女を磨く離婚道 #7 私を幸せにできるのは私だけ 

女を磨く離婚道 #7 私を幸せにできるのは私だけ 

一般的に、離婚=不幸な出来事だと受け止められる。でも、どれだけ努力をしようと、夫婦の関係が修復できないとき、結婚生活を手放すのもひとつの選択肢となる。離婚は「自分のための人生をもう一度掴み直すチャンスになった」と語る杉山早さんに寄稿いただきました。


「今月中に私が家を出ます」

そう約束をした月の最後の日、やっと眠った娘の寝顔を眺めていた。

「ごめんね」

思わずつぶやいて、悲しみと罪悪感から逃げるように、意を決して2年間結婚生活を送った家を出た。眠っている夫と、1歳の娘を残して。

外に出るとどうしようもなく涙があふれてきて、止まらなくなった。

1人で住むために借りた部屋は、前の家から歩いて5分。それなのに、向かう道のりはやたらと長く感じる。井の頭通りの坂道を、しゃくりあげて泣きながら歩いた。

翌日は2回目の結婚記念日だった。2年前はあんなに幸せに笑っていたのに、こんなふうに見事に決裂するものなのだなと思うと、結婚式の「誓います」という言葉の、なんと信用ならないことだろう。

それから約4ヶ月後、私は離婚した。

多くの破局した夫婦がそうであるように、はっきりとこれが理由で離婚した、というものがあるわけではない。ちょっとしたことから少しずつ歯車がずれていって、いつしかまったく噛み合わなくなってしまった。それでもその最初のずれのきっかけが何かを探すとしたら、それは私自身が妻である自分も、母である自分も、きちんと受け入れることができなかったことだと思う。

■私自身の人生を諦めたくない、と気づいた

家を出てから離婚までの別居期間中、それまでほとんど私がみていた娘の面倒をそれぞれの家で週の半分ずつみることになっていた。出産してから今まで生活のほぼすべてだった育児が半分に減った結果、急にぽっかりと1人の時間ができた。その空白を埋めるように、私は毎日がむしゃらに働いた。

仕事をしている間だけは、誰かの役に立っているという実感があり、ボロボロに傷ついた自尊心をなんとか保つことができた。
自分にとっての幸せってなんだろう? 以前よりずっと狭くなった1DKの部屋にこもってひたすら考えた。すると日に日に自分の本当の願望がはっきりとしてきた。

“もっと、仕事がしたい。”

私は、私自身の人生を諦められなかった。

結婚と同時にドレスデザイナーとして独立をし、さあこれからというときに予想外の妊娠がわかった。つわりで吐きながら働き、陣痛が始まるその日も働き、出産をしても入院していた産院に仕事道具を持ってきてもらって、翌日から夜な夜な働いた。

2年間ずっと、仕事も、結婚生活も、子育ても、すべてをやってみせようと必死に努力したつもりだった。

だけどそれにはやっぱり限界があって、あるとき張り詰めていた糸がプツッと切れてしまった。完全にキャパオーバーだった私は、一緒に暮らす家族に気持ちを割くというあたりまえのこともできないくらい、とにかく余裕がなかった。気づいたら、夫婦の関係はもうどうしようもなくなっていた。

■親権を手放したのは、娘の未来の幸せを祈りたいから

離婚、という現実が目の前に迫ったとき、この先娘をどう育てていくのか、悩みに悩んだ。

シングルマザーとして娘を立派に育て上げる自信は、正直なかった。私の仕事は不安定な自営業。経済的な不安がなくなることはない。まだまだ実績と言えるものもなかった。

結婚して子どもを持ったのに、自分のやりたいことが最優先だなんて、無責任だと責められても仕方がない。愛する人のために生きることが幸せなのだと思えない自分が情けなく、心底失望もした。自分のすべてを犠牲にしてでも子どものために尽くすことが母親として当然ならば、それができない私は母親失格なのかもしれない。

