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男より女より、本音が重要じゃない?【ゲイとノンケ女子の、今夜は本音でしゃべりたい#1】

「男だからこう」「女だからこう」とか、そういう話でまとめられる時代ではなくなってきている。

男より女より、本音が重要じゃない?【ゲイとノンケ女子の、今夜は本音でしゃべりたい#1】

LGBTsの人たちのことをもっと知りたいと思ったのは、森山至貴(もりやま・のりたか)さんの『LGBTを読みとく』(ちくま新書刊)を読んだことがきっかけでした。

本に書かれていた「『偏見がない』では、差別はなくならない。」という言葉が妙に頭から離れず、このモヤモヤをなにか企画として発信できないかと考えていたところ、『DRESS』でも執筆していただいている小野美由紀(おの・みゆき)さんから、「やる気あり美」(※1)の代表・太田尚樹(おおた・なおき)さんとの対談をしたいと企画を提案していただきました。

もともと交友関係もあるおふたりが、「マイノリティが生きていくこと」「多様化する社会で生きていくこと」について、それぞれの考えを話し合います。

ここからは、2時間以上に及んだ対談を全3回に分けてご紹介。読み応えのある面白い内容になっているので、空いた時間にゆっくりとお楽しみください。

※1:ユニークなコンテンツを発信することで、セクシュアルマイノリティがより自然に生きることのできる社会の実現を目指して活動しているクリエイティブ集団。

【ゲイとノンケ女子の、今夜は本音でしゃべりたい】の目次

・第一回:男より女より、本音が重要じゃない?

・第二回:ポリコレの時代、「誰も傷つけない」表現は可能なの?

・第三回:「いい」「悪い」で評価されたくてカミングアウトなんかしない

■マイノリティが生きやすくなればマジョリティも救われる

小野美由紀さん(以下、小野):私と太田が出会ったのは2年前。来年2月に出る小説のための取材で話を聞かせてくれるゲイの方を探していて、友達から紹介されたんだよね。当時太田は「やる気あり美」を立ち上げたばかりだったと思うんだけど、どうして立ち上げたの?

太田尚樹さん(以下、太田):僕は最初普通にサラリーマンをやりながら、LGBTsの啓発活動みたいなこともやりたいなと思っていて、参加する団体を探してたんだよね。けど当時のLBGTsの啓発活動ってデザイン観点が今よりもっと弱くて、例えばいろんなイベントで「めっちゃ分厚い”LGBTってなんだろう”って書いたパンフレットを渡される」みたいなことがたくさんあって。

手に取りたいと思えなかったというか。「(当事者の)言いたいことが(他の人々にとって)聞きたいことになってないことって多いんだな」って強く思って。

小野:「当事者が知ってほしい情報と、周りがほしい情報が一致してない」ってこと?

太田:そうだね。だから、ウェブを使って、当事者も当事者以外も気軽に触れられて、見たくなるようなものを作ろうと思った。

これまでのLGBTsについてのイメージって「オネエ」とか「人権運動」とか「アングラ」みたいに特殊なものっていうのがどうしてもあった。でも、僕にとってのLGBTs当事者のリアルは、セクシュアリティ以外は本当にマジョリティと一緒で、フツーの人だったりする。だから、「マイノリティです」ってラベルに括られずに「この人たち、フツーなんだ!」っていうイメージをみんなに持ってもらいたいなと思って。それでGIFとか動画とか記事を掲載するウェブメディア「やる気あり美」を立ち上げた。

小野:「びじゅチューン」で人気のアーティスト、井上涼くんが手掛けた動画はめちゃバズったよね。

太田:あれは、「思わせぶりなノンケ男子の一言劇場」っていう、ゲイとして10代のころにあった「あるあるネタ」をgifアニメにしたものが元になってるんだけど、10代のころは「ゲイである自分の恋は歪んでる」とか思ってたんだよね。大人になったら「歪んだ恋かどうかって、セクシュアリティは関係ない」って知るんだけど(笑)。

