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夫と愛人との、奇妙な共同生活。たくさんの男を溺れさせた岡本かの子の魅力と孤独

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絶世の美女でもなく、わがままで横暴、料理も洗濯もできない。それでもなお、多くの男性が彼女の魅力に溺れてしまうーー。生きることの孤独を見つめながら、自分を信じ真剣に生き抜いた、作家・岡本かの子の冷静と情熱。

夫と愛人との、奇妙な共同生活。たくさんの男を溺れさせた岡本かの子の魅力と孤独

芸術家・岡本太郎の母であり、また自身も作家として、多くの功績を残した岡本かの子。彼女のことを、私は勝手に、大変な美貌の持ち主なのだと思っていた。かの子が、夫と愛人との奇妙な共同生活を送っていたことは有名な話だ。夫から無償の愛を注がれるだけでなく、自分が目をつけた愛人からも傅(かしず)かれるなんて、並の女性にはできないだろう。

たったひとりの男を夢中にさせ続けることだってなかなか難しいのに、ふたりも3人も、かの子なしでは生きがいを見失ってしまうくらい、その魅力に溺れてしまう。石原さとみか、新垣結衣か、はたまた佐々木希か。それくらいの美貌の持ち主でなければ、この現象を説明できない! 私はそう思い込んでいたのである。

ところが、瀬戸内寂聴による伝記『かの子撩乱』によると、岡本かの子はどうやら、石原さとみでも新垣結衣でも、佐々木希でもなかったらしい。

白粉たっぷりの厚化粧、豊満な体躯、俗悪な色が重なった派手な服装。「実に醜婦でしたよ」「かの子女史を美しいとは私は一度も思ったことがない」。外見の印象なんて人によって違うだろうが、生前のかの子を知る谷崎潤一郎や円地文子がこう語っていることを考えると、少なくとも絶世の美女ってわけではなかったことがわかる。

もちろん女性の魅力は外見だけではない。それはそうだけど、では、夫も愛人も虜にしてしまった岡本かの子の魅力とは、いったいなんだったのだろうか。優しさだろうか、それとも作るごはんの美味しさや、諸々の家事能力の高さだろうか。答えは、どれも「NO」である。

■わがままで横暴、優しくも寛容でもない

まず、岡本かの子はすごくわがままで、横暴な性格だった。

パパ、パパ、病院で洋蠟燭のような男みつけたのよ。ね、もらってきて、すぐもらってきて、いいでしょ。

『新装版 かの子撩乱』瀬戸内寂聴著,講談社文庫,2019年,416頁



夫である一平に、かの子は入院していた先の病院で惚れた男・仁田を家に連れてきていいかをこう尋ねる。まるで小さな女の子が父親に、道端で捨てられていた猫を家で飼っていいか聞くような口調だ。

おとうさんは、あたしをこよなく愛しているから、あたしの愛するものまでひっくるめて大きく愛することが出来るのよ。

『新装版 かの子撩乱』瀬戸内寂聴著,講談社文庫,2019年,216頁



かの子自身は周囲にそう説明していたらしいが、かの子の知人は「かの子は虚栄心の強い暴君ですよ。我ままで横暴で……」(同書、551頁)と、その激しい性格への愚痴を漏らしている。かの子が、一般的な意味での「優しい」女性ではなかったことは明らかだろう。

家事能力についても、ものを切れば指を切る、ものを煮れば焦がすといった具合で、料理、掃除、洗濯、すべてにおいて得意といえるものがなかった。女中に気に入らないことがあって注意しても、「それじゃ奥さま、やってみせてくださいまし」と意地悪を言われると、しくしく泣いて何も返せない。そんな有様だったようである。

美女でもない、優しさも寛容さもあるとはいいがたい、料理も掃除も洗濯もできない。私がイメージする昭和の「いい女」像とはかけ離れている岡本かの子の、彼女にしかなかった魅力──『かの子撩乱』を読んで浮かび上がってくるそれは、自分自身に対する絶対的な自信、信頼だ。

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チェコ好き(和田真里奈)

旅と文学について書くコラムニスト・ブロガー。1987年生まれ、神奈川県出身。

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