Illustration / Yoshiko Murata
JULY DRESS 2015 P192
おしゃれ過ぎる男、実は苦手です……【甘糟りり子の生涯嫁入り前】
恋人にするなら、おしゃれ過ぎる男より「ちょいダサな男」の方がいい?!
デニムのエスパドリーユ、買っちゃった。程よくビジューがついたタイプ。こういうのって気分あがる〜。やっぱり、今年は、デ・ニ・ム、だよね。
とはいえ、四十を過ぎたら、「今年もん」との距離感がむずかしい。全身これトレンドみたいなのは頭が悪そうだし、かといってあまりに時流とかけ離れていると老けて見えてしまう。
「今」をどのぐらい取り入れるかがその人の個性になるのだろう。なーんて、そんなあれこれで悩むのもファッションの楽しみだ。
で……、ところで……、しかし……、と接続詞をやたらと並べてみたけれど(これは一種のごまかしです)、ファッション好きな男性について、私はどうしても素直に「すてき!」とは思えないのだ。
あー、書いちゃった。これ、女尊男卑かもしれない。性別なんて関係ないってくらいの超ファッショニスタはかっこいいけれど、大人の男の「おれ、完璧でしょ」なおしゃれが苦手なのだ。
まあ、遠目に見る分にはいい。都会の風景のひとつだしね。でも、自分の恋人となると、トレンド感ばっちり、の男性はちょっと無理。いやいやいや、私なんて、条件つきつけられる立場ではないのはわかっているよ。でも、高そうなレザーのブレスレットを重ねづけして、颯爽と現れる男性とのデートの様子がまったく想像できない。自分はしっかりお高めなトートバッグを持っているくせにね。
私がまだ若い女の子だった頃の話。当時の恋人の部屋でのんびり休日の午後を過ごしていた。夕ご飯は、ちょっといいレストランに行く予定。出掛ける時になって、スウェットパンツだった彼は着替えるため、寝室に行った。で、数分後に出てきたその人は、ジーンズ(*当時の呼び方はデニムではなくジーンズ)に白いシャツ、そしてビジネススーツの上着を合わせていた。
「ねえ、これって変?」
「うん……、変は変。ってか、かなり変。ジーンズにジャケットってスタイル流行っているけど、そういうスーツの上だけ着るのとは違うものなのよ」
「わぁあ、おれって、やっぱファッション・センスないんだぁ」
そういって頭を抱える彼のことを、かわいいなあと思った。その後、私はところどころでさりげなく口を出し、時々ファッションものをプレゼントしたりして、彼はビジネススーツをバラして休日に着るようなことはしなくなった。
で、わりと最近、その人にばったり会ったら、すーっかり「さりげなくブランドものを取り入れている」おしゃれさんに成長していた。なんでしょうね、この複雑な気持ち。良かったような悪かったような。あの、ファッションにうろたえていた男の子が懐かしい。
類は友を呼ぶのか、私の周りには過剰おしゃれ男は恋愛対象にならない、という声が多い。そういう人はたいてい、自分は歴としたファッショニスタである。
「真夏にストールを首にぐるぐる巻いて、汗かいてる男ってバカじゃないの」
「いい歳して身体じゅうにドクロマーク何個もつけてんのって、あれ何かの宗教か?」
「ピンクのシャツ着た男に性欲わくかって」
この話題になると。皆さん、ここぞとばかりに毒舌になる。さんざん悪態をつきまくり、挙げ句は、1、清潔感があって、2、さりげなくて、3、普通の格好の男がいい、という結論になる。私は、ちょっとダサいくらいが好きですけどね。
だいたい、普通って何なのよ。それが一番むずかしい。自分で書いておいて無責任だけれど、「ちょっとダサい」と「本当にダサい」の差異なんて、私にもわからない。
正直いえば、私たちが、過剰おしゃれ男が苦手なのは、”男のくせに“ファッションなんかにうつつを抜かしてるなんて、というのが本心だと思う。立派な性差別、セクハラです、はい。他の女性のイメージが強い分野の趣味、例えば料理とか合唱とか茶道とかだったら、そんなふうに感じないのに。
つまり、ファッションを身だしなみとして捉えているのか、趣味として捉えているのかの違いである。ファッションを趣味にされるのはひいてしまうけれど、身だしなみはきちんとして欲しい。口うるさい女たちの本音はこんなところだろう。
ええええ、口うるさいがゆえに行き遅れていることも、さりげないおしゃれができる日本男児なんて一万人に一人ぐらい(注・甘糟調べ)しかいないことも、いやというほどわかってるってば!