「10代の恋は、LGBTsであれ、なんであれ尊いよ!」っていう、当事者に向けた動画にしたら、結果として当事者以外の人にもウケた。

小野: あの動画、女から見てもすごい共感するもん。「いるいる! こう言う思わせぶりな行動するくせに何にも考えてない男!」って。

太田:あれはノンケの男性にも好評で、「俺らのああいう行動ってそういう風に受け取られてたの?」って盛り上がってた。

小野:そういう風に、LGBTsとノンケの境目がなくなって、みんなで楽しめるような活動がやる気あり美の魅力だよね。

太田:世の中で見るとLGBTの割合は8%弱と言われてるんだけど、例えば「LGBTとはこうですよ!」みたいなことを主張するだけだと、相手からしたら「私はあなたとは違いますよ」って言われてるように感じるんじゃないかと思って。

でも、「違うよね」って言った後で、もう一度「こういう面では一緒なんですよ」って手をつなぎ直せるのが重要なのかなと僕は思ってる。だから共感できる点を探るような。例えば性的志向に関わらず、みんなで一緒に参加する田植えイベントをやったりとか。

小野:なるほどね。

私は女でストレートで、たまたま性的志向や身体的特徴においてはマジョリティの側に生まれついたわけだけど、小さいころからなんとなく「マイノリティが許容される社会の方が、自分も生きやすくなりそうだぞ」というのが直感としてあって。

太田:例えば?

小野:うん。例えば私、幼稚園を2回強制退園になってるんだけど。一回目の理由は4歳のとき、覚えたてのマスターベーションをお昼寝の時間に毎日しまくってたら、周りの子たちがみんな真似するようになって、それで退園に……。

太田:(爆笑)

小野:今から考えれば「私、インフルエンサーとしての素質あるじゃん!」って感じだけど。……ちなみにオカズは昔話の「カチカチ山」。

太田:大丈夫! みんなカチカチ山だよ!

小野:そのフォローは意味わからんけど。まぁ、そういう理由で、小さいころからなんとなく「どうやら私はマジョリティだけが優遇される環境だと生きづらいのではないか」と思っていて。

LGBTsの問題に関心があるのも、マイノリティが生きやすい社会になった方がいいなと思うのも、同情とか、道徳的な正義感とかでなく、"そうなった方が自分がラクに生きれそうだから"という、極めて利己的な目的意識に基づく合理的判断なんだよね。

太田:なるほどね。

小野:でも、私以外にも似たような理由で、一見マジョリティっぽく生活はしているんだけど、マイノリティが生きやすい社会になることで救われるマジョリティの人はめちゃくちゃいっぱいいるはずだとは思ってる。

例えば現代女性の生きづらさとかに関しても、子育てのしにくさとか、キャリアの築きにくさとか、そういう文脈で最近可視化され始めているけど、それ以外にも実は声に出して言ってない「サイレントマイノリティー」がマジョリティの中にもいるはず。

■ゲイも「男としてできるかどうか」の尺度で測られるとしんどい

太田:女性のしんどさとゲイの自分が抱えるしんどさって似てるなってよく思う。例えば、ゲイの僕と女性が1対1で話してて、そこに男性がひとり加わった途端、だいたい女性は態度が変わる。

小野:変わるだろうね。

太田:モードが全然違う。「え、君、さっきまで僕と体位の話してたやん!」みたいな。

小野:あはは(笑)。

太田:女性の多くが「男性に選ばれなければいけない」って呪縛を抱えていて、反射的にしおらしくなってる感じはあってしんどそうだなと思う。僕と話してる間は「私は人生のすべてを、この手で選んできてます」って言わんばかりのテンションなのに。

小野:太田はノンケの男性の中にひとりでいたら態度変わらんの?

太田:変わる。

小野:変わるんじゃん(笑)!

