サンタのおばさん/文藝春秋/東野圭吾
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みなさんは今年、どんなクリスマスを過ごされますか。連載「TheBookNook」Vol.13では、クリスマスをテーマに据えた作品たちを紹介します。今回、八木さんが選んでくれたのは、クリスマスに読みたくなる三作。八木さんからのプレゼントをぜひ手にとって、特別な時間をお過ごしください……。
文 :八木 奈々
写真:後藤 祐樹
クリスマスが近づき、街がどこか華やいだように感じられる今日この頃。皆さんにはこの季節になると思い出す本はありますか……? 子供のころに読んだあの絵本? それとも映画にもなったあの名作?
あたたかい作品から切ない作品、ユニークな作品まで、クリスマスをテーマにした作品は多くの作家さんによってさまざまな目線で描かれています。
写真はイメージです。
今回は、毎年この季節になると思い出したように読みたくなる私のお気に入りの物語を紹介させていただきます。もちろん舞台はクリスマス。どこか特別な匂いを感じながら触れる作品たちは、毎年読んでいても読後は新しい感情に出会えます。あなただけのクリスマスストーリーが見つかるかもしれません。
皆さんのイメージするサンタクロースはどんな容貌ですか? この作品は、東野圭吾さんによって描かれた、大人も子供も深く考えさせられる“大人の絵本”です。……とはいえ、風刺あり、ジェンダーあり、人種、ステップファミリーなど現代社会のあれこれに焦点をあてています。
短い物語なのでさらっと読めますが、本作品の初版は2001年。当時の東野圭吾さんの慧眼にも心惹かれます。世界中のサンタさんが会議をして相談しあう描写はとても印象的で、毎年この季節になると今年もたくさんの“サンタさん”が活躍するんだろうなあ……とこの物語を思い出します。東野圭吾さんが綴る文章と素敵な挿絵から優しいメッセージを感じ、読後はほっこり幸せな気持ちになりました。
“大人の絵本”と書きましたが子供にもぜひ読んでほしい……というか子供の頃に出会いたかった一冊です。サンタがおばさんでも……いいですよね。
本作品は、いまや多くの人に知られる森見登美彦さんのデビュー作。「何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。」この書き出しで始まる小説が面白くないわけがないと即購入しました。
舞台はクリスマスの嵐が吹き荒れる京都。自分はモテないと開き直った主人公とその友人たちが実にくだらない妄想を貪り続けながら進んでいく「非リア対クリスマス」。2〜3行に一度は笑っていたような気がします。
そして、いつでも最後に辿り着く結果は関係ないのだと彼らの“今現在”の生き方が語りかけてきます。
クリスマスならではの華やかさとは真逆のストーリーですが、これはこれで心地よく、読後はどこまでが現実でどこからが妄想だとかどうでもよくなり、現実と2センチほどズレた物語の世界にしばらく腰をかけていたくなるはずです。くだらないけど素晴らしい。
クリスマス目前に恵比寿、渋谷で起こる連続爆弾テロ。しかし犯人の声明は「これは戦争です」。犯人の予告、首相の全国生放送対談などを通して、国民の恐怖や緊迫感が現実味を帯びてくるあたりがとても生々しく描かれており、フィクションであって、フィクションではないのではないかと思わざるを得ません。
まだまだこれからかと思えば残りのページはわずかで、最終章で一気に畳みかけるジェットコースターのような展開に、少し物足りなささえ感じてしまうほどあっという間に読めてしまいます。
偶然そこにいた人、意図的にいた人、ひやかし、野次馬、逃げる人、守る人、企てる人、それぞれの人の行く末……。その誰目線で読むかによって物語の見え方も180度変わってくるのかもしれません。ひとまず私は別の世界線で出会い恋をしたふたりを想像するとします。これもまた楽しいのです。
今回はクリスマスをテーマにした“角度の異なる”三作品を紹介させていただきました。クリスマスに読書なんて寂しいという声が聞こえてきそうですが、小説を片手にクリスマスを祝う……というのも粋なものです。
大切な人や、自分自身へのクリスマスプレゼントにもいかがでしょうか。一冊の物語をおともに素敵なクリスマスを……。
「パチパチ」と耳に優しい暖炉の音を聴きながらの読書は至福のときです。
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この連載は、書評でもあり、“作者”とその周辺についてお話をする隔週の連載となります。書店とも図書館とも違う、ただの本好きの素人目線でお届けする今連載。「あまり本は買わない」「最近本はご無沙汰だなあ」という人にこそぜひ覗いていただきたいと私は考えています。
一冊の本から始まる「新しい物語」。
「TheBookNook」は“本と人との出会いの場”であり、そんな空間と時間を提供する連載でありたいと思っています。次回からはさらに多くの本を深く紹介していきますのでお楽しみに。
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