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「私はどうしたいのか」に向き合うことを恐れない。漫画家・田房永子さんに聞いた“毒親”のこと

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他人に話す機会があまりなく、長年ひとりで抱えてしまう人も少なくない親子問題。親とどう向き合い、どう逃げればいいのか? そのヒントは、自分自身にあるかもしれません。過干渉な母との確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』の著者、田房永子さんにお話を聞きました。

「私はどうしたいのか」に向き合うことを恐れない。漫画家・田房永子さんに聞いた“毒親”のこと

過干渉な母との確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』の著者、田房永子さんにインタビュー。

■うちは他の家庭と違うのでは? と気づいたきっかけ

『母がしんどい』より

ーー小さい頃は親がすべてで、「自分の親って変かも」と思うことは難しいのではと感じています。田房さんは、お母さんの過干渉を問題に感じたきっかけはありましたか。

小さい頃も嫌なことはありましたが、変だと感じるよりも、むしろ愛情が深い人なんだと思っていました。でも高校生になると「ちょっとおかしいんじゃないか?」と思い始めて……。決定的だったのは、有志のスキー教室の参加をやめさせられたことでした。

前から楽しみにしていてスキーウエアも買っていたのに、前日に突然「行くな」と言われたんです。理由は、成績が悪かったから。

「成績はいつもと変わらないのになんで?」って。その出来事が本当に衝撃的で、この家でどうやって過ごしていこう? と思い詰めるようになりました。

『母がしんどい』より

ーー最初に意識したのは、高校生の頃だったんですね。

ただ、高校生の頃は、親に自分のやりたいことを反対されたり禁止されたりするのは“よくある話”でもあったんです。

でも大学生になると、親元を離れてひとり暮らしをする子も増えてきて、「離れてから親のありがたみがわかった」と親に感謝し始めるんですよね。なのに私は、ひとり暮らしなんて絶対にさせてもらえないし、親のことを話し出すとつい嫌な話になってしまう。そこにすごいギャップを感じてしまって。

みんなはあっけらかんと親から解放されて楽しんでるのに、私は母親にされた嫌なことが全然忘れられなかった。「なんでこんなに親に囚われてるんだろう」と不思議でした。親に対する感覚が周りと全然違うなと思いましたね。

■親を「嫌だ」と思ってもいい

ーー大人になって家を出てから、お母さんに対する思いに変化はありましたか?

大人になるまでは、親のことを嫌だと感じたり、連絡を絶ちたいと思ったりする自分に罪悪感を持っていました。

だからインターネット掲示板で「毒親(※)」という言葉を初めて知ったときは衝撃でした。「毒親ってなに!?」って。自分と似た人の体験談を読んで、「過干渉」という言葉もそこで知りました。読んだら、うちの親のことなんですよ。それはもう価値観が180度変わるキーワードでしたね。

(※)「子どもの人生を支配し、子どもに害悪を及ぼす親」を指す俗的概念

『しんどい母から逃げる!! ~いったん親のせいにしてみたら案外うまくいった~』より

29歳のとき、妊娠をきっかけに「お母さんのような親になりたくない」「お母さんと似ているところを治したい!」と思って、生まれて初めて精神科に行ったんです。

そこで精神科医に「あなたはとんでもない人に、とんでもない育てられ方をしたんです」「あなたは何も間違ってないから自信を持って」と言われて。

『母がしんどい』より

そういう経験を経て初めて、「私は間違っていなかった、悪くなかったんだ」って思えたんですよね。自信を持てたというか。

ーーその言葉で、気持ちが軽くなったんですね。

『母がしんどい』を出してからは、同じ境遇の人にもたくさん会いました。そういう人と話すのも、すごく効果があった。

たとえば「介護は放棄してもいいんだよ」という話を知っているかどうかで気持ちは大きく変わります。「毅然と親に『NO』を言っていい」と知れるだけですごくほっとしたんですよね。親のことを「嫌だな」と思ってもいいんだとわかっているだけでも楽になると思います。

人によって何が救いになるかは違うと思いますが、自分を救ってくれるきっかけはいろいろなところにあるのではないでしょうか。

ーー「出版後は同じ境遇の人にたくさん会った」というお話がありましたが、『母がしんどい』をはじめ数々のコミックエッセイを出版されて反響はいかがでしたか?