太田:なんというか、そういう場ではつい「仕事ができる風男性」として振舞ってしまう。僕、周りのノンケ男性にもカミングアウトしてるんだけど、それでコミュニケーションが変わったかといえば、本質的には変わってなくて、男ばかり集まる状況では、ゲイである自分を奥に引っ込める感覚さえある。だいたい男性だけで集まると、仕事での成果についてのマウンティングになるから。反射的に負けたくなくなる。

小野:しんどいねー。

太田:本当ね。ああいうのに合わせちゃうの、自分で未熟だなって思うよ。どれだけ稼いでて、どれだけでかい仕事したかっていう。仕事うまくいってる男は声がでかくて、地位が低かったり稼いでなかったりする男は途端にしゃべらんくなったりする。

小野:男性のしんどさもあると思う。ホモソーシャルの構造の中に生かされているから。「できる」ことに対価が払われるのが労働だから「できない」って言いづらいよね。
DRESS編集部の小林さんは、男性ですけどそういったマウンティングって経験したことあります?

DRESS編集部:男同士のコミュニティではマウンティングがたびたび見受けられますからね。僕も前までしていたんですが、自分よりマウンティングを露骨にしている人がいて、恥ずかしいなと思って、やめました(笑)。

太田:そのマウンティング競争から降りるのって、けっこう難しくなかったですか?

DRESS編集部:難しかったです。でも、いわゆる「強者」であることが好かれるわけではないなと思って。お笑いの世界でも、例えばビートたけしさん、さんまさんなどが業界の頂点にいるとして、この人たちだけが世間のお笑い人気を独占しているわけではありませんよね。おぎやはぎさんとか有吉さんとか、自分の世界を持っているキャラクターの方が、がっちりファンを持っていて愛されてたりするじゃないですか。

そういうのを見ると、「ランキングでナンバー1になることが幸せとは限らないな」と思って。

■マウンティングの強者になるよりバリエーションのひとつである自分を愛する

小野:なるほどね。強者であることより、独自の世界で愛されてる方が戦略的に強いってことか。

DRESS編集部 小林:自分の居場所がなくなるのは怖いですから。

小野:今の話ってまさに多様性の話だよ。ひとつの物差しが有効な世界で覇権を握るより、バリエーションのひとつとして自分を誇った方が人生楽しいし生きやすいってことだね。

そういう意味では、私は女の方が先に“古いものさし”から降り始めている気がするな。

太田:どういう意味で?

小野:例えば、女の人生「結婚して子ども産んで、バリバリ働いて、それでなお美しくて、母としても妻としても女としても労働者としても成功している」みたいな「ルービックキューブ全面揃えないとダメ」みたいな感じがちょっと前まではあった。でも、そんなのさすがにしんどいし、誰でもは無理だよ! って気づいてきた。

「ルービックキューブの1面か2面でも好きな面を揃えたらそれでよし、もっと言うと、揃ってなくてもそれでよし」にしないと限りなくキツくなってく。そういう「すべてを完璧にするゲーム」から、降り始めた女はここ2~3年で多い気がするんだよね。

太田:なるほど。

小野:今までは「VERY妻」みたいなのがカーストのTOPだったかもしれないけど、その人たちだってしんどくないわけじゃない。マタハラとか、マウンティングみたいなもののバカバカしさにみんな気づき始めている。それよりも、置かれている人生のフェーズや、立場の違う女同士がどうやって連帯してゆくかっていう、「マウンティングから連帯へ」がこれからのキーワードだと思ってるんだよね。それも多様性を認めることのひとつだなって。

太田:生き残る連帯のために、マウンティングやめましょう、みたいな。

小野:男の方もそうなり始める気がする。「社会の中でバリエーションあって当たり前だよね」っていう価値観は、同性間だろうと異性間だろうと、マイノリティだろうとマジョリティであろうとこれから必要だよね。

■自分のマイノリティ性を口にできる社会の方が生きやすい

小野:ちょっと尾籠な話ばかりで恐縮なんですけど、この前「ポケモンのルギアでマスターベーションしてた」っていう記事がバズったの知ってる?

