「私はどうしたいのか」に向き合うことを恐れない。漫画家・田房永子さんに聞いた“毒親”のこと 2/2
■自分で判定する力を養うためには
ーーただ、自分の気持ちを信じるのは、簡単なことではないように感じます……。
そもそも社会の中で「自分で判定する」という感覚を養うのは難しいですよね。小学校で義務教育が始まったら、周りに合わせるための教育があって。みんな基本的には同じことをして、就活でもみんな同じスーツを着て……。
そこから、いかに自分の軸を作っていくかなんですよね。
ーー田房さんご自身が「自分の軸」を持つことを意識したきっかけはありますか?
結婚したときに、人に合わせることで迷惑がかかることもあると気づいたんです。
結婚してすぐの頃、私は「女だから妻だから、家事は絶対自分がやらなきゃいけない」と思い込んでいました。”夫をバリバリ働かせるのが良い妻”という価値観が培われていて、そこから外れるのがすごく怖かったんですよね。
でも本来の私は「働いて家族を養いたい」と思う、男性的というか、大黒柱になりたいタイプなんです。一方で、夫は家事が苦痛じゃなくて、「専業主夫もいいよね」と言うようなタイプ。
ふたりの間でバランスがうまくとれているんだし、最初から「私はこういう性格だからバリバリ働きたい」と本当の自分を出せばよかったんです。なのにその気持ちを抑えていたから、最初はイライラして夫に当たってばかりでした。
世間の声に自分を合わせようとしすぎたことで、かえって不満が爆発して迷惑をかけてしまったんですよね。
ーー本当の自分を無視せずに伝えることで、うまくいくケースもあるんですね。
マインドは人によっていろいろだと思うんです。「私は男っぽいな」という女性もいるし、その逆もいる。
世間で言われる「女性はこうあらねば」というタイプに合わせなくてもいいんです。
私は30歳を過ぎてからようやく自分軸で生きることを意識するようになったけれど、小さい頃から自分の軸で生きていたら親との関わり方ももっと違っただろうな、と思うこともあって。
ーー自分の軸を持つためには、何から始めたらいいのでしょうか?
まずは自分に興味を持つことでしょうか。たとえば何かにムカついたら、「どうして私は怒っているんだろう?」と自分の感情に向き合ってみる。他人はどう思うだろう? じゃなくて「自分はどう思うのか」をまず考えるくせをつけるといいのかなと思います。
自分の心を見つめるのが苦手という人は、無理しなくてもいいんです。「無理なんだな、苦手だな」と思うだけでいいと思います。
ーー自分の本当の気持ちと向き合う、ということですね。
大人になったら、改めて「私は本当はどうしたいんだろう?」と自分軸を作る作業をした方がいいんじゃないかな。
たとえ「この歳になって『自分のやりたいようにやる』なんて言ってられない」と気持ちを押さえつけても、「本当はこうしたい」という気持ちは、死ぬまでにいつか絶対に出てきますから。
それは、親との関係はもちろん、恋愛や仕事にも影響することです。
今何歳だとしても、自分の気持ちに向き合うのは恐れるべきことじゃないんです。
Text/市川茜
田房永子さん プロフィール
1978年東京都生まれ。2000年漫画家デビュー。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA中経)がベストセラーに。その他の著書に『ママだって、人間』(河出書房新社)、『呪詛抜きダイエット』(大和書房)、『それでも親子でいなきゃいけないの?』(秋田書店)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)など。
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