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「やっぱり自分の旧姓が好き」だから、離婚して事実婚する道を選んだ。“姓”をめぐる夫婦の話

ひとことで“夫婦”と言っても、形はそれぞれ。『隣のフーフ』は、インタビューを通じてさまざまな“夫婦・家族観”を考える連載です。第2回となる今回は、離婚の道を選んだのち、再度「事実婚」という形でパートナーシップを結んだおふたりにお話を伺いました。

「やっぱり自分の旧姓が好き」だから、離婚して事実婚する道を選んだ。“姓”をめぐる夫婦の話

一度は夫の姓になったものの、産後、再就職したことをきっかけに「旧姓に戻りたい」と考え始めたという甲田恵美さん(仮名、35歳、会社員)。一方で、夫の酒井光弘さん(仮名、60歳、会社員)のご実家は、代々“姓”を大事にしている家系だったと言います。そんな夫婦が選んだ道とは。そして現在、相手に思うこととは──。(聞き手:大泉りか)

■旧姓に戻るには、「離婚すればいいんだ」と思い至った

――25歳というのはかなりの年の差だと思いますが、おふたりが結婚に至った経緯から教えていただけますか?

酒井光弘さん(以下、光弘):もともと彼女は、私が働いていた会社に入ってきた新入社員だったんです。最初はたまにお酒を飲むくらいの仲だったんですけど、お互いに気持ちがあったのか、付き合うようになり、そのうち一緒に暮らそうかってなって。

「結婚したあともこのまま、夫婦で同じ会社で働き続けるのは……」ということで、彼女には違う仕事を探してもらうことにして、転職先が決まってから籍を入れたという形です。

甲田恵美さん(以下、恵美):なんか認識がずれてるね(笑)。そもそも私は、新入社員として彼と出会って、夏ぐらいにお付き合いを始めたときにはもう、会社自体は辞めたくなっていたんです。年末に彼の家で同棲を始めた時点では辞めることは決めていて、婚姻届を出したタイミングで会社に報告しました。2011年の6月だったかな。

その後は挙式披露宴を11月におこない、2012年の7月末に子どもが産まれた、という順番です。

――結婚するのに、「この人だ!」という瞬間があったと思うんですが、結婚の決め手はなんだったんですか?

恵美:私はもともと結婚願望がなかったんですが、彼にはあるという話を聞いていたんですよね。だから、婚姻制度を使わないままで一緒にいるっていうのが彼にとっては本意じゃないだろうし、余計な不安を与えることにもなりそうだなと。私の方はそこまで強く結婚を拒絶する理由もなかったので……という、消極的な理由です。

――では、光弘さんが、恵美さんに対して「この人だ」と思った決め手は?

光弘:歳も歳でしたし……彼女と付き合い始めたときはもう50歳くらいだったので。もともと「結婚したい」とか「家族を持ちたい」という気持ちはあったんですけど、そのために婚活などをして相手を見つけるというのが、どうも納得できなかったというか。お互いにしっかりと性格を知って、話し合いをして、とステップを踏みたいという理想があったんですが、彼女はそういう過程を意識してくれていたので、これだったら一緒になれるかなと思って結婚しました。

――もともと、社内結婚が多い会社なんでしょうか? 結婚した場合はどちらかが辞めるというのは決まっているんですか。

光弘:社内恋愛はけっこうある会社です。辞めることが決まっているわけではないですが、ほとんどの場合は辞めてますね。女性が辞めることが多いです。

――もっとも、恵美さんの場合は、自分の意思で転職をした。

恵美:そうですね。実は私は、子どもを産むまでの2年半で3社渡り歩いているんです。

――転職してキャリアアップを重ねていく、バイタリティ溢れるタイプですね。

恵美:そうかもしれません。出産の際にまた会社を辞め、子どもが2歳になったときに再就職が決まって、復帰しました。その際に「会社では旧姓の甲田で仕事したい」と面談で話していたので、会社の人たちは私のことを「甲田」だと思っていたんですよね。ただ、給与明細は夫の姓の「酒井」でもらっていて。

