「いい」「悪い」で評価されたくてカミングアウトなんかしない【ゲイとノンケ女子の、今夜は本音でしゃべりたい#3】
例えば、身近な人から「ゲイ」や「レズビアン」をカミングアウトされたとき、あなただったらどうしますか?
【ゲイとノンケ女子の、今夜は本音でしゃべりたい】の目次
・第一回:男より女より、本音が重要じゃない?
・第二回:ポリコレの時代、「誰も傷つけない」表現は可能なの?
・第三回:「いい」も「悪い」も言わなくていいからただ相手の話を聞いて欲しい
■「ゲイ」とか「レズビアン」をひとまとめにしすぎると誤解も生む
太田尚樹(以下、太田):美由紀が最初にLGBTsアライになったきっかけって何?
小野 美由紀(以下、小野):私は、3年前くらいかな、仲良くしていた友達に突然レズビアンですってカムアされて。それまでは知識として持ってはいたし、差別する気持ちもなかったけど、現実に知り合いはいなかったから、実際にカムアされた時には一瞬ポカーンとして、どう反応していいかわからなくて。
めっちゃ焦って目ぇ泳がせて「いいねいいね」とか言って(笑)。"何がいいねん"って自分でも思いながら……。あり美の「カムアされた時の愛しのノンケたち」みたいな。
太田:ああいうね(笑)。「いいじゃん! いいじゃん!」っていう。
小野:いっつも思うんだけど、人ってカムアされたり、一般的でない価値観を打ち明けられたときになんで「いいんじゃん」って言ってしまうんだろうね。
太田:言うね。
DRESS編集部 小林:息を吐くように言ってしまいますね。
小野:例えば、私は子どもが欲しいと思わないんだけど、それを既婚者の同世代の男子に言うと高確率で「あー、いいんじゃんいいんじゃん、子どもを持つことだけが幸せじゃないと思うよ……俺は作ったけど」とか言われる。「うるせぇな! 知るかよ!……知ってるよ!」みたいな。
太田:「知ってるよ」(笑)。「知ってるから言ってるんですけど!?」っていうね。
小野:そうそう(笑)。
太田:思うに、人は悩みを打ち明けられた時に「名言BOT化」しやすい。なんかいいこと言わなきゃって過剰に思ってしまって、「俺は男とか女とか関係ないと思ってる」みたいなうわ滑ったことを語ってしまうっていう……自分もそういう経験がたくさんあるから気をつけてるけど。
小野:これ、差別とか関係なく取扱注意案件だからね。女の妊娠・出産の話とかになると絶対出てくる……。
で、それ以降、ポツポツ身近な人間の中でカムアしてくれる人が現れ始めて、今ではごく普通に身近にいるからなんとも思わないんだけど、最初はやっぱりテンパってしまったんだよね。
DRESS編集部 小林:読者の中にも、実際にLGBTsの方々と接したときにどう振る舞っていいかわからないという人が多くいると思います。私たちはどのようにして彼らに対する知識を深めていけばいいのでしょうか?
太田:うーん、僕はLGBTsに対する事前知識はそんなに重要じゃないと思うんだよね、ちゃんと相手と対話する気があれば。セクシュアリティにまつわることって本当に千差万別で。男だからこうだよね、って言われたとき「たしかに」って思うところと「違うよ」って思うところって両面ありますよね。
それと一緒で、ゲイってこうだよねって言われたとき「たしかに」って思う部分と「それ全然僕は違うし、まとめてんじゃねーよ」って思うこともある。だから「これを知っとけばばっちり!」みたいなLGBTsに関することってない。「ゲイ」とか「レズビアン」をひとまとめにしすぎると誤解も生むし。
例えば「ゲイです」って言った瞬間に、女の子に「えー! ずっとゲイの友だちほしかったのー! 相談のって!」って言われたりする(笑)。
小野:まじ⁉
太田:うん。ゲイは女性の気持ちがわかるって思われてるんじゃない(笑)?
それで「いいよ!」とか言っちゃうんだけど、でもそれは僕の対人スキルの問題であって、すべてのゲイがそうじゃないから(笑)。
小野:そりゃそうだよね。
太田:だから「ゲイなんだー相談のってよ!」って言われたときとかは、冗談っぽく「いいけど、ゲイだから相談乗るの上手いってわけじゃないからね? 女だから髪マキマキ、とかじゃないでしょ?」とか言って、やんわり伝えてる(笑)。
小野:そうだよね(笑)。当たり前だけど、「日本人ってこうですよね」って言ってもいろんな人がいて一般論化できないように、ゲイだからこうだよねっていうのもまた偏見だよね。性的マイノリティって一口に言っても、細分化すると本当に一人ひとり違う。そういう言葉でまとめること自体が暴力的だと思う。
太田:そうだね、「ゲイだからこうだよね」みたいなくくりはもはや無意味だし、くくろうとすると溢れる。
小野:太田自身はカムアしたとき相手にどうしてほしい?
