弱みにつけこんでくる「トンデモ健康情報」。わたしたちにできる対策とは?
まさかと思うような「トンデモ健康情報」は、意外にもわたしたちのすぐ身近に潜んでいる。不安や弱さにつけこみ、反ワクチンや自然派へと誘う。身体活動や命の危機にも繋がりかねないこのようなトンデモに対して、わたしたちができることとは何か。
一見、身体によさそうで、素敵なイメージでありつつも、実際は「こうしないと病気になる」という呪いを振りまいている非科学的な健康法。
女性が取り込まれがちな背景には、身体に起こる現象を数値化できないこと、性をタブー視する性教育などがあります。結果として、「経血コントロール」のような手法が身体・病気のことと結び付けられてしまい、時には大きなリスクになることも。
今回は、女性向けの美容健康雑誌のライターとして多く取材してきた中で、あやしげな健康法が数多くあることに気が付いてウォッチャーとなり、昨年末に「呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル」」(KKベストセラーズ)を上梓した山田ノジルさんと、産婦人科医でかつ、プロボクサー、ベリーダンサーという多彩な才能を持ち、SNS上で役に立つ医療情報を日々、発信している髙橋怜奈さんの対談を行った。
トンデモ健康法は、どういった人たちが、どういう言葉で誘ってくるのか。
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■子宮を特別視することの罪
写真左:山田ノジルさん(@yamadanojiru)/写真右:髙橋怜奈(@renatkhsh)さん
山田ノジル(以下、山田): 『呪われ女子に、なっていませんか?』という本の中では、子宮系女子、経血コントロール、布ナプキン、冷えとり健康法、デトックス、オーガニックと、6つの女性を狙う“脅し系産業”取り上げているのですが、髙橋先生は「子宮系女子」についてどう思われますか?
髙橋怜奈(以下、髙橋):具体的に、どういう考え方をしている方たちなんですか?
山田:人によって定義はいろいろあるんですけど、わたしは「子宮を意識した生活をすれば、すべてがよくなる」って信じ思っている人たちのことだと思っています。出産時にお世話になる助産師さんの中にも、「ストレスをため込むと、子宮が病気になる」みたいな、子宮の健康が女の幸せとダイレクトに結びついているようなことを言う人っているじゃないですか。実はあれが、子宮系女子の源流ではないかと。
髙橋:私はそもそも「なんで卵巣じゃないのかな」って思います。女性ホルモンを分泌しているのは卵巣なので。ただ、子宮は妊娠したりする臓器なので、「女性らしさ」と直結させやすいのかなとは思います。卵巣の形はわからなくても、子宮の形ならば多くの女性が想像つくでしょうし。
山田:毎月、そこから生理として内膜が剥がれ落ちてくるので、妊娠出産をしていなくても、「ある」と実感できる部位でもある。けど、子宮に執着する子宮系女子たちは、「子宮のケアが、女性ホルモン分泌の鍵」とか、「膣ケアと女性ホルモンの分泌が、ダイレクトに結びついている」、というような主張をするんです。こうした因果関係は、科学的には存在しないって断言し思っていいんですかね。
髙橋:いいと思います。以前、ツイッターにも書いたんですが、わたしは子宮を特別視することによって、子宮を取らなきゃいけない人がそれを躊躇してしまうことが問題だと思うんです。
たとえば、閉経間近で子宮筋腫が何十個もあるような方だと、手術するとなれば子宮全摘出が望ましいケースがあります。けど、「どうなってもいいから、絶対に残して欲しい」とか言われると……。やっぱり手術もすごく大変になりますし、出血も多くなります。それに、若くして子宮頸がんになって子宮や卵巣とかを摘出されている方だっているんですけど、そういう人たちを傷つけてしまうことにもなる。
山田:子宮を摘出したら女じゃなくなる、みたいなことを言う人がいる。
髙橋:います。でも、子宮や卵巣を取っても女であることは変わらない。閉経して女性ホルモンが出なくなったら女じゃなくなるのかっていうと、そういうわけではないんです。子宮というのはただのひとつの臓器。目とか鼻とかと一緒なので、そんなに深く考えないでいただきたいな、と。
山田:けど、子宮系女子たちってその辺りはすごく上手く表現しているんです。
