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”恐怖”という亡霊が生み出す過剰な攻撃性 - 雨宮処凛×斉藤章佳 対談

#MeTooは、「性暴力やセクハラへのNO」であり、すべての男性を断罪するような運動ではない。

”恐怖”という亡霊が生み出す過剰な攻撃性 - 雨宮処凛×斉藤章佳 対談

SNSから広がった#MeTooのムーブメントは
世界中で多くの女性たちが声をあげるきっかけとなりました。

しかし依然として、声をあげた当事者に拒否反応を示したり、その人を非難するといった、受け取る側(世間)の反応があります。

なぜ、女性が自らの被害を告発することが、タブーとされてしまうのか。

それは、この社会の根底にある「男尊女卑」という価値観が、強い影響を与えているのかもしれません。

左:斉藤章佳さん/右:雨宮処凛さん

今回は、リストカット、労働問題、貧困問題など、現代社会の「生きづらさ」への取材や支援に取り組んできた作家、活動家であり、今年の4月に初めて「ジェンダー問題」を真正面から扱った『「女子」という呪い』(集英社クリエイティブ刊)を刊行した雨宮処凛(あまみや・かりん)さん

そして、精神保健福祉士・社会福祉士として、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックで数多くの臨床に携わり、著書『男が痴漢になる理由』(イーストプレス刊)の中で、社会で大きく誤解されている痴漢の実態を初めて解明し、各所で話題を呼んだ斉藤章佳(さいとう・あきよし)さんのおふたりに、「男尊女卑」をテーマに対談をお願いすることにしました。

■自分よりパワーの弱い人に、欲望をぶつける人たち

雨宮処凛さん(以下、雨宮):斉藤先生の書かれた『男が痴漢になる理由』を読んで、本当にビックリしました。

セクハラとか性暴力とか、そういう被害の問題については「男は性欲が強いものだから仕方がない」とか「たまたまそういう目にあっちゃって可哀想だったね」って、まるで自然災害みたいに受け入れろっていうような風潮もあるじゃないですか。

明らかに人災なのにおかしいですよね。もしくは「お前が、そういう服を着ているから悪い」っていうふうに、被害者の自己責任にしたりとか。そうやって、性欲絡みの話で片づけられていた。けど、絶対に原因は性欲だけじゃないなってことを思っていて……支配欲だったり、攻撃欲だったり、ストレスを自分よりパワーの弱い人にぶつけているということが、この本を読むことで鮮やかにわかりました。

先日「わざとぶつかる人」ってハッシュタグ(※)があったじゃないですか。雑踏なんかで、わざわざ人にぶつかる男性がいる。しかもその対象は女だっていう。そういう、自分の苛立ちをたまたま視界に入った女性にぶつけるのと、痴漢をする男性の心理ってまったくイコールなんですよね。

※「#わざとぶつかる人」はこちら(Twitterへリンク)

斉藤章佳さん(以下、斉藤):わたしが雨宮さんの本を最初に買って読んだのは『プレカリアートの憂鬱』(※)です。もう何年も前ですかね。

※『プレカリアートの憂鬱』:2009年2月27日に出版された「雇用崩壊社会」の現実に迫ったルポルタージュ。雨宮処凛さんが17人の「プレカリアート(非正規雇用で生計を立てる人)」を取材したもの。

雨宮:それを出したのは、もう10年くらい前ですかね。

斉藤:わたしは20年近く依存症の臨床に携わってきたのですが、その背景には、労働問題や貧困問題っていうのがあるんですよね。なので、参考にするために拝見しました。

■男か女かで価値付けされ、育っていく

雨宮:斉藤先生は多くのメディアで「日本社会の根底にはいまだに男尊女卑的な価値観が根付いている」と仰っています。どのようなシーンでそう思うことがあるのでしょうか?

斉藤:これは以前職場のスタッフの結婚式に参加したときの話なんですけど、けっこう古い風習も残っている地方で式が行われて、会場の雰囲気的に「元気な赤ちゃんを早く産め」と言うような見えない圧力を感じました。

斉藤:そういうときの「元気な赤ちゃん」って、男の子がイメージされることが多いと思うんです。
日本って生まれたときに男か女かで大きく価値が分かれるっていう価値観がまだ残ってますよね。僕も地方出身なんですけど、うちの祖父母は女の子3人しかできなくて、母が私を産んだときは、祖父母は天皇陛下に向かって万歳する感じだったと斉藤家の逸話として語り継がれています(笑)。

雨宮:すごいですね。

斉藤:実家に帰省する度に母や祖母からこのエピソードを聞いていました。地方地域なので、そういう家庭が多かったのかもしれません。男か女かによって知らない間に価値付けされ、その価値を前提として育っていく。

もちろん社会に出たときに、その価値観が不適応を起こしてしまい、「このままではいけない」という危機感から新しい価値観をインストールして、アップデートすることが重要なんですが。


――生まれた時点で、男か女かで、周りの対応が違うっていうことですよね。(編集部)


斉藤:そうです。さまざまな媒体で「男尊女卑的な価値観がセクハラの根底にある」ということを話しているのですが、それを読んだ男性から、クリニックに時々電話がかかってくるんです。「あの斉藤ってやつは、日本は男尊女卑社会だって主張してるけれども……」って。だいたい電話に出るクリニックの受付スタッフは、女性の方が多いんですが、彼女たちに延々とクレームを言うわけです。で、その女性スタッフが「では今、斉藤が隣におりますので、かわりますね」って言ったら、だいたいガチャっと切る。

雨宮:男性には直接、クレームをつけられないんですね。なぜそんなにナチュラルに女を馬鹿にしてるんですかね。不思議です。

斉藤:たぶん、みんな気づいてないんです。

雨宮:馬鹿にしている自覚すらないってことですか?

