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【前を向いて生きるということ #3】ビジネスを創ったことのないぼくが「キャンサーペアレンツ」を創ろうと決めた理由

30代半ばの働き盛りのときに、胆管がん(ステージ4)の宣告を受けた西口洋平さん。仕事と家庭を大事にしながら、自身と同じ「子どもを持つがん患者」をサポートするWebサービス「キャンサーペアレンツ」を立ち上げ、普及させる取り組みを行っています。「今、できること」と向き合い、行動する西口さんの不定期連載をお届けします。

【前を向いて生きるということ #3】ビジネスを創ったことのないぼくが「キャンサーペアレンツ」を創ろうと決めた理由


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いよいよ職場に復帰するぞ、というタイミングでの肺炎で、ちょっと手こずった感はあったが、なんとかその日を迎えることができた。職場の同僚のはからいで、復帰前日のタイミングでチームメンバーとのランチ会が設けられた。休んでいた2ヶ月半の話に花が咲くけれど、ぼくの病状についても話をしないといけない。今でも覚えている。中華料理。まわるテーブル。ぼくは、テーブルでふざけていた。ふざけながら、どう話すか考えていた。うまくまとまらなかったので、笑顔で話した。

■復帰前日、事実を明るく口にした

「まぁ、がんなんです。胆管というところの。治療もあるので、休むこともあります。来週から復帰するので、よろしくお願いします」と。そのほか、細かいことはあまり伝えなかった。みんな同世代なので、がんに対する知識もなく、ぽかーんとしていたものの、笑顔で言っているし、目の前にいる西口は元気そうだし、なんか大丈夫そう。と思ってくれたはず。ある同僚からは、麻婆豆腐を口にしたまま、「え、大丈夫なんですよね?」と質問され、「大丈夫!」と答えた。病気の話もほどほどに、その場を後にした。気持ちはすごくラクになった。

復帰初日は、さすがに緊張した。久しぶりのスーツで、ご近所さんにもスーツ姿を最近は見せてなかったし、周りの目線は気になる。久しぶりの通勤電車。もちろん満員だから、押されたら手術後のところ大丈夫かな、とか考えたり。会社に着いても、すれ違う同僚が、「あ、どうも」みたいな感じで、こちらもどう接すればいいのかわからず、「お、おう」みたいなぎこちなさ。また、この期間に、ずっと吸っていたタバコをやめたので、タバコミュニケーション(タバコ部屋で繰り広げられる雑談)もなくなり、ちょっとした寂しさもあり。吸わないのにタバコ部屋にいって、話をしたり。タバコをやめた理由を問われ、入院したから、と答えると、どんな病気かと聞かれ、もごもごしてみたり。最初はこんな感じだった。

■「がんになって困ったことはなかった?」友人の問いかけで挑戦しようと決めた

当初、自分ががんという病気であることを伝えていたのは、同じチームのメンバーと、人事、その他もろもろの関係者のみ。それを知らない人は「ずっと休んでいたけど、大丈夫かな」「帰るの、早くなったな」「なんか、復帰しても休む日が多いな」と思っただろう。週に1回の抗がん剤治療で、すぐに有給がなくなるので、毎月のように人事からは、「今月のお休みは無給になりますが、大丈夫ですか?」みたいな確認メールがくるものの、イライラせずに、「大丈夫ですよ」と返す。そんな、気持ち悪くはないが、ちょっとしたすれ違い的なコミュニケーションが、翌年4月にカミングアウトするまで続くことになる。このころは普段の生活に戻り、何気ない日常を取り戻し、治療に耐えうる体力をつけ、仕事を無理なく効率的にできるように。そんなことだけを考えていたこともあり、今の活動をすることなんて、まったく考えていなかった。

きっかけは突然やってくるものである。4月末の復帰から、もう普段の生活に戻っていた11月ごろ。あるIT企業に勤める高校時代の友人からLINEがきた。内容は、自分が勤めている会社でビジネスコンテストがあるから出てみないか?というものだった。テーマは、医療やヘルスケア。彼の脳裏にふと、ぼくが浮かんだらしい。でも、ぼくはビジネスを創ったこともなければ、今のこのタイミングでそんなことを考えたこともなかった。彼はこう続けた。「がんになって、何か困ったことはなかったか」。この問いに対して、大きく思うところがあった。周りにまったく同じ病気の人がいない。誰にも相談できない。結構、孤独な闘いをしている。でも、絶対にいる同世代のがん患者。どうしているのか。同じように思っているのか。悩んでいるのか。それが今の「キャンサーペアレンツ」のスタートであった。

(つづく)

Text=西口洋平

1979年大阪生まれの36歳。神戸商科大学(現:兵庫県立大学)卒業。一児(7歳)の父であり、両親も健在。
2015年のはじめ、ステージ4の胆管がんであると告知され、そのときに強烈に感じた孤独感。仲間がいない。話し相手がいない。同じ境遇の人が周りにいない。それなら自分でやってやろうと、ピア(仲間)サポートのWebサービス「キャンサーペアレンツ」を2016年4月に立ち上げる。
現在も抗がん剤による治療を続けながら、仕事と並行して、精力的にこの活動を続けている。

■キャンサーペアレンツ:http://www.cancer-parents.com
※Twitter:@cancer_parents
※Facebook:https://www.facebook.com/cancerparentscom

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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