北条かやさん
86年金沢生まれ。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修了。
著書に『こじらせ女子の日常』『本当は結婚したくないのだ症候群』『整形した女は幸せになっているのか』
『キャバ嬢の社会学』。Web媒体等にコラム、ニュース記事を多数、執筆のほか、TOKYO MX「モーニングCROSS」などに出演。
Twitter @kaya_hojo、FBページ、ブログ「コスプレで女やってますけど」
荒川和久さん
博報堂ソロ活動系男子研究プロジェクト・リーダー
自動車・飲料・ビール・食品・流通・通販等幅広い業種の企業プロモーション業務を担当。キャラクター開発やアンテナショップ、レストラン運営も手掛ける。2014年「博報堂ソロ男プロジェクト」を立ち上げた。著書に『結婚しない男たち~増え続ける未婚男性ソロ男のリアル』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
北条かやさん×荒川和久さん対談・後編 「結婚しないでソロで生きる人たち」も認められる世の中へ
周りを見渡せば、その生き方こそがスタンダードであるかのように、結婚して子どもを産み、育てる人たちがいるーー彼らを見ていると、結婚したいという強い思いがなくても、なぜか心が揺さぶられてしまう。それはソロ男・ソロ女の本音ではないでしょうか。
しかし近い将来、形成は逆転すると予想されています。結婚や恋愛を社会学的に考察するライターの北条かやさんと、『結婚しない男たち』著者の荒川和久さんに、「ソロであること」を選んでいる男女の未来予想図について語ってもらいました。
■結婚は「趣味」や「宗教」に近いかもしれない
北条かやさん(以下、北):前回のお話の中でとくに腑に落ちたのは、世の中には「結婚はするものだ」タイプと「別にしなくてもいい」タイプがいて、型にはまる必要はないんじゃないか、ということでした。ただ、それを理解しない人からのアドバイスにどう立ち向かうか、っていうのは依然として悩みどころですよね。
荒川和久さん(以下、荒):別に悪意ではなく、大半の人は善意で「なんで結婚しないの?」なんて言ってきますからね。でも、実は善意の方が始末に負えない(笑)。とくに女性に対する風当たりは強いんじゃないですか?
北:そうなんです。実際に私も主婦の方に「結婚するなら33歳までが勝負よ」と具体的なアドバイスをいただいたことがあって、本当になんて返したらいいのか悩みました。私自身は結婚にこだわりがないソロ女で、むしろ結婚って趣味みたいなものじゃないか? と思っているくらいなんですけど、そんなことは言えないし。
荒:男の上司の中にもいます。ソロ男の部下に対して、もしこの若者が何か勘違いしているなら俺が導いてやらないと……なんて使命感で結婚を勧めてくる人が。実はそこには、俺が毎月3万円の小遣いでやりくりしているのに、なんでお前は優雅にフレンチでランチしてんだよ、みたいな嫉妬心も見え隠れしてね(笑)。
北:善意+ちょっとした悪意でしょうか(笑)。そういう人たちは、結婚してまっとうな道を歩んでいる自分を褒めてほしかったり、承認してほしかったりするのかな? と思うこともあります。
荒:うん。自分が信じている価値観を壊されるのが怖いっていう心理もあるでしょうね。極論を言えば、人間とは、結婚して子をつくり育て、家族に看取られながら死ぬべきだ、っていう宗教に近い価値観を持つ人もいる。そこに「俺、結婚はしないです」っていう異教徒が現れると、途端に自分の存在が脅かされるような気がして。撃退するか“改宗”させるか……という無意識が働くこともある。
北:なるほど、そういう人にとって結婚は宗教なのか……。信じているものがある人って強いですしね。さらに子どもができて価値観が変わったら、新しい宗教に入信するみたいな。それはそれでいいことなのかな、とも思いますけれど。
■「結婚しない人」がマジョリティになる新時代
荒:結婚しないで一人で生きることもひとつの生き方だ、というスタンスの人がもっと社会から認められるようにならないとつらいですよ。「お前、なんで結婚しないんだよ」に対して「いや、俺ソロ男なんで」「なるほど。お前、ソロ男なのか」って会話が成り立つくらいにならないと。そうじゃないといつまでも周りを慮って、「結婚、しないとダメですよね~」って言い続けないといけない。
