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「プチ依存先」を増やせば孤独を受け入れられる【生き方は多様化してきたけど、やっぱりひとりは寂しい?】

文筆家の小野美由紀さん、フランスで活躍しているラブジャーナリストの中村綾花さんが「女性がひとりで生きていく」をテーマに対談をスタート。最終回では「ひとりで生きていくためには」を中心に話していきます。

「プチ依存先」を増やせば孤独を受け入れられる【生き方は多様化してきたけど、やっぱりひとりは寂しい?】

■ココ・シャネルが持っていた”静の雰囲気”

DRESS編集部:「孤独」の見え方は、年を重ねるごとに変わってきているものですか?

中村綾花さん(以下、中村):年を重ねるごとに、経験と、行動範囲と、関わる人がどんどん変わってきたことで着実に「孤独」の見え方は変わってきましたね。

自分の視点の位置が変わったり、増えたからなのかな。
日本に住んでいたときに感じていた「孤独」を外から俯瞰して見ることができるようになりました。それから、フランスの中で感じるフランス人独特の「孤独」を、日本人の視点から観察したり、私自身が体感することもできています。

ここ数年でとくにわかってきたのは、日本とフランスでは「孤独」のとらえ方が全然違う、ということでした。そのきっかけとなったのが、シャネルという女性です。

小野美由紀さん(以下、小野):あのココ・シャネルですか?

中村:そうです。世界の女性たちから圧倒的な人気を誇るブランドを作り上げたシャネルについて取材をして本を書いた日本人のジャーナリストさんがいるんですけど。その方がパリで開催した講演に行ったり、出版された本を読んだことがきっかけです。

小野:シャネルってどんな人物なんですか?

中村:貧しい家庭で育って、幼少期から修道院に預けられ、もともと温かい家庭というようなものを体験して育っていない生い立ちがあるんですよ。その後、洋裁学校に通って手に職をつけて、シャネルの発端となる帽子屋をオープンするようになるわけです。
「シャネル」が大きなブランドに育って行くまで、絶えず大物の男性たちとさまざまな恋愛遍歴を経るわけですが、一度も結婚はせず、経済的にも独立した女性として最後まで独身を貫いた方でした。


ただ、シャネルって知れば知るほど性格に動きがなくて、キャラクターが見えてこない人物なんです。それで、そのジャーナリストさんにお会いしたとき「シャネルという女性の具体的な魅力が見えてこない。それなのに、どうして、恋人が切れないんですか?」と、質問したんです。

そしたら「彼女はずーっと孤独のオーラがあった。人がその”静の雰囲気”に惹かれるってことって、あるじゃない?」と。そのときに初めて「孤独」が女性の魅力になると知ったんです。

DRESS編集部:孤独を女性の魅力にすることができる人ってどんな方なんでしょう?

中村:ひとりでいることに慣れていて、静かに考えて、自分に向かい合えるというか。自分を研ぎすましている感じがします。やっぱりここでも、自分の軸を持っている人。誰の真似でもない「自分」というものを。

DRESS編集部:前回の対談でも挙がったテーマですね。

フランスから見た日本の不倫と婚活~中村綾花×小野美由紀【DRESS対談】

https://p-dress.jp/articles/4825

ラブジャーナリスト・中村綾花さんと文筆家・小野美由紀さんが『DRESS』を舞台に対談ををスタート。今だから気になる日本の恋愛についていろんなお話をお伺いしました。3回に渡る本対談。第1回のテーマは「フランスから見た日本の不倫と婚活」です。

小野:自分の孤独を受け入れているからこそ、周囲にはそれが魅力的に映るってことですね。たしかに、人といつも一緒にいるけど弱くて依存的な人より、自分の孤独を受け入れていて強い人の方が私も魅力を感じます。

中村さんはフランス暮らす先達たちの「みんな人は孤独だよ」という教えと、ココ・シャネルの生き方から”孤独は悪いものではない”と気づかれたんですね。

中村:そうですね。あと、フランス人を見ていると、生まれてから死ぬときまで、人は「孤独」というか「個独」だという感じがすることにも気がつきました。集団じゃなくて、結局「個」。

小野:みんな一緒じゃないのが当たり前だから、その分、個としての独立性を受け入れているんでしょうか。

中村:だから、フランス人の「孤独」に対する態度も「孤独は当然じゃん」みたいに向かい合っている人が少なくない。一方で日本人は、怖くて「孤独」から逃げ回ってる感じがするな。

小野:先日起きた「座間9遺体事件(※1)」の件でとくに驚いたのは、自殺願望があって容疑者とコンタクトを取った人々は「ひとりで死ぬことを選ばなかった」ということ。

死にたいと望んでいる人でも、ひとりで死ぬのは怖いと思った。すごく不思議です。本当は死なずに済むために、死にたいという気持ちをわかち合う相手が欲しかったのか。それとも、誰かと一緒なら死ぬのも怖くないと思ったのか。亡くなった方の気持ちはわからないのですが……。

中村:これね、まさに私もこの事件を知ったとき、一番ショックに感じたことでした。ただ、私は小野さんと感じ方は違って「あー、やっぱり人間って死ぬときですら、ひとりで死にたくない。『誰かと一緒に』って、寂しくなっちゃうものなんだなぁ」という、納得感だったんです。

