね。
小野:日本みたいに目くじら立てる人はいないんですね。日本で不倫って、本当にしみったれた雰囲気が漂いますもんね。背徳……みたいな。不倫を叩いている人を見ると「あなたには関係ないのに何を怒ってるの?」って思っちゃいますけど。
*1リリぽん:須藤梨々花。
■婚活が苦しいのは、自分を「主語」にしていないから?
中村:日本人は、他人の基準に支配されて生きている人が多い(自覚はしていないけど、息苦しいとは思っている)から、自由に生きてる人を見ると憎いし、腹を立ててしまう。
だから、日本社会のなかで明らかにタブーとされていることをやる人がいると、ここぞとばかりに、自分の不満の発散先として、こてんぱんに攻撃するというのが恐ろしいです。
小野:羨ましいんですよね、他人の自由が。フランスではそういうことが、まったくないんですか?
中村:もちろん、自分に持っていないものを持っている人が羨ましいとかってのは、あるんですけどね。でも、こういうひねくれた社会現象としてはあんまり出ない。
小野:うんうん。これは不倫についてだけではなく、いつも思うことですけど、日本人は生き方に「主語」がないですよね。
自分が主語じゃない。意見を言う時にも、生き方としても「私がどうしたい」「どう思った」がない。まず先に社会があって、周囲の人々がある。
それだと不満が溜まるから、代わりにメディアが設定した主語に安易に乗っかってバッシングすることでガス抜きをする。自分の意見として言わずに主張ができるから。
中村:たしかにそうですね。私もフランスに来る前は主語がない人間でした。周りの様子を見たり、周りの反応から自分の行動や人生までを決めてしまうというかね。
小野:私、婚活における「市場価値」って言葉が嫌いなんです。よく「早く結婚しないと市場価値が下がる」とかいう人をみると、バッカじゃないのと思います。それ、なんの市場? 市場って誰のもの? 誰が設定してんの? 婚活アプリ内での市場? みたいな。
計量化できないものを、自分を主語にしないで語るからますます曖昧になって、わけわかんない不安におびやかされるだけだと思う。
中村:うんうん。私も、30歳までそうだったんだけど。なんか、おかしい。なんか生きづらいって思いながら暮らしてて。
小野:中村さんの著書『世界婚活』にも書かれてましたよね。
中村:それが、他人の基準で自分を決めようとしてるからだって、パリに行くまで気づけなかったんですよね。というか、婚活するまで。
小野:そうなんですか?
中村:もともと他人の基準に合わせて生きていて、息苦しかった。それなのに、さらに婚活を始めたら余計に「男にモテなければ」「結婚相手として選ばれなければ」という、これまた相当苦しい他人の基準が乗っかってきて。それに耐えられなくなって。
小野:それは苦しいですね~。
中村:その勢いで日本の外に出たら、「なーんだ、自分の生きたいように生きていいっていう世界もあるんだな」と気づいた。それまで他の海外でも感じてたけど、パリに行ったら、それを強く確信した。
小野:婚活がしんどかった原因って、根本にある「他人に合わせなきゃ」ということだったんですか?
中村:なんだかわからんけど、息苦しい。なんか、不安だから、忙しく仕事に打ち込んでみるけど。十円ハゲできたり、アレルギーになったり、婦人系病気になったり。仕事だって、自分自身を支えながら生きて行くのにだって、そんなんなのに、それプラスα恋愛、結婚となると、果てしない戦いというか。
小野:たしかに。例えば「何歳でこうしなきゃ!」って考え始めると、途端に自然にできなくなりますもんね。結婚に限らず、いろいろなことが。
中村:そういう不安を抱えている人はたくさんいて、小野さんみたいに周りの目を気にしない人は少数派だと思います。
小野:いや、私も気にしてますよ。だって、例えば自分が不倫したときの話とかまだ書いてませんからね! バッシングされたくないからね(笑)! まぁ、しょぼすぎる経験だから、恥ずかしくて書けないってのが一番大きいんだけどね……。
(第2回につづく)
Text/小野美由紀
構成/DRESS編集部 小林
【お知らせ】
9月17日(日)文筆家・小野美由紀によるクリエイティブ・ライティング講座が開催されます。
「身体を使って書くクリエイティブライティング講座」
http://onomiyuki.com/?p=3222
「コラムやエッセイを書きたい!」「文章で自分をもっと生き生きと表現できるようになりたい!」という方はぜひご覧ください。
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。