北:荒川さんのおっしゃる通りです。私も結局、光が当たらない側(独身男女)の声を聞いてくれという思いがすごくあるんです。あまりにも、結婚はするものだ派の声が大きすぎる現状をどうにかしたくて。
荒:ただ、ソロ男たちがサイレントマジョリティすぎるのも問題ですけどね。奥ゆかしいのかシャイなのか……。決してディスって言っているわけじゃないのに「ソロ男なんて言われたくない!」って反発されますから。でも下手したら君たち“ぼっち”って呼ばれるんだよ、って言いたい(笑)。
北:周りからカテゴライズされたくない、こじらせ女子と同じタイプかもしれないですね。ただ、社会的コンセンサスを得られなければ、マイノリティから抜け出せない。
荒:でもね、いずれ現実としてマジョリティになるんですよ。2035年の生涯未婚率が男性は30%、女性は20%に達するという見込みが数値として出ているんです。そうなれば社会の価値観に留まらず、法律だって変わらざるを得ない世の中がやってくるはず。
北:確かにソロ男・ソロ女にとって、現法律の問題って大きいですよね。私、社会保障は家族単位じゃなく個人ベースになるべきだと思っています。
荒:戸籍とかの問題があるから、抜本的な改正には時間がかかるでしょうね。ただ、国勢調査などですべての基準が“世帯”となっているのは僕もどうなのかと。だいたい“個人世帯”って何なんだ? って思いますよね。これからは、家という単位に個人が属するという考え方ではなく、まず最初に個人ありきで、個人同士が互いを認め合いながら生活をし、共同体を作っていく、というふうに形を変えていかないと、もろもろ矛盾が出てくるはずなんです。
北:子どもにも関わる問題ですね。
荒:今既に、卵子を若いまま凍結できる時代ですよ。今後、卵子を買えば誰でも子どもを産めたり、人工子宮が実現したりする時代がくるでしょう。結婚していなくても、自分の遺伝子を持つ子どもがもしかするとどこかにいるかも、っていう時代にどんどんなっていくんです。
北:そうなると、明治時代に定められた民法は、テクノロジーの発展に追いつかなくなってきますね。新しい世界が少しずつ見えてくるかも知れません。
■幸せの定義は自分で探し出せばいい
北:今回『本当は結婚したくないのだ症候群』執筆のためのインタビューや資料分析を通して、絶対に結婚したい女性も、必ずしも結婚にこだわらない女性も、“本当の幸せ”を見つけようとしてもがいているんだな、と実感しました。
荒:うーん。“本当の幸せ”ってなんでしょうね……。人生って人それぞれ違うのに、誰かが決めた人生の台本からちょっとでも外れていると自分は幸せじゃない、なんておかしな話じゃないですか。
北:根底にあるのは、やっぱり「社会から認められたい」っていう欲求だと思うんですけどね。
荒:そこについては、僕の好きなドラマのセリフが思い浮かんだんですよ。昔、『やまとなでしこ』っていうドラマが流行ったじゃないですか。CA役の松嶋菜々子さんが主演で、自分を幸せに導いてくれる男性を探して、迷い続けるというストーリー。
北:ありましたね。初めは男の価値は年収よ! って言っているけど、結局お金持ちではない実直な男性に少しずつ惹かれていくという。
荒:そうです、それです。最終回、彼女が彼に想いを伝えるシーンのセリフがすごく印象的で。「……私には見えるんです。10年後も20年後も、あなたの側には私がいる。残念ながら、あなたといると私は幸せなんです」って言うんですよ。
北:残念ながら幸せ、なんですね。
荒:そう、残念ながら。結局、自分にとっての幸せって何? って自分に問いかけないと、“本物の幸せ”って見えてこないと思うんです。その上で、それまで“圏外”にいた異性と生きる道を選択する人もいるでしょうし、ソロを選択する人もいるでしょう。後者にとっては、「残念ながら、一人でいると私は幸せなんです」っていうことになる。
北:そこは、ソロで生きるのが幸せだと感じる人は、男女限らず存在することを社会がきちんと理解して、社会の方から幸せの軸を押しつけないでほしいな、と思いますよね。そして「幸せになりたい」をそのまま「結婚したい」に変換してしまっている人がいるのなら、そこをもう一度因数分解してみると、別の答えが出てくるかもしれませんね。
構成=波多野友子
いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。