で、本当はやっちゃいけないんでしょうけど、私は結婚しても、金融機関やクレジットカードの名義を変えずに旧姓のままにしていたんです。そのせいで一度、給与が名義不一致で振り込まれなかったことがあって。

──なるほど。

恵美:それをきっかけに、名字を旧姓に戻せたらなって考え始めて……。「だったら離婚すればいいんだ」って思い至ったんですよ。それで彼と話し合い、実際に離婚をして今に至ります。現在は住民票を「妻(未届け)」として提出していて、夫とはいわゆる事実婚の関係にある状態です。

■夫の姓でいる間は、“仮の名前”のような気持ちだった

――思い切った行動ですよね。そもそも、カードの名義を変えなかったというのは、旧姓にこだわりがあったからですか?

恵美:そうですね。結婚願望がなかったのも、制度に縛られたくないという気持ちよりは、単純に名前が変わっちゃうのが嫌だっていうのが大きかったです。私の中で姓って変わるものじゃないというか、彼の姓になっても“仮の名前”みたいな気持ちがずっとあって……。

けど、やったことがないことに対して私は絶対にしないって態度をとるのも、抵抗があって。一度姓を変えてみて、「これも好きだわ」と思えたら、徐々に金融機関とかの名義も変えてたと思うんですけど……やっぱり「甲田」が好きで(笑)。

――光弘さんは、恵美さんに「離婚届を出して、事実婚に変えたい」と言われたとき、どうでした?

光弘:やっぱり衝撃でしたよね。うちは代々「酒井」を名乗っていて、その姓で家が繋がっていて、という感覚があって。姓を大切にしている家でずっと育ってきたので、彼女が「酒井」を選んでくれたのは嬉しかったんです。だから、あとになって「姓を戻したい」と聞いたときは「え!」って思いました。ちょっとトーンダウンしてしまったというか、つらかったです。もちろん、夫婦別姓のいいところも認めてますが……。

――光弘さんが思う夫婦別姓のいいところって、どういうところですか?

光弘:彼女が育ってきた「甲田恵美」という、そのままの自分の名前で仕事をできることは、利点じゃないかなと。仮に、結婚する前に私が彼女に「甲田を名乗って」と言われていたら、そこは譲れなかったと思いますし。私の友人には妻側の姓を採用した人もいるんですが、正直、それを聞いたときは「そこまでして結婚するんだ」と思ったんですよ。

……けど、私がそこまで姓に執着があるんだから、彼女もそういうふうに思うのは当然かなと。だから、彼女に酒井でいてほしいという思いを押しつけることはできないなと考えました。もちろん、同じ名字を名乗ってくれたら嬉しいという気持ちはあるんですけども。

――光弘さんは、すぐにそういう結論を出せましたか?

光弘:いやぁ、だいぶ話し合いをしました。「夫婦でどうしても同じ名字でいたいなら、甲田がいい」とも言われて。でもそれはできないし、私にそれができないということは、彼女もできない。耐えて我慢していてくれてたんだろうなって考えて、受け入れました。

――恵美さんは、離婚届を出して旧姓に戻ったときの気分ってどうでした?

恵美:めっちゃうれしかったですね! 免許証に「甲田」って裏書してもらったときに、「これで(私は甲田だと)証明される」と思って。

――事実婚という形に変えたことを聞いて、お互いのご両親の反応はいかがでしたか?

恵美:両親には特に話していないんです。言わなきゃいけない理由がないなと思って。生活は何も変わらないし、名前を変えるためだけにやったことだったので……。離婚届って名前がものものしいですけど、届出をひとつ出しただけっていう感覚なんですよね。そっちにも話してないでしょ?

光弘:うん。

――わざわざ話して荒波を立てることもないと。……では、法律婚から事実婚に変えてよかったことってありますか?

