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ひとの結婚は分からない

あなたの結婚とパートナーにとっての結婚は違うもの。違う脳みそだから。パートナーが結婚をどう持っているかすら分からないのに、他人の結婚をあれこれ詮索するのはやめてほしい。

ひとの結婚は分からない

 他人の結婚に、何か言いたい人は多い。

 ワイドショーを見ては、自分の人生とは何一つ関係がないにも関わらず、あのタレントの打算づくの結婚は許せないなどと言って盛り上がる。
 相手は有名人に限らない。友人の結婚でさえ「妥協した」「どうせうまくいかない」などと値踏みする。

 しかしそれはあなたの結婚ではないのだから、実際はどうなのかなんて、分かるはずがないだろう。
 そう、分からないから勝手なことが言えるのだ。

 自分の結婚は正解だったのか?「これじゃなかったかもしれない」という不安から自由な人はいない。だから思わず「あれよりまし」「あっちはニセモノ」なんて言いたくなるときもある。それでしか乗り切れないときもあるだろう。

 けれどやはり、浅はかな詮索は慎むべきだ。自分の結婚と、他人の結婚は違う。当人にしか分からない事情を勝手に想像して、ひとの人生に○×をつけて溜飲を下げるなんて惨めだ。

 うわさ話に限らない。たとえ近い間柄でも、体験は個別のものだ。あなたの結婚と、あなたのパートナーにとっての結婚は、違うものなのである。脳みそが違うのだから。

 すごく下らない理由で、結婚を後悔することがある。ちょっとした難読漢字が読めなかったり、高校で習った知識があやふやだったりすることは私にだってあるのに、夫がそうであるのを発見すると「ああ、いかにも部活ばっかりやってた男!」と幻滅し、青春を勉学に捧げたカシコイ君と結婚していれば、などと夢想する。

 しかしカシコイ君は賢いので、私のような女ではなく、ものわかりのいい女を選ぶだろう。まさにそういう要領の良さに思わず「けっ、つまんねえ男」と言いたくなる性分の私とは、絶対に関わろうとしない。

 そもそももしも私が男だったら、私のような女はイヤだ。気性が荒くてとにかく万人向けの妻仕様になっていない。
 にも拘らず、夫は結婚したのである。一体何を見てそう決断したのか未だに理解できない。

 付き合い始めてすぐの頃、電波が切れやすかった当時の携帯電話に腹を立てて思わず路上にぶん投げた私を見て、いかん、この人についていてやらなくてはと思ったのだそうだ。私だったら、そんな短気で行儀の悪い人物と交際するのはごめんだ。まして結婚はあり得ない。
  
 彼と結婚してから、確かに私にとって世界は生きやすい場所になった。誰かに受け入れられるということを初めて知った。それはとても豊かで、幸福なことだ。しかし、私にとってありがたい結婚は、彼にとっては我慢の結婚かもしれないぞ。いやきっとそうに違いない。

 そこで「ほんとのことを言って」などと絡んでみる。携帯を地面にぶん投げたり言いがかりをつけて絡んだりすることは、私にとっては一度でもされたら絶縁レベルの行為なのだが、夫にとっては「直して欲しいなあ」という程度のことだと言う。本当か?私、配偶者がそんなことしたら絶対にムリなんですけど。

  この人、とても気だてがいいか、あるいは完璧な嘘つきなのかも。
 私は夫の顔をまじまじと見て、初めて会ったかのような気持ちになる。
 彼にとって私との結婚が一体どのようなものなのか、結局私には皆目分からないのであった。

  
 

小島 慶子

タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族と暮らすオーストラリアと仕事のある日本を往復する生活。小説『わたしの神様』が文庫化。3人の働く女たち。人気者も、デキる女も、幸せママも、女であることすら、目指せば全部しんどくなる...

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