だけど、私が立派な母親であるかどうかより、娘が満足な生活をして幸せに成長することの方がきっとずっと大切だ。彼女の未来のためには、夫がそれを望んでいるのならなおさら、彼に娘を託すことがベストなのだと思った。

そうして娘の親権を夫が持つことを決めて、娘と会うのは半分からさらに減り、限られた日だけになった。

■結婚も離婚も経験してきたから今の私がいる

夫の戸籍から抜けたとき、旧姓に戻り、この結婚をなかったことのように人生を仕切り直すこともできたと思う。けれども私はそのままの名前を名乗り続けることにして、自分1人だけの新しい戸籍を作った。

名前を変える手続きが面倒くさかったり、今の名前の響きを気に入っているというのも理由の一つではある。でも、それよりも、この経験をただの失敗として忘れようとするのではなく、糧にして前に進みたいと思ったのだ。この結婚は私にとって、上手くいかなかった思い出にしておくのはもったいないくらい、多くを与えてくれたものでもあったから。

2年前のあのタイミングで夫と結婚していなければ、独立して自分の仕事を作ることの楽しさも面白さも知らなかった。娘を授からなければ、母としての幸せな時間を過ごすこともなかった。出産を機に始めたブログを通して得た出会いがつながって、今こうやって文章を書かせてもらったりもしている。今の毎日を取り巻く環境や人間関係は、結婚する前に想像していたものとは全然違うものになった。それらは、最初から1人で生きていたら絶対に出会わなかったものたちばかりだ。

結婚して新しい名字で暮らし、離婚するまでの2年という時間は確実に私を変えて、もはや昔の名前はしっくりこなくなってしまっていた。最初の理想とは全然違っているけれど、そうして生まれ変わった自分を、なかなか気に入っている。

それに、戸籍上は家族ではなくなった娘との唯一のつながりがこの名字だ。離れて暮らすことになっても、せめて名前くらいはお母さんのままでいさせてほしい。

離婚届を出したあの日、私はこの名前と過去と共に、これからを1人で生きていく覚悟を決めたのだ。

■手放すことは、自分の人生を掴み直すチャンス

泣きながら家を出た、あの夜からおよそ1年。

端的に言うと、今の私は結構、いやかなり幸せだ。
もちろん苦しくてつらい時期はあったけれど、そんな記憶は幸せな時間を積み重ねることで確実に薄れていくものらしい。

離婚というのは、一般的には不幸な出来事だし、しないで済むならそれに越したことはない。けれども、どれだけ努力をしてもそれが避けられないとき、ぐちゃぐちゃにこんがらがってしまった関係を手放すことは、自分のための人生をもう一度掴み直すチャンスとなる。

だからもしも結婚で失敗しても、うまく誰かと一緒に生きられなかった自分を責めすぎないようにしてほしい。人生にはそういうこともあるのだと、ただ受け止めて、反省すべきところは反省し、一歩ずつでも前進できればそれでいい。

一時は立ち直れないくらい傷ついて人を信じられなくなるかもしれない。世間のネガティブな声に負けそうになるかもしれない。自分の中の罪悪感に耐えられず、苦しむこともあるかもしれない。だけど、そういったものを真正面から受け止めたところで、誰も自分を幸せにはしてくれない。

それならば、何よりも自分がやりたいことをして、全力で笑って、どうなるかわからない可能性に満ちたまだ見ぬ明日を、しっかりと楽しめる自分でいよう。離婚して、1人になった私を幸せにできるのは、私1人だけなのだから。


Text=杉山早
社交ダンスドレスデザイナー、ブロガー。学生時代に始めたドレス製作ブログがきっかけとなり、2013年に独立、自身のブランドSOL DECEM(ソルデケム)をスタート。ダンサーのためのオーダーメイドドレスのデザイン、製作に従事。自身も現役で競技会に出場する競技ダンサー。本業の傍ら、ニュースアプリを提供するIT企業のアシスタントや、個人のブログ・noteでの執筆活動など、幅広く活動中。


この記事のライター

人生を自分らしく楽しむ大人の女性たちに、多様な生き方や選択肢を提案します。

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