斉藤:そうですね。ここには習慣的な刷り込みがあると考えていて……。私たちは、両親のパートナーシップをロールモデルとして自然と男女関係を学習していきます。

雨宮:はい。

斉藤:そして自分の両親も、彼らの親のパートナーシップを見て、男女関係のモデルを学んできました。

この男女関係というのが、「男尊女卑的な価値観」の上に成り立っていたら、その価値観が世代間連鎖していくのは容易に想像できます。だから、わたしも含めて、この原家族で刷り込まれた価値観の上に新しい考え方を取り入れていかなければならないのだと思います。

■“恐怖”という亡霊が、過剰な攻撃性を生みだす

――男尊女卑的な価値観……というと、女性側だけが被害を受けていると思われがちですが、男性にも男ゆえのプレッシャー、例えば「女性とふたりで食事をする際には、お金を出さなければならない。自分が完璧にエスコートしなければならない」みたいな考え方にしんどさを感じていそうですよね。いまの日本が男尊女卑であることで誰が得してるのかと疑問に思います。(編集部)

雨宮:麻生太郎さん(副総理兼財務相)みたいな方でしょうね(笑)。

斉藤:なるほど……(笑)。

雨宮:麻生さんを例に挙げましたが、世の中の権力を持っている男性には「自分が変わろう」という意識がほとんどない。「女がガタガタ騒いでるだけで、相当運が悪くないとキャリアを失ったりもしない。なんで自分を変えないといけないんだ」と思っているように見えます。今のところ彼らは、変えることによるメリットがないと感じているのでしょう。

斉藤:男性の性暴力問題に関わっている立場から言えば、「麻生さんとかセクハラ疑惑で辞任した元財務次官の福田淳一さんみたいな人たちは、男尊女卑的な価値観を変えないことで、なにを守ろうとしているのか」という視点を持つと本質的な問題が見えてきます。

雨宮:なにを守ろうとしているんでしょうか?

斉藤:男性がもっとも向き合いたくない感情のひとつが“恐怖”なんです。

雨宮:恐怖ですか……?

斉藤:自分よりも立場が弱い存在から、攻撃されたり、排除されたり、自分の存在意義を否定されたりすることへの恐怖ですね。

攻撃的な人・性暴力を振るう人の根底には恐怖の亡霊が住み着いています。本来、この恐怖を認めることができれば楽なんですけど……。男性は“男らしさの教育”の中で、そういった訓練を受けてないんですね。男性の一番のウイークポイントは「自分の弱さを認められない」ってことではないかな、と思います。

雨宮:女性同士だと「怖かったね」という共感の機会はたくさんある印象です。だけど、それを男性が言ったら「男らしくない」とか「みっともない」とか、馬鹿にされたりすることはあるかもしれない。

――例えば会社に嫌な上司がいたとして、女性同士はその人の悪口で結束できますけど、男性同士は、難しそうな気もしますね。(編集部)

雨宮:男性の場合は、その上司のふるまいを、コピーしちゃいそうですね。

あ、そうそう。今回、女性の権利に関わる本を書いたことで、定番のバッシングですが「ブス、ババア」って言われるようになったんですよ。貧困とか、労働問題とかのテーマで執筆したときにはなかった反応が……ホントに突然。

けど「ブス、ババア」って、論理的に見れば中身がなにもない言葉じゃないですか。ようは殴りかかってきてるのと一緒だと思っていて。怖いからそういう暴力を振るっているのでしょうね。
過剰な攻撃性って、恐怖に裏打ちされているなと思います。

斉藤:加害者臨床の中ではそういった恐怖が背景にある「反発」や「抵抗」を重要な反応として治療的に扱います。これらの反応は、その人自身の本質的な部分に触れたときに起こりやすい。

なので加害者臨床の場では、その抵抗や反発が生まれる理由――つまりその人が守りたいものはなんなのかを言語化していくことを、見逃さないように大切にしています。

雨宮:あっ、「ブス、ババア」っていう人たちは変わる見込みがあるんだ。

斉藤:反対に、もっとも変わりにくいのが「無視」なんです。雨宮さんの書かれたような本を目にしても、なんの反応もしない。これは加害者臨床の中で、一番対応が難しい人たちです。反発する人たちは変わる可能性がある。

雨宮:なるほど。話は少し戻りますけど、麻生さんは揺るがないですよね。政治家だから揺るがない自分が訓練されてできているんでしょうけど。

政治家でなくても、あの世代の人たちはなかなか変わろうとしない。でも、変わって欲しいです。変わったほうがきっと本人も楽だと思うんですよ。「偏屈ジジイ」とか、言われるよりも、若い人たちにも好かれたほうが、ずっと楽になると思うんです。本人の幸せのためにも。

【後半はこちら】 「対話」こそが、分断された世界をつなげる「希望」になる

https://p-dress.jp/articles/6953

日本に古くから受け継がれてきた男尊女卑的な価値観、どうすれば断ち切ることができるのか。

取材・Text/大泉りか
編集・Photo/小林航平

雨宮処凛プロフィール

1975年、北海道生まれ。 作家・活動家。 愛国パンクバンドボーカルなどを経て、2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。 以来、いじめやリストカットなど自身も経験した「生きづらさ」についての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。 2006年からは格差・貧困問題に取り組み、取材、執筆、運動中。メディアなどでも積極的に発言。3・11以降は脱原発運動にも取り組む。 2007年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)はJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『「女子」という呪い』(集英社クリエイティブ)、『非正規・単身・アラフォー女性』(光文社新書)。

斉藤章佳プロフィール

精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。 1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症治療施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。著者に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』(ともに金剛出版/共著)、『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)がある。その他、論文多数。

DRESS編集部

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