なぜ築地移転は必要だったのか。わかりやすく解説します・後編
築地の移転が2018年10月11日に決定しました。地市場移転延期を巡って、何が起こっていたのか? シリーズ「食文化遺産(グルメ)としての築地」では、前後編に分けて、「食文化の継承と発展、保全」との観点から解説します。
なぜ築地移転は必要だったのか・前編〜食文化遺産(グルメ)としての築地
築地市場移転延期に伴う補償費の予算は、平成29年度予算で50億円、平成30年度予算で42億円、合計92億円です。
さらに、2020東京オリンピックパラリンピックに向けて、環状二号線の本線(トンネル)が間に合わない。
当時、築地市場移転延期を決断した小池都知事は、都議会与党と対立構造にあり、与党へNOを突きつけることにより、「文化遺産の維持継承」という、文化というみんなのものを政治問題にしてしまったと、結果として言えると思います。
くれぐれも申し上げておきますが、これは批判ではありません。
客観的、そして公平な視点から都議会での言動を元に事実を客観的にお伝えすることに努めています。
■肉を切らせて骨を断つ決断
そもそも、築地市場の移転先は、小池知事のずっと前、石原都知事のときに、豊洲と決まりました。中央区は現在地再整備を望む、つまり築地を残したい、という立場でしたが、東京都の予算が計上されてしまったからには移転するしかありません。
せめて、築地の食文化を残したいということで場内市場は移転しても、場外市場は都市文化遺産として残し、場外市場を食文化の象徴として継承する――このことに対する協力を東京都に要請していました。
つまり現在地再整備はかなわないにせよ、むしろ文化を積極的に場外市場を残す、ということで、合意をし、まとまったわけです。
まさに、肉を切らせて骨を断つ決断でした。
現実的に、築地移転が決定したことに伴い、さまざまな計画が動き出しました。
市場の移転を前提に、中央区のまちづくりは、このように東京都との関連性や、区内における総合的な流れの中で進んできたといえます。
特に、豊洲新市場の汚染は大きな声で叫ばれましたが、土壌汚染対策法に基づき、既に860億円を対策に割いている。今後は数値によらず、専門家会議における専門的・科学的根拠に基づく対策を講ずることが必要であると思います。
■築地移転問題に見る、文化を維持継承する難しさ
混乱に次ぐ混乱の末、再び、昨年6月、小池都知事が豊洲新市場への移転を決定したことを受けて、オリンピックで主要な輸送ルートとなる環状二号線が間に合わないことが決定的になりました。
築地市場跡地に掘る予定であったトンネルは棚上げとなり、暫定道路で対応するということに決まったんです。
暫定道路は築地川沿い・築地市場横の地上部の2カ所。これらはいずれも片側一車線を予定していることから、晴海道路の渋滞が懸念されています。これも予定外の懸念です。
この間、棚上げとなっていた10カ月の豊洲運営費用、および関係者への保証、一連の費用として計上された関連予算は、平成29年度予算で50億円、平成30年度予算で42億円、合計92億円です。とてつもない血税です。
さらに、小池知事の構想「食のテーマパーク」については、未だ方向性が示されず、今後は「築地再開発検討会議」で地元区である中央区を、当事者ではなく「オブザーバー参加」とした上で検討するのだそうです。
このように、純粋に語られるべき「食文化遺産の維持継承」を巡り、これだけの時間と予算が割かれている……。
築地の例をもとに、いかに、文化の維持継承と保全が難しいか?
どれだけの利害関係が、どれほど多くの人々に影響を及ぼすのか? について触れました。
■文化はみんなのものだからこそ……
文化は素晴らしい。この思いはみんな共有できますよね。
そして文化は誰のものでもない。みんなのものです。みんなのものであるからこそ、行政が関わっている。行政があるところには政治がある。みんなのものであることは間違いないのですが、誰が主体的にやるのか? も曖昧になってしまう一面を持っています。
こういった宿命的な関係性をもった文化というものは、その反面、だからこそ文化というものの持つ力を侮ってはいないと思います。
日本は日本の伝統と文化の持つ力で世界の文化に貢献できる、そして世界平和に貢献することができると思っています。ただ、その手段については、常に議論をするだけでなく、実行し、結果を出すという必要に駆られているのです。政治は結果なのだと思います。