光弘:彼女の気持ちが楽になったのと、仕事でもうまくやっていける、ということですよね。私がよかったことは特にはないですね。

――では、反対に困ったことは?

光弘:名字が一緒のほうが家族の一体感が生まれる、っていうのはあるかなと思います。でも、名前が違うからといって、そんなに困ることもないよなって。子どもが大きくなって、「なんでお前のうちだけ違うんだよ」って言われたらかわいそうだなというのはありますが、「うちのパパとママは、自分の好きな名前を大事にしたんだよ」ってちゃんと周りに言えればいいんですけどね。

――恵美さんは、どうですか?

恵美:離婚届を出す前に、自分や子どもにデメリットがないか弁護士に相談もしたんです。そうしたら、民法上は法律婚と同じ扱いをされるけど、税法上は配偶者とは扱われない、と。だからもしもし夫が亡くなってしまったら、私には夫の財産を相続する権利がないんです。

あと、子どもの親権が私にはない状態なので、たとえばいま住んでいる家が将来的に息子のものになった場合、「出ていってほしい」と言われたら私には住む権利がなくなると(笑)。それで困ることはあるかもね、という話はされました。

──なるほど。そういう仕組み上の問題はあるんですね。

恵美:そうなんですよね……。

■新しい夫婦の形を選んだふたりの、変わりゆく関係

――少し話が戻りますが、そもそも付き合い始めようと言ったのはどちらからだったんですか?

恵美:私からです。

――光弘さんのどこに惹かれたんでしょう。

恵美:顔がタイプだったんです(笑)。「夫婦喧嘩しても顔がタイプだととりあえず許せるから、顔が好きな人と結婚しろ」みたいな話があるじゃないですか。私はそれって真実だと思っています。実際に私も、光弘さんの顔が嫌いだったらもっとムカついてるだろうな、みたいなこともあるので(笑)。

あとは、彼がひとり暮らしをしていたおうちに遊びに行ったときに、ものすごくストイックってわけではないですけど、きちんと生活している人だなと思って。私、生活リズムがめちゃくちゃな家族と暮らしていたんですが、それがきっかけでしょっちゅう揉めていたんです。だから、普通の仕事をして普通の生活をしている光弘さんに安心したのかなって。

――ひとり暮らし歴が長くなって自分の生活が確立してしまうと、人と住むのが億劫だという話をよく聞きます。光弘さんはそのあたり、どうでした?

光弘:それは多少はありましたよね。私は彼女と住むまで10数年ひとり暮らしだったので、最初はポカーンとしていた気がします(笑)。

恵美:それでも今思うと、私はだいぶ遠慮して住んでたと思うんですよ(笑)。彼の持ち家に転がり込んだ形だったので、勝手に住んでる立場なのに自分の物を増やしちゃいけないなっていう気持ちがあって。

――そういう気持ちがなくなったのはいつから?

恵美:子どもが大きくなってきてからですかね。息子の面倒を見るためには私もここにいなきゃいけないわけだから、ある程度いい思いをさせてもらってもいいか、みたいな(笑)。

今の私の仕事はフルタイムで出張も多いので、小学生の息子の学校生活に支障がないように、お互いに協力し合っています。ただ基本的には、夫は朝早いし、私は夜が遅いのであまり顔を合わせる時間がなくて、普段の会話はほとんどないですね。

光弘:そうですね。もともと私たちは趣味が同じとか一緒にスポーツをやるとか、そういう共通項があって付き合い始めたわけではなかったので、会話は最初から多くなかったです。

――お子さんがもっと大きくなってくると、夫婦の時間も増えるのではないかと思います。そうなったときに、おふたりはどういう関係を築いていこうと思っていますか?

光弘:お互いのやり方を尊重して、あまり相手に引きずられたり、引きずりすぎたりしないようにやっていきたいですね。お互いのやりたいことが一致すれば、ふたりでもいいし、子どもを入れて3人でもいいし、一緒にできたらいいなと思います。

恵美:私のイメージでは、「恋人」ではなく「同居人」みたいになるのかなと。子どもが産まれる前までは恋人同士のような気持ちでいたんですけど、その関係はもう戻ってこないのかな、っていうのは感じてます。

――それはそれでまた新しい関係が始まるというような、ポジティブなイメージですか?