「子宮を取ってしまっても、そこには子宮のエネルギーが残っています」って。医学的に説明できないことは、スピリチュアルの話にしてしまう。そのあたりは、騙しの手法としてすごく上手いなって思いますけど、医学の話とごっちゃにされると困りますよね。
髙橋:生理痛の原因って、子宮内膜症だったり、それ以外のなんらかの病気であることも多いんですけど、それを「子宮にエネルギーがないから」とか、本人のせいにされてしまうと、患者自身が自分を責めてしまうことになったり、産婦人科にかかる前に生活をしっかり整えないと……みたいに思ったりして。
山田:医療につながる機会を失ってしまう。
髙橋:ただ実際に、産婦人科医の中にもあまり子宮内膜症の知識はない方もいらっしゃって。子宮内膜症って超音波で診て、ぱっとわかるものがすべてじゃないんですね。超音波で診たときは、何もなかったとしても、手術で開けてみてようやく「子宮内膜症でしたね」ってわかることがあるんです。特に初期段階は画像ではわかりにくい。
なので、生理痛がひどくて婦人科に受診して検査をしても、当の医者にその知識がないと「なんともないよ」って帰されちゃうこともあるんです。生理痛の痛み止めだけ出されて。
山田:医者に「なんともない」と言われたら「そうですか」って引き下がるしかないですよね。でも、生理痛はたしかにあるし、身体はつらい。
髙橋:そういう人たちが、「この痛みはなんだろう」って原因を求めていくうちに、そういう疑似科学やスピリチュアルに結びついちゃうのかもしれないとも思うんです。市販の紙のナプキンを使ってることや、生活習慣のせいにしちゃったりするのかなって。
山田:医者にかかってもわからなかった答えを示してくれるわけだから、ついふらっと行ってしまうのも当然ですね。
髙橋:痛みっていうのは、脳が痛いって指令を出しているから感じるものです。それを否定するっていうこと自体が、わたしは間違っているって思うんですね。たとえ炎症は起きていなかったとしても、やっぱりその患者さんは痛みを感じている。それを否定されると、患者さんもどうしていいのかわからなくなると思うんです。
山田:ただ一方で、患者側には「病院に行けば、薬一発で魔法のように治る」という過剰な期待もあったりして。だからこそ、「原因がわからない」と言われると、必要以上に落胆してしまうのかもしれません。
■トンデモ情報は、妊娠や出産のシーンに入り込んでくる
――やはり女性が不安を感じやすい妊娠や出産の場面において、こうしたトンデモ系が入ってきやすいのかもしれないですね。
髙橋:晩婚化が進み、時間的な余裕がない状況で妊活している女性も少なくないです。もしもそうした状況に焦っているのであれば、どんな情報でも手に入れたいって思ってしまっても不思議ではありません。
山田:妊娠菌(妊婦さんから妊娠菌をもらうと妊娠するというジンクス。ネットオークションでは、「妊娠菌付き」の触れ込みで妊婦が作ったというブレスレットなどが、出品されている)が成り立ってしまったのもそれですよね。
――それこそ産後も「乳腺炎になったら、乳房をキャベツで冷やせ。保冷剤では冷えすぎるのでよくない」みたいなアドバイアスを助産師さんがしますよね。
山田:妊娠・出産って、助産師さんの出番が多いじゃないですか。それで、助産師さんって自然派やちょっとスピリチュアルに傾倒している人も一部にいるような気がします。妊娠・出産の場面で、あやしげな療法が当然のようにまかり通っているのって、こういった状況も関係してるんですか?
髙橋:関係しているとは思います。基本的にお産のときの会陰切開(出産・分娩時に会陰裂傷が大きくなるのを予防したり、児や母体の安全のために早く娩出したほうがいい状況の時に、会陰部に切開を加える分娩介助方法)は、医師でないとできないんです。なので、最後まで自分で看たいっていう助産師さんの場合は、できるだけ切開をしない自然なお産をとりたいっていうのがあるかもしれません。
もちろん切開をすることなく無事に産まれればいいんですけど……。明らかに切開をしたほうがいいような、会陰がむくんでパンパンの状態で「もう、産まれる」って直前に電話がかかってきて、「あっ、切らなきゃ!」と思ったときには、もう産まれてしまうケースもあって。お母さんの会陰は、ビリビリに破れちゃうというのはあります。そうすると縫うのも大変だし、産後の痛みも続きやすい。
山田:そういうケースって多いんですか?
