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「最近映画流行ってる!」という笑い話にみる夫婦の趣味の不一致問題

映画好きな夫、漫画好きな兎村彩野さん。でも、いつの間にか、映画は「夫婦の趣味」になっていた――。お互い異なる趣味への楽しい関わり方、提案します。

「最近映画流行ってる!」という笑い話にみる夫婦の趣味の不一致問題

私は夫と出会うまで、映画はもっぱらアニメ専門でした。家でDVDやBlu-rayで観ることが多く、どうしても観たいエヴァンゲリオンや新海監督モノ、スタジオ地図モノ以外、映画館へ行くという習慣がありませんでした。人間が出演する映画がどう面白いのかいまいちよくわからず、興味もあまりなかったのです。

夫の趣味は【映画鑑賞】と【レコード】です。私の趣味は【漫画】と【器(うつわ)】です。私たちは仲良しですが、好きな物や趣味は意外とバラバラです。

お付き合いしていたときから「自分の知らない世界を共有するとコスパが良いね!」と話していました。

夫は私の漫画を読むようになり、台所の器のセレクトはすべて私に任せてくれて、料理したら自由に使ってくれます。気に入ったら「このお皿好きだなぁ」と好みを教えてくれます。

私はアニメだけでなく人間の出演する映画も観るようになりました。映画館は暗くて音が大きくて(私は風船やパーティークラッカーなど突発的に大きな音が出る物が苦手です)怖く少し苦手でしたが、何度か通っているうちに慣れたようで2時間くらいは緊張しないで観られるようになりました。

■夫は「映画好きにさせる魔法」を使う

夫は最初の頃、私がアニメや漫画、ゲームが好きなので、それが原作だったりキャラがカッコいいもの、登場人物が多すぎない「わかりやすい映画」を上手く選んで誘ってくれました。このチョイスは大変ありがたかったです。

ポップコーンもジュースも自由に選ばせてくれるし、映画の後は美味しいラーメン屋さんに寄ってお腹いっぱいになって帰れるようにデートコースを組んでくれます。映画の半径5メートルくらい周りにあるモノまで計算して、ガッガリしない仕組みを考えてくれています。しかも、それをドヤ顔をするでもなく、こっそりこっそりと。

決して無理矢理映画を薦めてきません。風と太陽の童話の太陽みたいな人です。私の思い込みが「重たいコート」だとすると、じわじわと温めて脱がして軽やかにしてくれます。

ラーメンとポップコーンはとても魅力的ですし、映画館や映画の楽しさが少しずつわかってくると、3時間ほど携帯をいじらない空っぽの時間が手に入ることに気づき、一気に映画の時間が好きになりました。そして、映画の後のラーメン屋さんで映画の感想を話すのがとても楽しくなりました。

「毎月22日は夫婦の日で映画が安くなるよ」
「レイトショーだとお客さんが少ないから緊張しないんじゃない?」
「こんな映画が公開になるよ」
「ドラえもん観に行こうか!(私がアニメ好きなのでたまに挟んでくる)」
「XXの映画館までドライブしたら帰りお寿司も食べられるね」

日常の何気ない会話に、映画情報をこっそり挟んできます。その挟み方がすごく上手なので聞いているこちらは全くストレスがありません。なので、予定が空いていたり、ちょっと圏外になりたいなという気持ちになると「映画館行きたいな」と言うようになりました。

■人生を変える映画に巡り合ってしまった

そして先月『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』を観た日から人生が変わってしまいます。バットマンにメロメロに惚れ込んでしまい、その日から、ググる! ウィキる! アマゾる! 「私、バットマンになりたい!」と言いながら、バットマンにまつわる作品を調べ始め、映画とキャラクターの世界にどっぷりはまります。まさか自分がこんなにも映画に興味を持つ日が来ると思っていなかったのでなかなか衝撃的体験です。

ある日、寝室で夫がスマートフォンをいじっていたのでのぞき込んだら、そこには「観たい映画」と「これから公開になる映画」と「見終わった映画」がきっちりリストアップされていました。こんなに映画好きなのに、私に気を使って本当はもっといろいろなジャンルを観たいのに、少しずつ誘ってくれていたのか! と感動しました。「これからはもっといろいろな映画を観ようよ」と、ふと声をかけました。

「無理しなくていいよ。観られるものや観たいのからでいいよ。そのうち観れば良いよ。ずっと夫婦だし。時間たくさんあるし」

■インターネット広告が映画だらけに

もう、ズキュンです。なんだそれです。それから私はこっそり映画を自分で調べるようになりました。夫をちょこっとだけ喜ばせたいなと、仕事の合間に映画の公開情報をチェックしたり、いつも行く映画館の上映リストを見たり。