共感してくれる人もたくさんいるんですが、「こんな親は犯罪者も同然だ」くらいに言われると複雑ですね、難しいんですけど……。

親がひどく責められるのも、それはそれでつらいんです。やっていることはひどすぎるけれど、母は社会的に犯罪を犯したわけでもないし、そこまで言われるほどの人じゃないぞ、と。

世間からの反応ってどうしても極端なんです。だから、周りの声にどれだけ惑わされないかがすごく重要だなって思っているんです。

ーー周りの人の「それは毒親だよ」とか「毒親じゃないよ」という言葉に振り回されてしまうこともありそうです。

読者の方から、「うちの親にこんなことをされました。これは毒親ですか?」と判定を求める連絡をいただくことがあります。

「あなたの親は毒親だよ」と言ってもらうことで、親と対峙できるような気持ちはすごくわかるんですけど、それは第三者が判定することじゃない。もし私がジャッジを下してしまったら、今度は私がその人にとって親のような立場になってしまいますよね。洗脳先が変わるようなもので。

大切なのは、自分がどう思うか。周りが「毒親じゃない」と言っても、自分が嫌で毒だと思うなら毒親でいいし、そうじゃなければ、違っていいんです。

ーー周りの判定で楽になる部分は受け入れつつ、最終的に判断するのは自分自身ということですね。

■自分で判定する力を養うためには

ーーただ、自分の気持ちを信じるのは、簡単なことではないように感じます……。

そもそも社会の中で「自分で判定する」という感覚を養うのは難しいですよね。小学校で義務教育が始まったら、周りに合わせるための教育があって。みんな基本的には同じことをして、就活でもみんな同じスーツを着て……。

そこから、いかに自分の軸を作っていくかなんですよね。

ーー田房さんご自身が「自分の軸」を持つことを意識したきっかけはありますか?

結婚したときに、人に合わせることで迷惑がかかることもあると気づいたんです。

結婚してすぐの頃、私は「女だから妻だから、家事は絶対自分がやらなきゃいけない」と思い込んでいました。”夫をバリバリ働かせるのが良い妻”という価値観が培われていて、そこから外れるのがすごく怖かったんですよね。

でも本来の私は「働いて家族を養いたい」と思う、男性的というか、大黒柱になりたいタイプなんです。一方で、夫は家事が苦痛じゃなくて、「専業主夫もいいよね」と言うようなタイプ。

ふたりの間でバランスがうまくとれているんだし、最初から「私はこういう性格だからバリバリ働きたい」と本当の自分を出せばよかったんです。なのにその気持ちを抑えていたから、最初はイライラして夫に当たってばかりでした。

世間の声に自分を合わせようとしすぎたことで、かえって不満が爆発して迷惑をかけてしまったんですよね。

ーー本当の自分を無視せずに伝えることで、うまくいくケースもあるんですね。

マインドは人によっていろいろだと思うんです。「私は男っぽいな」という女性もいるし、その逆もいる。
世間で言われる「女性はこうあらねば」というタイプに合わせなくてもいいんです。

私は30歳を過ぎてからようやく自分軸で生きることを意識するようになったけれど、小さい頃から自分の軸で生きていたら親との関わり方ももっと違っただろうな、と思うこともあって。

ーー自分の軸を持つためには、何から始めたらいいのでしょうか?

まずは自分に興味を持つことでしょうか。たとえば何かにムカついたら、「どうして私は怒っているんだろう?」と自分の感情に向き合ってみる。他人はどう思うだろう? じゃなくて「自分はどう思うのか」をまず考えるくせをつけるといいのかなと思います。

自分の心を見つめるのが苦手という人は、無理しなくてもいいんです。「無理なんだな、苦手だな」と思うだけでいいと思います。

ーー自分の本当の気持ちと向き合う、ということですね。

大人になったら、改めて「私は本当はどうしたいんだろう?」と自分軸を作る作業をした方がいいんじゃないかな。
たとえ「この歳になって『自分のやりたいようにやる』なんて言ってられない」と気持ちを押さえつけても、「本当はこうしたい」という気持ちは、死ぬまでにいつか絶対に出てきますから。

それは、親との関係はもちろん、恋愛や仕事にも影響することです。
今何歳だとしても、自分の気持ちに向き合うのは恐れるべきことじゃないんです。

Text/市川茜

田房永子さん プロフィール

1978年東京都生まれ。2000年漫画家デビュー。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA中経)がベストセラーに。その他の著書に『ママだって、人間』(河出書房新社)、『呪詛抜きダイエット』(大和書房)、『それでも親子でいなきゃいけないの?』(秋田書店)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)など。

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DRESS編集部

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