やっぱり人間って、ひとりが寂しいと感じる生き物なんだなぁ、と。だんだん、私と小野さんの「孤独」の捉え方の違いがはっきりと見えてきましたね。


※1:神奈川県座間市のアパートで9人の切断遺体が見つかった事件

■孤独を受け入れるには、協力できる家族以外の存在が必要

小野:孤独って「精神的な孤独の問題」と困った時に誰も頼れない、みたいな「物理的な孤独」というふたつの側面がありますよね。

フランスは社会保障も整備されているし、個人主義だから孤独は悪いものではないという下地がある。けれど日本だと、孤独を悪いものとする精神的な風土の上に、さらに社会保障がヨーロッパに比べて薄いという問題がありますね。

中村:社会がまかなえない分、家族でカバーしろ、みたいなとこまできちゃったのかな? でもその家族ですら崩壊してきちゃってると。

小野:これまでの価値観だと、家族だけが頼れるもので「介護も、看病も、育児も、すべて家族の中でうまくやってね! だから家族大事!」という教えが強い。だからこそ「家族がいないと何かの危機があった時に即不幸!」みたいになってしまう。それって自分たちで自分たちの首を絞めてるよね。


この前、社会学者の熊谷慎一郎先生と対談したんですが、先生は脳性麻痺で小さいころからずっと介護生活だったんです。障害を持った子どもの場合、介護者って基本的に親で、かつ、1対1の関係がデフォルト。しかしそういった閉鎖的な関係は、常にどちらかが支配されやすい構造になっている。だから介護者がストレスを抱えたときに、それを被介護者にぶつけがちになる。

けれど、「医者になるためにひとり暮らしを始めて、20人くらいの介助者と常時ゆるくつながっているようにしたら、支配とか暴力の怖さから抜け出せた」と仰っていました。

中村:ベビーシッターや介護なんかのように、外部のサービスに頼るスタイルはまさに、フランス式ですね。

小野:家族同士の頼り合いは「共依存」になりやすい。だけど、他人同士で協力しあう関係、すなわち依存まで行かない「プチ依存」関係をたくさん構築できたら、苦しさとか、暴力の危険性から逃れられる、と。

中村:負担は分担して、ひとりで抱えこまない。他人に頼る。辛さもシェアする関係を家族以外に持つ、というのが理想ということかぁ。

小野:家族の外からの支え、家族の外に協力できる関係を作らないと、いざというときに支配と被支配の関係性が生まれやすい。
この熊谷先生のお話のように、物理的な孤独による危機を脱するためには、配偶者ひとりに頼り切ることを想定せず、常に多くの人間にちょっとずつ頼れる形態のコミュニケーションモデルを築いていくほうがいいのかなと思います。

ただその他人との協力しあう関係は本音ベースで話し合えることが必須だから、築くには時間もかかるし、ガチで喧嘩するぐらいのことしないと難しい。仕事に追われてると、なかなか作りづらいと思う。定年までガリガリ働いて、ここから友達作るって結構ハードですよね。

でもこれからは、SNSとかWebを使えばそんなに難しいことでもないのかな。

中村:そういえば、こないだパリの地下鉄の駅を出たところに、スタンドがあってまさに、そんなサービスやってました!(※2)


※2:「Lulu dans ma rue

パリにある人材派遣スタンド/撮影・中村綾花

中村:サイトを見てみると、5〜20ユーロの手数料で30分ほどのサービスをもろもろ頼めるらしいです。例えば、子どもの世話、料理、家具の組み立て……とか。いろいろなサービスがあるみたい。パリ市の公的なサポートマークもついてるな。

小野:それは人が派遣される?

中村:そうそう、サービスごとにさまざま人が派遣される派出所になってるみたい。

小野:自分にできないことを誰かにやってもらう、みたいな感覚が持てるかどうか――つまり「物理的な孤独」を人に解消してもらえる気楽さが持てることで、「精神的な孤独」もかなり軽減されると思う。私は他人を適切に頼るのがけっこう苦手なので、すごく課題だなって感じています。

中村:これは、私たち個人個人の「感覚」を努力して変える問題じゃなくて、なかなか人に頼れない人でも気軽に使えるサービスとか、システムというハードの部分が必要な問題だと思いますね。

このパリの路上で見かけた「人間派遣スタンド」みたいなもの、日本でも必要なんですよ。こういう実例のアイディアもあることだし、誰かやってくれませんかねぇ……。もう、だれもやってくれないなら、私と小野さんでベンチャー立ち上げてスタートさせるしかないですかね(笑)。

小野:そうですね。離婚数も増えているし、女性の方が男性より長生きするし、人生のどこかの局面で「ひとり」になる機会って、きっとあると思うんですよ。でも、そんな時に「ひとり」を怖がらずにいられるようにハード面がいかに充実しているかということが、社会の円熟度や幸せ度の指標になるのかもしれませんね。


Text・構成/中村綾花


第1回:家族という檻に苦しむ日本

第2回:結婚しても「ひとり」であることからは、絶対に逃れられない

第3回:「プチ依存先」を増やせば孤独を受け入れられる

DRESS編集部

いろいろな顔を持つ女性たちへ。人の多面性を大切にするウェブメディア「DRESS」公式アカウントです。インタビューや対談を配信。

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