その結果、何が起きたかというと、私のブラウザやSNS、Amazonのアルゴリズム(ユーザーの興味に合わせて表示広告が自動で選ばれるインターネットの仕組みの1つ)が映画ばかり調べるので、映画の公開情報の広告とDVDの発売情報が大量に表示されるように変化してしまったのです。

人生の中で、こんなに映画の広告がたくさん表示されたことなんてありませんでした。もちろんアルゴリズムで広告が変わってしまうことは、理論上はわかっています。それでも、この初体験には本当に驚きました。

Facebookをしていても、Twitterをしていても、Googleで検索していても、新作映画かDVDの発売情報が私の画面に広がります。さらにそこをクリックしてしまうのでアルゴリズムが止まりません。

つい夫に「最近、世の中は映画流行ってるんだよ! すごいよね! いっぱい新作あるのね」と言ってしまいました。夫は大爆笑していて、「あやちゃんが映画に興味持ったから、世界の映画が気になるようになって、いっぱいあるように見えちゃうんだよ。映画はずっと昔からあるし、ずっと流行ってるようなもんだよ(笑)」と。

■互いの趣味を試して起きる化学反応がおもしろい

もうここまで来ると、夫の趣味である映画鑑賞は、夫婦の趣味になりました。多いときは週に1回仕事上がりにレイトショー映画館へ行くようになりました。今までの人生は年に1~2回くらいだったので、随分な変化です。

そんな夫は私がブックオフに漫画を探しに行くとき、誘うと一緒に来てくれるようになりました。私の漫画探しの帰り道はラーメンではなくミスドですが(笑)。

この1年ほどの夫婦の笑い話なのですが、私はこの笑い話が好きで、友人との飲み会でたまに話します。

夫婦で趣味が違うとき、思いきって相手の趣味に参加してみるのは案外面白いことで、もし参加してみて合わなければ、やめればいいだけかなと思っています(実際、夫を私の乗馬に誘ってみましたが、ちょっと苦手らしく一緒にはやりません)。

やらないで否定されると、なんとなくガッカリすることが多いのですが、一度でも良いので興味を持って参加してくれると、それだけでなんだか嬉しい気持ちになります。もしそれが苦手だったとしても、一度は試してくれたんだという事実はガッカリにはなりません。

■「そのうちわかればいいさ」を心に

趣味というのはお金も時間も必要なものが多いので、結婚して夫婦になると、なんとなく共同の暮らしの中で目につく部分になる気がします。そこに興味を持ち共有しようとすると、自分の視野も広がりますし、知らなかった人たちに出会えることもあります。

知らなかった趣味というのは知らなければ知らないほど、興味を持ったときに新しい広い世界が広がります。ぐんぐん広がります。しかも、その最初の先生が人生のパートナーなので、習い事の教室に通って出会える先生とはちょっと違い、自分の専任先生になってくれますし、普段見たことがなかったパートナーのカッコいい姿を見られたりもします。

ちなみに、相手に自分の趣味を伝えるとき、上から目線ではなく、むしろ優しく丁寧に話すと伝わりやすくなります。相手が興味を持ってくれるような切り口を自分の趣味から探す作業は、大好きなモノを見る視点が変わるので、さらに好きになりますし、発見もあります。相手に対して上手に趣味が伝えられるようになれば、その伝える技術は「コミュニケーション能力」なので、仕事や交友関係、そのほかあらゆることに役立つはずです。

嫌いや不平不満は誰に習うわけでもなくスラスラ言葉が出てきやすいのに、自分の「好き」を伝えるというのは意識的に訓練しないと、案外上手に伝えられないモノなのかもしれません。この「好き」の交換は【相手の話を聞く・相手に話をする】の両方のコミュニケーションの訓練が必要です。

趣味が合うから夫婦になる人も多いですが、趣味が逆だからこそ夫婦になってお互いの世界を楽しみ合い、広げていくというスタンスも悪くないモノです。夫の言葉を借りるなら「どうせずっと長く一緒にいるんだし。そのうちわかればいいさ」。

趣味の違いは夫婦喧嘩の種ではなく、相手をもっと知るきっかけにもなりますし、相手に対して上手に好きを伝える練習ができるチャンスタイムです。

兎村彩野さんの記事一覧

兎村彩野

Illustrator / Art Director

1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始する。17歳でフリーランスになる。シンプルな暮らしの絵が得意。愛用の画材はドイツの万年筆「LAMY safari」。

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