Text=YANG YII。41歳。
蓮舫さん、横粂勝仁さんのがスゴい理由――選挙ポスターを見て思うこと(後編)
かつて制作会社を経営していたときに選挙ポスターの制作を請負った経験がある私。その戦績は3勝0敗。すべて新人候補者からの依頼だったが、私が担当した候補者たちは全員当選したのだ。そんな経験も踏まえ、今回の参院選選挙ポスターについて考察してみたいと思う。今回は後編。
以前、政治家本人から直接聞いた話。選挙の勝敗にはマーケティングが大いに関わっているとのこと。特に統一地方選挙においてはその傾向が顕著なようで、たとえば〇〇選挙区を対象とした場合に
「新人 × 女性 × 高学歴 × 未婚 → 2枠」
のようにいくつかの条件でソートをかけると「2枠」といった当確枠がはじき出される。その当確枠に対して、自分は現在、1位なのか? 2位なのか? 空き枠があれば躊躇せずに出馬すべし……といった具合に戦略を立て、選挙期間の戦術に落とし込むのだそうだ。いやはや……(汗)。
さて、前回の続き。今回の参議院議員選挙のポスター・レビューをお送りします。
■印象的な「R」が差し色に……デザイン大賞は蓮舫さん
そして、このポスターの一番素晴らしいところは、名前を特大サイズで表記することで政治家の要件・要望を満たしているだけでなく、同時に、特大サイズの文字の効果で、蓮舫さんご自身の写真に小顔効果を生んでいるところである。これは発明である。蓮舫さんは政界きっての美人議員。もともとが小顔に違いないが、こうしたデザイナーの気遣いは、女性にとっては嬉しいものである。
さらにこのポスターには3つの素晴らしい点がある。
●白いスーツをお召しのため、政党ロゴの背景部分が白地となる。それにより、綺麗に政党ロゴが挿入されている。
●ピンクの「R」の一文字。ピンクを使用しているのは女性らしくかわいらしいのだが、何よりも感心するのは、「R」という形状を使って挿し色を入れているところ。かなりレベルの高いアイディア。異物感があり、心に引っかかり、印象を残す「R」。
●余計な文字がない。これは、多くの政治家に見習ってほしいと思う。私も、過去何度も「目立ちたければ、文字を減らせ!」と政治家に提案したことがあるが、なかなかここまで文字を削ぎ落とせないのが政治家のサガなのである。
以上、今回の選挙ポスター。私的なデザイン大賞は、蓮舫さんで決まりである。
■選挙ポスターとしては超お洒落……横粂勝仁さん
今回の横粂さんのポスター。かなりオシャレだ。背景をよくご覧いただきたい。透かしで「Yokokume Katsuhito」という文字がデザインされている。「何だよ、それだけかよ!」と思われるかもしれないが、他の候補者の“一般的なTHE・選挙ポスター” なデザインと比べてみていただくと一目瞭然。こうしたギミックを施しているポスターはほとんどないのが実態だ。政界というのは、自民党、民進党などの政党本部の案件であれば、大手広告代理店が入ってコミュニケーション業務を支援しているが、それが候補者・個人レベルからの発注となれば、デザインなどの制作能力は一気に下がってくる。それは、地方議員ならばなおのこと、国政候補者レベルであっても例外ではない。
耐光性や防水性に優れた特殊紙を使い、裏面がシールになっている選挙ポスター。そうした選挙ポスター専門の印刷会社というのが世の中にはあって、その印刷会社とつながりのあるデザイナーにポスター制作を依頼する政治家も多い。そうすると、“一般的なTHE・選挙ポスター” ができあがるのである。今回、横粂さんは、きっとそうしたルートを使わずに、独自のルートでデザインを委託したのだと思われる。
■知ってますか? 選挙ポスターのデザイン費と印刷費は公費負担という事実
以上2回にわたり、選挙ポスターについて、あーでもない、こーでもない……と語ってきたのにはワケがある。ご存じの方も多いかもしれないが、選挙ポスターというのは、デザイン費と印刷費が公費で賄われているものなのだ。(ちなみに掲載の作業はボランティア)
つまり、選挙ポスターは、私たちの税金で支払っている公のデザイン物なのある。みんなのものなのだ。よって、私たち納税者は、各候補者がどんなクリエイティブを採用しているかについて、もっともっとチェックする責任がある。たかがポスター、されどポスター。ポスターひとつをテキトーに作る候補者にはもっともっと厳しい目を向けるべきである。違うか?
(完)
41歳。さすらおう…この世界中を。
転がり続けて歌うよ… 旅路の歌を。