【前を向いて生きるということ #4】ビジネスプランコンテストに参加。見えてきた課題は?
30代半ばの働き盛りのときに、胆管がん(ステージ4)の宣告を受けた西口洋平さん。仕事と家庭を大事にしながら、自身と同じ「子どもを持つがん患者」をサポートするWebサービス「キャンサーペアレンツ」を立ち上げました。「今、できること」と向き合い、行動する西口さんの不定期連載をお届けします。今回は第4回です。
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仕事に復帰してしばらくは、とにかく食事に気をつけて、体に悪いものは摂らないということを、徹底していた。ほぼ毎日お弁当を食べ、野菜中心の食生活を送り、食後には青汁を飲み、しいたけエキスを飲み、そして、お肉とお酒は控えていた。あ、牛乳も。
「ステージ4のがん」という深刻な病気とは裏腹に、体は軽いし、仕事もできるし。治療にも慣れてきたころには、少し余裕も出てきて、食べたいものを食べたいし、飲みたいものを飲みたいと思うように。最初は隠れてちょびちょび、という感じだったが、「何に隠れているんだ?」という気持ちになり、夏の終わりごろからは、お肉も食べるし、お酒も飲むようになった。ただし、ほどほどに。
そういったタイミングでのビジネスコンテンストへのチャレンジで、気持ちも前を向いていた。
■1次選考突破、でも壁にぶち当たる
最初は、一がん患者として感じた「不」とは何かを考えるところからスタート。もちろん、がんという病気を取り巻く様々な環境や社会的な問題などは、まったくの無知であったわけで。まさしく、自身の想いだけでの出発となった。1次選考は書類審査のみ。ビジネスの中身よりも、想いを重視します、みたいな感じだったので、言葉通り想いをだけをのせて提出し、無事に通過。1次選考通過者は、数回に分けて研修に参加し、ビジネスプランをブラッシュアップさせ、最終審査にチャレンジするというもの。ここからが本当のはじまりとなる。まあ、甘く考えていたところがあったわけで、大きな壁にぶち当たった。
仕事の合間を見つけて研修に参加し、新しいビジネスを立ち上げることの意味やそこでの自身の成長、本当のニーズとは何か、ビジネスとは何かなど、様々な観点から知識や考え方、心構えを学ぶ。そして、参加者同士の交流はもちろん、お互いのビジネスに対する指摘やアドバイスなどは、研修ごとに行われ、その都度、へこまされてしまう。いや、へこまされるのではなく、自身のできなさ加減に、勝手にへこんでいたんだと思う。
■声を聞いて真のニーズを導き出そう――課題が見えてきた
まだビジネスアイデアが固まらない中、2016年の年初に最初のプレゼンタイムが設けられる。参加者同士で発表し合うだけではあるものの、もちろん緊張する。ビジネスを真面目に考えている、志が同じ人たちからフィードバックをもらえる非常に良い機会だ。でも、ぼくはその日、抗がん剤の治療のため病院だったため、友人にお任せすることに。本音としては、なんとしてでも参加したかったが、年明け早々で治療の日をズラすことができなかった。プレゼン内容と指摘や質問などをすべて録音し、あとで音声データを送ってくれることになっていたので、左腕に点滴を打ち、汗ばんだ右手でスマホを握りしめるという感じ。担当の看護師さんにもその緊張が伝わってしまい、リラックスしてくださいと声をかけられる始末だった。
最初の連絡はLINEでのメッセージ。「終わった」「良かった」と。簡単すぎて、今ひとつ状況をつかめずにいた。その後、音声データが届くものの、うまく再生できずイライラ。看護師さんの言葉がまた頭をよぎる。次のメールでなんとか再生でき、内容を聞く。プレゼンが終わり、指摘をもらえる時間に。ここで耳はダンボになる。そういうときに限って、点滴の交換になったりするわけで。質問やアドバイスをする人はたくさんいた。そして、考えなくてはいけない問題もたくさん出てきた。そう、大きな収穫があったのだ。その最たるものは、いろいろな立場や状況の人の声を聞き、声を聞き、声を聞き、とにかく声を聞き、本当のニーズは何なのか? を深堀りすることであった。
この日を境にし、ぼくらはいろんな場所に顔を出し、話を聞き、新たな人を紹介してもらっては話を聞く、を繰り返した。そこで感じたのは、いくら調べても出てこない情報が、足を使えば得られるということだった。そして、そういった会話の中から、当初とはまた違う感情がぼくの中に生まれてくるのであった。
(つづく)
Text=西口洋平
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