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エンタメ化の流れがきた――選挙ポスターを見て思うこと(前編)

かつて制作会社を経営していたときに選挙ポスターの制作を請負った経験がある私。その戦績は3勝0敗。すべて新人候補者からの依頼だったが、私が担当した候補者たちは全員当選したのだ。そんな経験も踏まえ、今回の参院選選挙ポスターについて考察してみたいと思う。今回は前編。

エンタメ化の流れがきた――選挙ポスターを見て思うこと(前編)

 6月22日に公示された「第24回参議院議員通常選挙」。現在、街のいたるところに選挙ポスターが掲出されている。本コラムでは、今回の参院選の選挙ポスターを広告制作という観点から少しだけ評してみたい。

■新潮流⁉候補者ポスターに見る、選挙のエンタメ化

 いま人気のテレビ番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)。“難波のTOO SHY SHY BOY”といえばR指定。“謙虚な曲者ラッパー”といえばDOTAMA。このように番組の出演者や登場人物に対してキャッチコピーを付ける演出の手法は、いまやテレビ番組の常套手段である。

 このような手法は、お笑い番組からスポーツ中継にいたるまで、枚挙に暇がない。たとえば、漫才日本一を決する「M-1」では、笑い飯に“孤高のダブルボケ”というキャッチコピーが、チュートリアルに“華麗なる妄想族”というキャッチコピーが付いていた。総合格闘技「K-1」では、“ミスターパーフェクト”と言えばアーネスト・ホースト。魔裟斗は“反逆のカリスマ”と呼ばれ、須藤元気は“変幻自在のトリックスター”といった具合で紹介されていた。

 登場人物にこの種のキャッチコピーを付与するのは、コンテスト形式やオーディション形式の番組、また、スポーツなどの勝敗を決するタイプの番組において特に有効な手法だ。優勝を目指して群雄割拠する出場者たち。その個性を際立たせてショーアップするかのようなキャッチコピーを付ける。試合は群像劇と化し、勝敗の行方は最高のエンターテイメントへと昇華されていくのだ。

今回の選挙ポスター、よく見るとスゴい

 今回の参院選の候補者たちが、ポスターという限られたスペース内でどんなキャッチコピーを謳っているのか見てみよう。すると、かつてない新潮流に気づかされる。



“尖閣に上陸した男”
“国会の鬼検事”
“俺たちをこき使え!”
“元ビーチバレー日本代表”



 こ、これは……(汗)。ひと昔前であれば、この文字サイズを使って書かれていたことと言えば、 “増税反対!” “高齢者福祉の充実!” “脱官僚!行革推進!” などといった文言だったはずである。候補者の一丁目一番地の政策を象徴的なキメキメのワードで記すこと。それがキャッチコピーの通例だった。

今回の候補者たちのポスターでは、個人のキャラクターを強調して伝えるキャッチコピーが目を引く。選挙の劇場化、エンタメ化が進んでいるように感じる。

■選挙ポスターから匂い立つ古館イズム

 話は逸れるが、私が思うに、テレビ番組においてこのような手法が編み出されたのは1990年頃。当時、スポーツ番組の実況アナウンサーだった古館伊知郎さんによるものだと思う。古館さんは、F-1中継で、アイルトン・セナを“音速の貴公子”と、アラン・プロストを“プロフェッサー”として実況していた。またプロレス中継においても、アンドレ・ザ・ジャイアントを“人間山脈”、前田日明を“キックの千手観音”、高田延彦を“戦うジェームス・ディーン”と表現した。スポーツ中継をショーアップする画期的なフレージング――古館節。スポーツ実況の世界は、古館以前と古館以後とに分かれる……とまで言われている所以である。

 今年3月。古館さんは、12年間司会務めた『報道ステーション』を退任した。果たして、若い人にとっては古館伊知郎と言えば報道の人なのだろうか? だとすればとても残念だ。古館さんのスゴさは、報道ではなく、スポーツ実況にこそあるのだから。

 「報道ステーション」でも古館節を聞かせてほしかったんだよなぁ……。

 そして、なんの因果かわからないが、古館さんが『報道ステーション』を退任した直後の国政選挙において、候補者たちによって古館イズムは継承されている。古館さんが報道番組のキャスターをやるのは、10年早かったんじゃないのか。

■政治家がタレント化する流れはメジャーになる

 タレントが、その知名度を活かして政治家に転身するとき、世間からは“タレント議員” として揶揄されることがある。しかし今後は逆に、政治家のタレント化も進むのではないだろうか。それは、こうしたポスターに付与された候補者たちのキャッチコピーを見れば、すでに顕在化し始めていることだと言える。

 私はこうした流れを歓迎する。昨年、ネット選挙(選挙期間中のインターネットを使った活動)が解禁された。今年は、投票年齢が18歳~となり、少しずつではあるが選挙が変わりつつある。そして政治家がインターネットを活用すればするほど、こうした政治家のタレント化は進むと思われる。

 自らのセルフプロデュース能力が問われるSNS時代。政治家も例外ではない。多くの候補者の中から、いかに自分をキャッチ―に表現し、印象付けるかが重要となる。公約? 政策? マニュフェスト? それらは、公式サイトや公式ブログにいくらでも詳細を掲載することができる。トラフィックの多い場所(ポスター掲出場所)に対しては、いかにCTRの高い原稿(ポスター)を入稿できるかが勝負なのである。

後編へつづく

Text=YANG YI。41歳。

Yang Yii

41歳。さすらおう…この世界中を。
転がり続けて歌うよ… 旅路の歌を。

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