隣人X/講談社/パリュスあや子
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出版社縛りの2作目は「講談社」です。連載「TheBookNook」Vol.23では、八木さんがおすすめの「講談社」出版作品をご紹介します。特に、ちょっと一癖あるものをピックアップしていますので、ぜひ気になる作品を見つけてみてください。
文 :八木 奈々
写真:後藤 祐樹
#21の“新潮社編”に引き続き、出版社別で選ぶ本選びのすゝめ、第二弾。
多くの方が一度は耳にしたことがある大手出版社でありながら、野間賞・江戸川乱歩賞・講談社漫画賞などの各賞の顕彰事業や、「本とあそぼう 全国訪問おはなし隊」による読書推進活動などの文化事業も積極的に進めている「講談社」さんのおすすめ本を、今回は紹介させていただきます。
写真はイメージです。
小説・教養・ジャーナリズム・ファッション・絵本・漫画アニメ・ゲーム等、圧倒的に幅広いジャンルの書籍を扱ううえに、メディアミックスにも強い「講談社」さん。あまりにも多くの話題作を取り扱っているので、今回はあえて一癖ある、あらすじ通りにはいかない物語達で揃えてみました。
ぜひ、「講談社」さんにしかない魅力を味わってみてください。
2023年12月に映画化もされている本作品。惑星難民となった宇宙人が日常に紛れるようになった世界という設定から、一見、フィリップ・K・ディック氏を彷彿とさせるSF的な物語かと思い読み進めていましたが、むしろSF色はさほど強くなく、現代の日本にある多くの社会問題を、海外に住んでいる作者ならではの視点で私達読者に投げかけてきます。
登場する3人の女性の性格がどこか似ていることに気持ち悪さを覚えた前半から、納得の後半。すぐ横にいる人は異星人と似て非なるものという比喩表現だと考えると、怖いほどスラスラと“日常”に物語が入ってきます。
そう、日常に。
そんな現代の生きづらさとSF要素が絶妙に絡みあい、エンタメ性と批評性を兼ね備えたこの作品。私達にとって“普通”とは何なのでしょうか。
私は、あなたは、あの人は、“普通”なのでしょうか。ただひとつ言い切れることは、この物語がまぎれもなく今の日本の話であるということ。そう、宇宙人も含めて。
デビュー作『法廷遊戯』で話題となった弁護士作家、五十嵐津人氏の2作目となる本作品。“殺人犯は13歳”という帯と、印象的な装丁に惹かれ購入しましたが、大当たり。いや、考え方によっては最高の大はずれかもしれません。
少年法の理念と運用の間に横たわるジレンマの存在は昨今のニュースなどでも広く知られていますが、五十嵐津人氏の視点はそこに留まりません。未成年である犯人の異常性や狡猾さをクローズアップしていくのかと思いきや、事件そのものよりもそれを取り巻く人間の感情が主題となって物語は進んでいきます。
同情する点も多い少年少女ではあるが、共感はできない。いや、できなくて良かった。
毎行、予想とは違う角度から攻めてくる展開に、物語がどう繋がるのかが読めず、ページを捲る手が止まりませんでした。
もし、これらが身近で起きたとき、私は何を否定できるのでしょうか。そんな考えが頭をよぎった後、慌てて表紙を伏せました。表紙の彼女と目が合ってしまうような気がして。
アメリカ・ウクライナ・日本・ブラジル……。“特殊能力”をもつ名探偵たちが世界中が欲する“聖遺物”を賭けて「推理ゲーム」を行う、という少年漫画のような設定のこの作品。
個人的にはこのあらすじだけでかなり心掴まれました。たとえるなら、ミステリー版アベンジャーズ。各章で名探偵らのキャラクター造詣を深める謎解きがあり、それを踏まえたうえで終章で展開される多重推理には、言葉通り“酔い”しれました。もう、読むたびに推し探偵が変わってしまう自分が不安になるほど全員が魅力的なのです。ひとつの小説に留めておくのはもったいないほど。
聖遺物をめぐる大戦は、むしろサブ要素かもしれません。そして賛否両論覚悟で書いたとしか思えない衝撃のラストの展開に唸らされました。きっと読後に抱いた感情さえも作者の手のひらの上。贅沢に騙される読書体験でした。
ミステリーが苦手な人もエンタメ作品として楽しめると思います。“無駄に面白い”あとがきも必読です。
本選びのすゝめ【講談社編】、いかがだったでしょうか? 講談社出版の作品には、他にも『十角館の殺人』や『窓際のトットちゃん』などがあります。
冒頭にも書いた講談社さんが展開する顕彰事業や文化事業にも注目してみてください。知れば知るほど面白い出版社別の世界、続編もお楽しみに。
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この連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。
一冊の本から始まる「新しい物語」。
「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
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