恵美:そうですね……彼と「夫婦」として世間から見られることは嫌ではないんですけど、私は自分の人生に「恋人」として関わってくれる人と一緒にいたいという気持ちで結婚しましたし、今も理想としてはそういうイメージがあるんです。だから、その「恋人」的な関係への理想と現状の関係のあり方を比べたときに、どっちがいいのかな、このままでいいのかな、って考えることはあると思います。

あと、仕事の話をするときになかなか自分の考えていることを彼と共有できないな、というのは最近強く感じています。彼とは業界も年代も違うし、これまでのキャリアも、自分のスキルを組織にどう提供しているかも違うので。光弘さんが働き始めた頃は今と違って日本の経済が盛り上がってた時代だと思うし、男女差もあるし……。

たとえば、私は退職金やボーナスが出る会社で働いたことがないんですが、彼はずっとそういうお金の出る会社に勤めているというのも違いますし。そのあたりでも仕事への向き合い方はちょっとズレがあるだろうなと思って。

――光弘さんはどうお考えですか?

光弘:う〜ん。

恵美:そこまで考えたことなかった?(笑)そういうのをもっとシェアできる人と一緒になったらもっと楽しいのかなっていう、妄想みたいなのはあるんですよね。それを理由に夫とパートナーを解消しようってことはないですけど。

光弘:仕事の分野がぜんぜん違うので、彼女の話はもちろん聞いてるつもりではいるんですけど、なかなか掘り下げた話はできませんしね……。私はもともとメーカーの技術系の人間だったので、彼女に仕事の話をしたことはあまりないですし、悩みも愚痴と泣き言くらいしか言えないから、うちではあまり仕事の話題は出さないんです。彼女のほうも同じ仕事や業種の人と話すときは和気あいあいと話をしているので、そこは私とはできなくてもいいかなって。

――でも、家庭に恵美さんのような女性がいると、刺激になりそうですよね。

光弘:はい、まぁいろんな意味で(笑)。

恵美:ありがとうございます(笑)。

――逆に光弘さんのような男性が家庭にいると、安心感があるんじゃないかなと思いますが。

恵美:そうですね。結婚って打算でするものではないと思うんですけど、私の家系はけっこうめちゃくちゃな人たちが少なくなかったので、落ち着いている光弘さんは魅力的に映ります。

――光弘さんからすると、逆に恵美さんが少し破天荒に映る場合もあるのではないかと思うのですが。

光弘:でも、悪いことをしてるわけじゃないですし。これまで生きてきた自分の姓を変えるっていうのは我慢できないところもあると思いますし、名字を変えたくない人はいっぱいいると思うので。それを誰でも選択できて、社会にも当然のように浸透する状況になればいいと思いますね。

恵美:夫婦別姓が認められたら、私もそうすると思います。

さっき「名字が一緒のほうが家族としての一体感が生まれる」という話がありましたけど、たぶん光弘さんにとっては、私が「甲田」であることで、家族としてのチーム感が法律婚をしていたときよりも薄れてるみたいな気持ちでいるんじゃないか、と思うんです。でも、私としてはそれって事実婚でも法律婚でも変わらないですし、もちろん今も、子どもに対する責任を一緒に負ってるつもりなんですよ。遺産相続ができない状況ではありますけど、それを除けば法律婚の夫婦の関係となんら変わりはないと思っています。

Photo/阿部萌子(@moeko145

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大泉 りか

ライトノベルや官能を執筆するほか、セックスと女の生き方や、男性向けの「モテ」をレクチャーするコラムを多く手掛ける。新刊は『女子会で教わる人生を変える恋愛講座』(大和書房)。著書多数。趣味は映画、アルコール、海外旅行。愛犬と暮...

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