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号泣したあの日から学んだこと『ぼくを変えた離婚』#1

連載「女を磨く離婚道」の男性版がスタート。「離婚して良かったと思ったことはない。ただ、あの離婚の経験を経たからこそ、彼女は最後に自分を大人にしてくれたんだと思う」。第1回目では7年の交際を経て結婚したものの、1年で離婚に至った男性が痛みを感じながら、当時の経験を振り返ります。

号泣したあの日から学んだこと『ぼくを変えた離婚』#1

葉桜の季節を迎える度に思い出す。

暖かくなった風が運んでくる春の匂いで、彼女と離婚について話し合ったあの日のことを。いまでも毎年、胸が痛くなる時期だ。

交際期間が7年、そのうち同棲生活が6年10カ月。長い付き合いを経て結婚したのに、たった1年の結婚生活で離婚してしまった。しかも、その1年の結婚生活の半分は、離婚に向けての話し合いや別居生活の期間だった。

離婚しても、自分は何も変わらないと思っていたのに、いざ離婚してみると大きな喪失感に襲われてしまった。順風満帆だった仕事にも大きな躓きがあった。

──こんなはずじゃなかった。

■彼女が20代のうちに、と結婚

高校卒業後、進学のために上京した自分が、学費を稼ぐために選んだバイトで、4歳年上の彼女と出会った。

一度社会人を経験したという彼女は、自分よりずっとずっと大人に感じられて、派手なところはないけれど、誰にでも優しくておとなしい人。こう言うと彼女は喜ばないと思うけれど、「お母さん」みたいな、そんな存在だった。一人暮らしを始めたばかりの自分を、よく気にかけてくれて、付き合って彼女と一緒に暮らし始めるまでにそう時間はかからなかった。

学校とバイトの両立はなかなか大変だ。バイトに時間を費やしていたため、同級生の付き合いはほとんどなく、この学生時代は彼女といる時間が圧倒的に長かった。そんな学生時代を経て、社会人となった3年目の春、「彼女が30歳になる前に」という理由だけで結婚をした。

■朝帰り、合コン……既婚者だけどおかまいなし

仕事は、順調だった。

初めて任された大きなプロジェクトに日々追われるも、充実感が疲れを上回り毎日が楽しかった。仕事の楽しさと、学生時代には味わえなかった社会人としての「デビュー」がやってきて、既婚者にもかかわらず先輩から誘われる合コンにも参加するようになった。

毎晩、というより毎朝酔っ払って帰ってくる。3時間ほど寝てから出社という生活を繰り返した。若さと仕事への責任感でそんな生活は苦にならなかった。

仕事の充実感と遅まきながら「デビュー」してしまった自分。
ずっと一緒にいた彼女からすると、いつのまにか自分が知らない「男性」になっていくように見えたのだろう。たまたま同じバイトに入ってきた世間知らずの僕を弟のように可愛がり、学生から社会人になるまでずっと近くで見てきたわけだから。成人式のスーツを見立ててくれて、ネクタイの結び方も教えてもらった。そんなこともあって、子どもだった自分を育てたという気持ちもあったんだと思う。

■彼女の知らない男になっていた

会社での新しい付き合いから、自分の行動が変わり、それを彼女はよく思わなかったようだ。

「いつのまにか、私の知らないあなたになっていたね」

お酒の飲み方や好みの食べ物、読む雑誌が変わり、ファッションの好みが変わる。その都度、彼女が驚いてどうしたのと聞いてきた。
そんなふうに子ども扱いされることへの不満と、仕事で満たされた自信からか、彼女に対する気持ちが徐々にさめていく。
何度目かの、結論が出ないケンカの後に、離婚したいと思った。

■号泣したのはいつぶりだろうか

「離婚しよう」

結婚してからの彼女が重くなり、離れたくなった。
これまで7年も一緒にいたのに、初めて湧いた感情だった。結婚しても何一つ変わらないと思っていたのに、ほんのちょっとの環境の変化で変わった自分と彼女の思いが合わなくなってしまった。

1カ月の別居期間を経て、彼女は離婚に同意してくれた。その一報を聞いた後、ひとり大声をあげて泣いた。望んでいた離婚なのに、こみ上げてくる感情を整理できないまま、号泣した。大人になってこれだけ泣くのは初めてかもしれない──冷静に思いながらも涙は止まらなかった。

翌日、彼女は戻ってきて、離婚についての手続きを淡々と始めた。離婚の日付は? 家具はどうする? 貯金は? ほとんど彼女の希望を優先した。書類上の離婚と、彼女の引っ越す日が同じになった。彼女が気を使い、平日の日中に引っ越しを終えて出て行った。

お別れの儀式的なものもなく、あっけなく7年の交際と1年の結婚生活は終了した。

■喪失感の穴に落ちた

離婚して彼女が出て行った頃、ちょうどプロジェクトが大詰めを迎えていたときだった。朝出ていったときのままの部屋に夜遅く帰宅すると、より一層、大きな疲れを感じた。そして、誰かいるはずなのにいない、歯抜けになった家具が離婚の現実を突き付ける。

本当に離婚してしまったんだ、と。

いつも心のどこかに彼女がいて、なんとなく体の一部になっていた。離婚をして、その体の一部が大きくえぐり取られた、そんな感覚。自分が思っていた、悠々自適な独身生活とはかけ離れた、深い深いどん底の中だった。

■離婚後に続いた仕事のトラブル

失意のなか、無情にもプロジェクトに大きなアクシデントが発生する。どうしようも手立てがなく、途方に暮れていたころ、上司があっというまに片付けてくれた。単純にプロジェクトを縮小し、迷惑をかけてしまった関係会社に頭を下げてくれたのである。

これまで自分の力だけでやってきた自負があり、こうやって助けてくれるなんて想像もしていなかった。会社には損害を与えてしまったけど、「これも会社のノウハウになるから気にするな」の一言に救われた。他にもたくさんの同僚に助けられ、徐々に充実した生活へと戻っていく感覚を感じていた。

(余談ではあるが、離婚してからまったくモテなくなってしまった。おそらくは心の余裕を見せられず、切羽詰っているように見えたのだと思う)

■自分を大人にしてくれた彼女

それから1年ほど経った頃。
プロジェクトを救ってくれた上司と飲んでいたときに言われた。
「離婚したとき、プロジェクトが失敗したときから、おまえは変わったね、人の痛みがわかる人間になったと思う」
これまで働きながら学校に通っていたこと、仕事も(アクシデントがなければ)自分の力でやってきたこと……その経験で自信を得ていたからか、人に厳しくあたることが多かったけれど、離婚を経験したことで、その態度が変わっていたようだ。

離婚して良かったと思ったことはない。ただ、あの離婚の経験を経たからこそ、
彼女は最後に自分を大人にしてくれたんだと思う。

あのまま離婚しなければどうなっていたんだろう。
仕事も順調だったらどうなっていたんだろう。
25歳で経験したことが、いまにつながっている。
あの出来事、そして彼女に感謝して、今日もこれからも生きていく。

その後、風の噂で彼女が再婚し、子どもをもうけたと聞いて、心からうれしかったことを覚えている。

Text/宮守彰久(仮名)
大手ポータル系からSNS系会社を経て出版社に勤務。現在は再婚し2児の父。

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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