髙橋:多いですね。でもその助産師さんに言わせると、「切れるべきところが切れたんだから、いいじゃない」って。
山田:スピリチュアルの「そうなったのには必然性があった」という物言いとまったく同じですね。物理的に会陰がズタズタになってるのに。
髙橋:尿道やクリトリスの近くまで切れちゃっていて「これ、どうするの?」って。ただ、一部の助産師さんは、産婦人科医に頼らないで自分の力でやるっていうのがステータスだったりもするんですよ。そう教育されている。そういった教育も、自然派の方々が増えている要因となっているのだと思います。
山田:産後のお母さんたちって、寝不足や疲れで判断能力が下がりやすいじゃないですか。出産を期に助産師さんの影響を受けて、突然自然派になることもありますよね。
髙橋:そうですね。だからこそ自然派を盲信されている助産師さんは、科学的根拠をしっかり身に着けるような勉強法だったり、論文の調べ方だったりを、もうちょっと学んでほしいなと思います。
■トンデモ健康法はキラキラして素敵なイメージで女性を誘い込む、確信犯的ビジネスでもある
山田:医学的な根拠のない自然派を謳う医師の方もいらっしゃいますよね。
髙橋:少し前に、反ワクチンの小児科医が、実は自分の家族にはワクチンを打っていた……というニュースが話題になっていましたが、本当に反ワクチンが正しいと思ってやっているのか、それとも講座やセミナーで儲けたり、本を出したくて、自分のキャラ付けとしてやってるのかってところですよね。薬を使わないで健康な状態を保てたほうがいいって多くの人が思うじゃないですか。そういう人たちに向けたビジネスで、確信犯的にやってる人もいるんだと思います。
――インターネットでの検索やSNSなどが普及して、良くも悪くもあやしげな情報に触れやすい環境ができあがっていますよね。
髙橋:あやしげな健康法を出してる会社とかって、最近はインスタグラムのインフルエンサーにお金を出して宣伝していますよね。インフルエンサーの女の子たちも、「よくわからないけど、お金を貰えるから宣伝しちゃおう」って気軽な感じで。
山田:確信犯の方もいらっしゃいますよ。わたし宛に届いたタレコミメールに書いてあったのは、美魔女系の人が水素水や布ナプキンの代理店みたいになって、マルチ商法を拡大させている……というような内容でした。とにかく莫大な金銭被害があちこちで発生しているんです。
髙橋:昔のマルチみたいな雰囲気もなく、キラキラした起業家みたいな女性が加担しているので、よもやマルチとは思えないっていう。
山田:女性が憧れがちなキラキラした世界と、あやしいビジネスとの境界線が曖昧になっている感じはしますよね。
■産婦人科にきちんとかかってほしい
――ここまでお話しを聞いていると、トンデモ健康情報は「人の不安や弱さにつけこんでくる」というのが大きな特徴なのかなと思います。
髙橋:女性って各年代で、いろんな身体の悩みが出てくると思うんですよ。10代~20代だと生理不順や生理痛。30代だと妊活、40代になると更年期。それぞれのステージにあった、それぞれの悩みや不安がある。けど、今の多くの患者さんたちって、かかりつけ医を持っていない。なにかあったときに初めて救急外来を受診する。だから、常に自分の身体の状況がどうなっているか、わからないっていうのもあるかもしれませんね。
――病院に行く、ハードルの高さはありますね。
山田:主婦でも働いていても、忙しくしているとつい自分のことは後回しになりがちですよね。扶養者検診や保険を使って、安い金額で受けられるとしても。子宮頸がん検診は、1年か2年に一度無料で受けられたりするんですが、それでも受けにくる方はすごく少ないと聞きます。
――たとえば、歯医者なら「一年に一度、誕生日の時期に行け」って話があるじゃないですか。産婦人科にもそういう通う頻度にまつわるお話しはありますか?
髙橋:はい。産婦人科にも、最低年に一度は行ってほしいですね。子宮頸がんと超音波検査で、子宮や卵巣が腫れていないかの検査はしてもらいたいです。そうやって、かかりつけの産婦人科を作っておけば、なにかのときに相談もしやすい。自分の身体、命に関わる問題でもあるので、ぜひ信頼できるかかりつけの産婦人科を見つけて欲しいです。
山田:検査の結果、なにも問題ないとしても、それを無駄なことだと思わないでほしいです。いざというときに、高額セミナーに搾取をされるくらいなら、きちんとした機関で調べてもらうことは意味のあることだと思います。
髙橋怜奈
東邦大学医療センター大橋病院・婦人科在籍。2016年6月にボクシングのプロテストに合格をし、世界初の女医ボクサーとして活躍中。また、ベリーダンスもレストランでショーを行うほどの腕前を持つ。SNSでは女性に役立つ医療情報を日々発信中。@renatkhsh
山田ノジル
長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、WEZZY(サイゾー)掲載の『スピリチュアル百鬼夜行』連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。@YamadaNojiru
Photo/池田博美