太田:僕の希望としては、もしカミングアウトされたら、いいも悪いも言わなくていいから、相手に興味を持って聞いてくれたらいいなと思うよ。
例えば「いつ気付いたんですか?」とか「なんで私に言ってくれたんですか?」とか「聞いていいんだったら、今好きな方とかいるんですか?」とか、素直なその人との距離感の中で聞けることを聞いてくれたらいいんじゃないかな? と思うよ。
小野:そうだね。「マイノリティ」の枠組みに無理に収めてしまわずに、目の前の人を等身大の人間として見て、1対1での関係の中でその人自身に対する理解を深められたら、それでいいんだろうね。
■結婚のバリエーションが増えると当事者以外も楽になる
小野:今回やる気あり美の同性パートナーシップ制度2周年の記念ミュージックビデオが公開されたんだよね。
太田:そう。このMVを見てもらえればわかるけど。
太田:「申請書書いて出して、審査待って通ってやったー」「抱き合って喜んで、とりあえず写メ撮って、今日だけはデパ地下で爆買い! 友達とホムパ開いて楽しい!」みたいな、ささやかだけど最高な、ふたりの幸せを前面に押し出した内容になっていて。
小野:結婚とか、パートナーになった喜びって、それを聞くとLGBTsだろうと何だろうと変わらないっていうのを感じるね。性的マイノリティじゃなくても、共感できる歌詞。
太田:もちろんまだパートナーシップ制度には賛否両論あったり、法的効力がそんなにない制度だから、実際僕の周りでは「あれって意味あんの?」みたいな煙たがる空気があったりするんだけど。「愛し合うふたりがパートナーって認められるって、嬉しいじゃん!」って僕らは思うし、言い切りたい。
小野:そんな人もやっぱりいるんだね。
太田:うん。LGBTsって、これまで社会からさんざん異質な存在として扱われてきて、その荒波に負けないよう、一生懸命自分の足で立ってきたっていう感覚の当事者もたくさんいるし、そういう人からすると、縁遠く思えたり、リアリティのない制度だったりするんだと思う。だからやる気あり美としては彼らに「パートナーシップ制度って、あなたの悩みが解決しますよ!」なんて言うのはおこがましいにもほどがあると思っているし、それはしたくない。けど「申請するときっと、こんな風に幸せなんじゃないかな」という提案はしたいと思った。パートナーシップ制度によって、どんなシステムチェンジが起きたか、ではなくて、どんな幸せなストーリーがあり得るかを表現したかったんだよね。
小野:私は結婚というもののバリエーションが増えることそのものが嬉しいけど。本来、人と人の結びつき方は自由でよいはずなのに、ひとつの形が「制度」として構築されるからこそ権力を持つわけで、それから外れた人がなんとなく生きづらいとか、後ろめたいとか、そういう気持ちになりやすいと思うんだけど、同性のパートナーシップが社会的に認知されることで、結婚しない人の居場所も同時に増えたんじゃない? みたいな気がする。
太田:そう感じてもらえるのは、僕としては嬉しいわ。美由紀の感覚では、LGBTsが少しでも生きやすい社会になることは、本当に自分の生きやすさと直結してるんだね。
小野:うん、少し肩の荷が下りたっていうか、男女1対1の、これまで普通とされてきた生き方以外もOK! って言われたような気がするのね。
太田:なるほどね。
小野:同性同士のパートナーシップが認められたってことは「家族のあり方ってのは多様でいいんだ」っていう認識の後押しになる気がするから、私は嬉しい。
同性婚自体への意識は、この2年で変わったの?
太田:国全体で合法化するには時間がかかりそうに感じるけど、結婚式ということになると確実に組数は増えてるし、それに対する当事者の心象も変わってきてると思う。2年前とかは、僕たちのまわりでも、結婚式やるっていうと「えー恥ずかしくない?」みたいな感じだったけど、素敵な事例が周りで増えてきて、「小さくでもやりたい」とか、こんな式にしたいっていう話は増えてるね。
小野:2年でそんなに変わるんだ!
太田:変わった変わった。
小野:制度の存在ひとつでも、雰囲気やムードを変える力があるってことだよね。
太田:うん、もちろんこの制度ひとつで変わったわけじゃなくて、いろんな先輩方の粘り強い活動があってこそだけど、本当にムードって変わっていくし、変えていけるんだなってのを実感できているのは幸せだわ。
Text・構成/小野美由紀
写真/小林航平
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