(参考記事:ルギアをオカズに抜き続けて人間の道を踏み外しかけたが、友達のおかげで助かった話

太田:あー知ってる、これ。

小野:あれを例に出すとさ、みんなちっちゃいマイノリティ性みたいなのを内側に抱えてるわけじゃん。普通に生きて普通に働いてる人でも、家帰ったらルギアでマスターベーションしてるかもしれないっていう……すみません女性向け媒体なのにこんな尾籠な話ばっかりしちゃって。

太田:対義語くらいだよね『DRESS』と「マスターベーション」……。

小野:話を戻すと、どんな人にもマイノリティ的な要素はある。
ルギアでマスターベーションしてても糾弾されないのは、単純にこれまでの社会、つまり「一夫一妻で子どもを産んで、自分たちで育てろよ」っていう制度の中では、かろうじて都合が悪くなかったから。だけど、同性愛はその制度にマッチしてないってことにされていたからこれまで差別されていた。

でも、これからの時代は違う。

制度が現状に合ってない。東大の障害者の自立支援研究の熊谷慎一郎先生が言ってたけど、「人間が制度に合わせるのではなくて、制度が人間に合わせろよ!」と声を上げて言うのは重要だよね。日本人って奥ゆかしいから言えないけど……。

太田:本当そうなんだよね。日本人の同性愛に対する寛容度って、30代までなら、実は今アメリカより高いんだけど、セクシュアルマイノリティが「少数派」として扱われるだけであって、「危険因子」とは扱われない時代に生きれてて、幸せだなって思うよ。

小野:自分のマイノリティ性について、口に出して言える世の中になるかどうかは生きやすさを測る上で重要だと思うんだよ。
女性の中でも妊娠・出産したいって人ばっかりじゃない。結婚しないって人だっていっぱいいるだろうし、既存のキャリアコースから外れた生き方をする人なんてたくさんいる。男性の中にだってたくさん稼いで成功しなきゃいけないっていう、従来の男性像から外れたいと思っている人はたくさんいるはず。

太田:そうだね。僕はゲイってオープンにしてるわけだけど、それだけでみんな、言いづらかった本音を打ち明けてくれる利点があるなと日々実感してる。そんなことが起きるとは予測もしてなかったけど。多分、男とか女とか、何かの属性にとらわれずに本音で喋りたい、っていう熱がそれだけ強いんだよ。

小野:当事者からどう思われるかわからないけど、ちょっと外れてる存在の方が喋りやすいし「男来た!」「女来た!」ってならずに、立場を超えて話せるっていうのはあるよね。

日本って本来はマイノリティを必要とする社会的文化的な土壌があったんだよ。「有縁」と「無縁」の世界があって、有縁の世界は社会一般の制度がまかり通る世界。無縁は、その地域社会に馴染まずに、各地域を回遊して暮らす人々。
でもそういう人々は、各地域をつないで、立場にとらわれず人と関わって文化を伝承する「ネットワーカー」の役割があった。マイノリティが自分の無縁性を認めずに、有縁の世界にガチガチに自分を縛り付けてしまうと息苦しい。けど振り切れてしまえば腐れ縁から解き放たれてラクになるし、他人をラクにもできる。一旦外れちゃったら生きやすくなると思うよ。そこから外れきるまでの同調圧力は凄まじいけど。

太田:うーん、まあ、僕は「結局外側かよ」って思う気持ちもあるけど。

小野:それはマイノリティの当事者に限ったことではなくて、いわゆる「フツー」に暮らしている人も、本来は無縁の世界に属する自分を持っているはず。それを許すことで人と関わりやすくなったり、生きづらさが解消するというのはあるんじゃないかな。
マイノリティとマジョリティの境目がなくなって、マイノリティだったりマジョリティだったり、常に境界は揺らぐ。人生のフェーズによっても。それでいいんだって思ってる方が生きやすいと思う。


Text・構成/小野美由紀
写真/小林航平

やる気あり美

http://yaruki-arimi.com/

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